四人目
「では、手続きの方を行います。ルキア、ご主人の前へ」
「はい」
大人しく指示に従い、ルキアはレイジの前へと立つ。
(うぁ、近くで見るともっと美人)
近くで見ると、ルキアの美しさは更に力を増した。髪はサラサラで、絹の様に触り心地が良さそうであった。
肌も綺麗で、目鼻立ちも否定する部分が一切無い。こんなに可愛らしく、妖艶な女性を奴隷に出来たと言う事実に、レイジは思わず、これが現実なのかと疑いたくなった。
「レイジ様、再三確認致しますが、奴隷をお買いになるのは初めてですか?」
無論、今まで買った事も現実で見た事も無かった。当然ですと首を縦に振るレイジ。
「ルキアも、奴隷になって買われるのはこれが初めてです」
「ご、ご丁寧にどうもありがとうございます」
「では、最後に…。隷属魔法の方を使用します」
「えっ…」
すると、レイジの返答を聞く暇も与えずに、右手をルキアの胸の方へと突き出すサロメ。
「ちょ、隷属って!」
「レイジ様、奴隷商は基本的に使用が禁止されている「隷属魔法」の使用が許可されています。こればかりは義務なので、口を挟まない事を切に願います」
ゴクリと喉を鳴らし、恐怖からか身を震わせて瞳を閉じるルキア。
可哀想になったレイジは、止めようとするも、サロメに「義務」と言われてしまい、その場から石像の様にして動けなくなる。
「…スレイブドミネート…」
魔法っぽい言葉を詠唱すると同時に、ルキアの体を暗色の稲妻の様なエフェクトと光が包み込み、まるで食らいつくかの様にして、その身に纏わりつく。
「ぐっ、あっ……うぁぁぁあ」
苦しみ出すルキア。胸を手で押さえながら、その場に膝を着いて、ガタガタと震えている。
「ちょ、おい!」
「大丈夫です、死にはしません」
「が、がぁぁぁ、がぁぅぅう!」
止めるべきかと迷ったレイジだが、サロメは死なないと豪語した。
更に、レイジは今目の前で起こっている出来事を止める術を知らない。
魔法なんて使った事がない。異世界に来て、城で訓練をしていた時に、魔法に関する勉強や魔法使用の訓練をせずに銃ばかり撃っていたレイジは、思わず過去の自分を恨みたくなった。
「ぐぅ、ぐはぁ、ぁあ……うぅ」
数秒後、暗色のエフェクトと光は完全に消滅する。
それと同時に、ルキアは肩で呼吸しながら、立ち上がれずにいた。
「では、レイジ様も…」
「え、僕も!?」
痛いのは嫌だ!と心の中でごねるレイジ。
しかし、レイジの予想に反して…。
「はい、終わりです」
サロメがルキアの時と同様に、手を突き出し、レイジの胸へと手を当てると、サロメは目を閉じた。
そして、数秒も満たない内に、彼女は手を離した。
「隷属魔法の施術、完了しました」
「今ので…」
レイジは白いシャツのボタンを外して、サロメに触れられた場所を確認する。
「あっ」
触れられた場所には、目立つピンク色の小さな紋章の様なものが刻まれていた。
これが主従関係、隷属の関係にあると言う事を堂々と宣言するかの様だ。
「これで、レイジ様はルキアに好きな様、ご命令が可能となります。逆らう事は不可能、もし逆らえば先程の様に藻掻き苦しむ事となります。最後に、隷属魔法の解除は奴隷を売る時、もしくはレイジ様がお亡くなりになった時にしか出来ませんので、ご注意を」
「何かタトゥーみたい」
真面目に説明してくれているサロメを他所に、レイジはあまりに的外れな感想を言い放った。
「…命令を発する時以外は、見えなくなっているのでご安心を」
サロメの声に、僅かだが怒りが乗っていた気がしたレイジだったが、深く気にしなかった。
「コホン、これで契約及びご購入完了です。先に表へ出てお待ち下さい。ルキアに個人の荷物を準備させます」
しかし、何はともあれルキアの購入には成功したレイジ。
即ち、ルキアはレイジの所有物。もう誰にも取られる事はない。
明日、買いに来る予定であった貴族の男にも取られる心配は無いのだ。
取り敢えず、寝取られの不安が無くなり一安心するレイジ。
先に外で待っている様に言われ、レイジはルキアに一言だけ挨拶して、奴隷商館の外へと向かった。
「じゃあ、また後で」
自然な笑顔で、後で会おうと優しく言うレイジ。
それに対し、ルキアは少々困惑しながらも、コクリと頷いて、頭を下げたのだった。
◇◇
「レイジ様。この度は当館でお買い物をして頂き、誠にありがとうございます。また機会があれば、当館へ足をお運びください。我々一同、いつでもお待ちしております」
商館の前で待つ事、約五分。荷物を一つの手持ちケースに纏めたルキアが、サロメと共に商館の外へと出てきた。
サロメは、自身の商館で買い物をしてくれたレイジに感謝を述べる。
そして、ルキアの肩を掴むと小さく告げた。
「こんなに良いご主人に買ってもらった事を、幸運に思いなさい」
それに対し、ルキアは口元を緩めて、コクリと頷いた。
「ではレイジ様。またのご利用をお待ちしております」




