手を引いて
サロメに見送られて、レイジはルキアを連れて商館を後にした。
ルキアは、相変わらずどこか暗そうな表情のまま、荷物の入ったケースを両手で掴んでぶら下げている。
(それで持ち物全部なのか…)
「改めまして、よろしく。不知火レイジだ、レイジって呼んでくれれば良いから」
軽い感じで自己紹介をするレイジ。それに対して、ルキアは主であるレイジへ、深々と頭を下げた。
「ワタシを買って頂き、ありがとうございます。ルキアと申します。どうぞこれから、よろしくお願い致します」
「そ、それだけ?」
「他に何か必要でしょうか?」
きょとんとした顔をして、首を傾げるルキア。確かにそう言われればそうなのだが、もう少しアクセントを出してほしいと、レイジは感じた。
「ほら、種族とか、年齢とか、何が得意だとか」
「…獣人で歳は18で……得意な事は、ええっと…これと言って…」
「そ、そうか。じゃあ、取り敢えず宿に行こう。僕の仲間にも紹介したいし」
仲間にも紹介したい、と言う言葉を聞いてルキアは驚きを見せる。
「えっ、レイジ様にはお仲間がいるのか!?……あっ、うぅん…ですか?」
「あぁ。この世界の色んな所を見たくてあっちこっちを転々としてるんだ。仲間ってのはそれのお手伝いさ。まぁ、転々って言ってもここがまだ最初の所なんだけどね」
転々と言っておきながら、今来ている街が最初の地点であると言う事に、アハハと苦笑いするレイジ。
「そうなのか…あ、なんですか。会ってみたい…」
「堅苦しい言葉苦手なら、無理に使わなくていいよ。別に敬語使わなかったからって、咎める気はないし」
「ほ、本当!……ですか?」
「だから、無理そうなら変に使わなくていいよ。こっちも堅苦しくなっちゃうしさ?」
歳が同じ人に、敬語を使われるのはレイジからすれば苦しい事。
下手に使われるぐらいなら、変に使わなくて良いと優しく諭した。
「け、けど…奴隷は基本的に、敬語で…」
「別にいいって。ほら、行こう」
◆◇◆◇◆◇
「と、言う訳で…」
「皆さん、初めまして。本日より、レイジ様に仕える奴隷になった、ルキアと申します」
「えぇぇぇ!!レイジさん、早速買っちゃったんですか!?」
宿に戻ったレイジは、すぐにサテラと肆式へ、先程購入した奴隷のルキアを紹介した。
サテラは、帰りの遅いレイジがやっと帰って来たので、偽りの無い笑顔で迎えようとしたのだが、レイジの後ろに隠れていたルキアが姿を現して、自己紹介するなり、顔色を強く変化させた。
「あ、あぁ…。無論、戦闘用としてだ」
「わ、分かってますよそんな事…。ま、まぁとにかく…買ってしまったのなら、仲間として受け入れるまでです」
何とか驚きを殺したサテラは若干、奴隷を買ってきたレイジに呆れながらも、一歩ずつルキアと距離を詰めていく。
呆れた姿は、さながら余計な物を買ってきた旦那に怒り心頭する妻の様だ。
「サテラ・ディアと言います。よろしくね、ルキア」
「よ、よろしく………あ、お願いします」
「敬語は大丈夫ですよ。不慣れでしょ?」
ニコッと優しく言い、ルキアの肩へ手を置くサテラ。
今の流れは、非常に尊いものだとレイジは感じた。
「ワタシハ、ヨンシキ。アラタナゴエイタイショウヲカクニン」
「ま、魔導兵器?」
ルキアは、肆式を見上げながら、全身を観察する。
「まぁそうだな。拾ったんだけど」
「初めて、見た…」
「ヨロシク」
三本指のマニュピレーターをルキアの腕の前へと差し出す肆式。
ルキアは、多少戸惑いながらも、肆式のマニュピレーターを握った。
「よろしくね、肆式さん」
◇◇
「お待たせ、晩飯買ってきたぞ」
仲間達の紹介を終えたレイジは、街へと向かい、全員分の晩御飯を購入。
そのまま部屋へと直行した。
「あ、ありがとうございます。レイジさん」
買ってきたのは、パン生地に肉と野菜を挟んだ物と骨付きの肉。両者共に、簡単な料理ではあるが、中の具が溢れんばかりにボリューミーで、食欲をそそる。
早速、レイジはサテラとルキアに買ってきた料理を手渡した。
買ってきた数は全部で六つ。腹を膨らませる為にも、一人二つずつの計算だ。
「え、ご飯。くれるのか?」
料理をルキアに手渡すなり、ルキアは自分も食べてよいのかと聞いてきた。
まさかの質問に、首を傾げて返答するレイジ。
「当たり前だろ、何の為に人数分買ったんだよ」
「あ、ありがとう……ございます」
(はぁ、奴隷ってのはやっぱこうなのかねぇ。取り敢えず、いただきます)
奴隷には飯をやらないと言う行為に、謎のデジャブを感じつつも、レイジはパン生地に齧り付いた。
「おぉ、美味いなこれ」
「美味しい……。味がするぞ!」
ルキアも、レイジが一口食らうと、彼の真似をする様にして同じ様にパン生地に齧り付く。
すると、目の色を変えて、非常に嬉しそうな表情を浮かべながら、物凄い速度で、パン生地と具材を口の中へと放り込んでいく。
「美味い!美味い!何だこれ、こんなの!」
(相当腹が減ってたのか、それとも美味いものを食ったのが久しぶりだったのか…)
肉と野菜を挟んだパンだけでなく、骨付き肉にもがっついて齧り付くルキア。
お世辞にも食べ方が綺麗だとは言えないが、相当お腹が減っていたのだと思い、レイジはあえて何も言う事はしなかった。
「ルキア、喉詰まりますよ」
「だいじょ、ゴフ!ゴフ!」
言わんこっちゃないとレイジは嘆息した。
「あぁ、もう!お水飲んでください!」
慌てて、サテラが水筒をルキアに手渡し、ルキアはゴクゴクと水で詰まりそうになった物を流し込んだ。
「誰も取らないし、落ち着いて食べなよ」
と骨付きの肉を食べながら、レイジは軽く笑みを零すのだった。
食事シーンの描写、書くの難しい。