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第2話

「大体さ~~亜里沙も薄情だっちゅーの。うわっ、古っ!つかさ~、普通親友が落ち込んでたら優しく慰めてくれるもんじゃない?なーーーーーーにが『じゃ帰る。へ?私これからデ・ェ・ト♪ごっめーん♪』よ!失恋した人間に言う言葉?ねぇ?!」


私はフラフラブツブツと帰り道を歩いていた。

駅から徒歩12分のワンルームマンションは酔っ払いには微妙な距離だ。

千鳥足のまま通いなれた道を歩いていたのだが、ふといつも通らない小さな路地が目に入った。


「んーーー?こんな道あったっけーーー?」


気の迷いというかなんというか、今なら全力で引き返せ!と怒鳴るところだが、

酔い覚ましに行ってみるか~なんてのん気な事を思いついちゃう酔っ払い。

あなどるなかれ、酔った私は無駄にアクティブだ。


「すんすんすーん♪おしりをフリフリ歩くのだ~探検隊は今日も行く~~っと」


そりゃもう適当に歌いながらフラフラ歩く。

左右の住宅の塀に挟まれる程よい圧迫感と歌声の反響が、なにやら気分を高揚させる。

ご近所さんにはさぞ大迷惑だったであろう。


と、右手に木々と赤い鳥居が見えた。

ほー?

こんな住宅地ど真ん中に神様??


近くに行って見ると赤の塗料がはげまくったいかにも古い小さな鳥居だ。

伸びっぱなしの木々に囲まれ雑草ぼうぼうの細い参道が10Mほど続き、小さく見える社殿はこれまたボロボロ。

ご神体がいると思われる木造の社は戸が半分落ちかかってるし年月を感じさせる木の壁はパンチ一発で簡単に大穴があきそう。

神がいるってよりお化けが出そう。

なんだろ。周りの立派な住宅群にまるっきりそぐわないボロ神社だ。


時刻は真夜中。

誰もいない神社ボロ


ピコーン。


「ふふっ、ふふふふふふふふ」


私のアルコールに侵されたお馬鹿脳が弾いた答え。


「丑の刻参りじゃー!!!」


ああ、ホントにあの時の私を張り倒してやりたい。

うら若き女性が考え付くことでもなきゃ、おどろおどろしい神社に鼻歌ツーステップで入り込んでる場合でもない。


「たのもーう!」


朽ちかけた鈴をガラガラ鳴らす(ガラガラではなくガゴンガゴンって音がした)。


「どーだっけー?5寸釘ー?ないじゃん!手で良っかー」


しゃがみ込んでこれまたボロイ賽銭箱の壁をトントン叩く。


「神様ー聞いてますかー?天罰を与えてほしい男がいるんですよー。超特大の天罰お願いできますかー?今の私の苦しみをそいつにも思い知らせてやりたいんですよー。あ、そいつ啓介っていうんですけどねー?色黒で夜だと歯しか見えない奴がそうですー」


話してるうちにテンション上がってきた。

賽銭箱をドンドン叩く。ミシミシ音がするような?ま、いいか。


「あの野郎4年付き合った私より後輩の可愛い子がいいっていうんですー。『お前といると楽しいんだ』なんて言ってたくせに別れるときなんて『ウゼェ』ですよ?信じられます?ゴッキー見るような目ですよ?!4年も付き合った女にですよ?!!」


気づいたら賽銭箱をガッシリ掴んで揺らしてる私。


「私が何したってのよ!アンタの重荷にならないように会えなくても我慢してたのに!あんたが好きだって言ってんのに次の男見つけろなんて軽く言わないでよ!!私が強い?アンタがそう望んだから強い女でいたんだっての!!死にやがれ、浮気野郎ゴルア!!!」


賽銭箱は振ってもあまり音がしない。

中のなけなしの小銭の音がチャリーンと寂しく鳴った。


「信じてたのに・・・」


亜里沙に聞いていた。

啓介が別の子と一緒に歩いてるの見たって。

他の友人からもサーフィンで啓介と仲良くしてる女の子がいるって聞いてた。

なんか2人の雰囲気が良い感じでヤバイって。


私やだったんだ。

人の気持ちは自由だから啓介を縛り付けたくなかった。

それに私達には4年の絆があったから大丈夫だって自分に言い聞かせて何もしなかった。


その結果がコレ。


笑っちゃう。啓介は私よりその子を選んだ。

なんで話を聞いたとき啓介と向き合わなかったんだろう。

なんで私だけ見てて欲しいって伝えなかったんだろう。

変に大人ぶって物分りいいように振舞って。

こうなったって仕方ない、自業自得だよ。


「ひっく、っく、うえぇぇーーん!!」


真っ暗なボロ神社に私の泣き声が響き渡る。

私は別れたあの日から流さなかった涙をこれでもかというくらい零した。

子供みたいに泣いて泣いて泣きまくって賽銭箱や社を叩きまくって落ち着いた頃、バックを開けてハンカチに包んでいたものを取り出す。


「なんか落ち着いたかも。神様、これあげる」


奇跡的に無事だった賽銭箱に一つづつ落とす、ピアス、腕時計、ネックレス、・・・指輪。

4年間でお金の無い啓介が私の誕生日に買ってくれたプレゼント達。

捨てられず家に置いておくのも嫌で持ち歩いてた。

ホントに柄じゃない。


なんとなくココにこうして居るのにも目の前に賽銭箱があるのにも運命を感じてしまう(アルコールが抜けてないから)。

神のお導きってホントにあるのねぇ。うんうん。


もっと強くなりたい。

啓介のことなんてさっさと忘れて次よ次。

どんなことにも揺るがないくらい強く。

振った事を後悔させてやるくらい。

自分の足でしっかり立って歩けるように。

もっと女を磨いて私だけを見てくれる良い男を見つけて幸せになりたいから。



「なーーーーんてねぇ!今私良い事言った!!すごくない?!キャハハハハ!!」



酔っ払いなんてこんなもんである。

賽銭箱をバシバシ叩き、ボロボロの鈴に掴まって身をよじっていて綱が切れたのは覚えてる。

それすらひたすら可笑しくて地面に転がって汚い鈴を抱きしめる。

取れかけた戸の隙間からご神体かな?

丸くて薄汚れた鈍い光を放つもの、鏡っぽいのが見えた。

ああ、なんか神様に見守られてる気がしていい気持ち。

ボロイのもお化けが出そうなのも気にならない。

眠くなった私はそこで意識がフェードアウトした。


酒は飲んでも飲まれるな。


何度後悔しても後悔したりない。

神社に罰当たりな事をしまくったせいか、人を呪おうとしたせいなのか、全部ひっくるめた私自身の因業なのか。



あっちの私の記憶はここで途切れており、その後どうして這ってでも家まで帰らなかったのか私は死ぬほど後悔するのである。

こんな娘ですいません。いやほんといろんな意味ですいません。

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