間章 枯れぬ正義
『チェス』を後にした刑事は公園で一服していた。
この男の名前は風上譲、今年で三十歳になるオジサンである。
同僚からは若輩ダンディズムというあだ名を付けられるほど、少し老けている。
そんな男が平日の昼下がりに公園のベンチで一人タバコを吹かしていると、妙に哀愁を漂わせる。
こんな男が刑事と思う人間は誰一人といないだろう。
「ふぅー クロには伝えたし、後は自分で動くだけか~ ほんとダルイ」
「あー 先輩見つけましたよ!」
譲に向って声を上げるこの女、名前を馬場都という二十三歳女性、トレンドマークはハーフ故の金髪だ。
都はベンチで黄昏れている譲の前に立つと、慣れた手つきで咥えているタバコを取り上げ地面にたたきつけて靴でタバコを踏みつけて火を消す。
「あーもー 人の楽しみを奪う事ないじゃん、都ちゃんはちょっと焦りすぎ。本番じゃ苦労するよ? 相手の事も考えなきゃ」
譲の言葉に都はこめかみの辺りをピクつかせ、額には青筋を浮かばせて、「何でいっつもそっちに話を持って行くんですか! 私の彼は文句一つ言ってきません!」とややズレタ反論をする。
「えぇー 都ちゃんに彼氏が居たの!」
「意外だ! って顔しないでください! 私だってもう二十三なんですから、彼氏ぐらいいます」
「いいなー 僕も早く伴侶見つけないとな」
「先輩、それよりも部長が怒ってましたよ。また譲はサボりかぁ! って」
「はは、雅さんは大丈夫。慣れてるだろうから」
「はぁー 怒られるのは私なんですよ? でも仕事は上手くいったようですね」
「まぁね、本庄君も動いたようだし。後は僕らがやるべき事をやり遂げるだけさ」
譲は今まで腑抜けた瞳だったが、今は強く意思が光っていた。
都は、ホッと胸をなでおろす。
やっとやる気になってくれたのか。と安堵したのだ。
「それよか、都ちゃんの方も上手く行ったんだよね?」
「勿論です。予定通りに事は運べるかと」
「ならいいや、そろそろ僕らも動き出そうじゃないの」
ベンチから立ち上がり、譲と都は公園を後にした。