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第17話

一夜明けて。


ラジェス達との友情を再確認した私はフォルクマール達の様子を見に行くことにした。

彼は結界にいる人たちと合流して野営地に戻ると言っていた。今頃ならそちらにいるだろう。

彼らが今後どうするか聞いて、出来るなら行動を共にしようと思う。ここまで関わった以上彼らが被害にあうのは寝覚めが悪い。私が居ることで相手を牽制し彼らの危険が減るのなら、出入り口まで送りたい、そう考えたからだ。

それもフォルクマールが私の同行を許したら、だけど。もし断られたらこっそり距離を空けて付いて行けばいい。


ラジェスは私がそう言うと渋い顔したけど、好きにしろと言った。

役目があるラジェスは仲間達の元から離れられないけど、私にはロボ君が付いてきてくれるという。「お前は目を離すと碌なことをしない」って言うのがその理由。ロボ君もこっそり頷いていた。失礼な。

万が一ラジェスが反対しても行くけどね。

遠出なんてしたことないし、箱庭の出入り口見てみたかったんだ。そこから街並みとか見えないだろうか?ヴェラオ達に会っても彼らと一緒にいればそうそう襲われることはないだろうし、何よりこの世界の人間に興味がある。

フォルクマールが討伐隊の仲間に私の事どう話してるかわからないけど、世界がどうなってもいいって好戦的な奴が彼らの中に居ないことだけを祈るよ。


獣道をロボ君を引き連れ腹ごしらえしながら歩く。

ラジェス達に安全な木の実を教えてもらったので生で食べることも出来るようになったんだ。エッヘン。

焼いて食べるのも不味くはないけど果物は生が一番だ。

シャリっとした食感とジューシーな果汁。このゴーヤ似の緑色の実は梨の味。ああ、なんて幸せなんだ。

誰だ何でもかんでも焼けとか言った味覚音痴のバカは。


ロボ君にも一応差し出したが断られた。やっぱり。狼って肉食だもんね。

そうだ!と思い立ってフォルクマール達の分も集める。

この緑の実は樹上のかなり高いところに生るから人の身長では採るのに苦労するだろう。

結界に押し込められた人だけじゃなく、野営の場所に残して来た人が怪我人ばかりなら食べ物に困ってるかもしれない。


いつもよりちょっと重いから羽2つに蔓をたすきがけ。蔓と葉でくくって覆ったゴーヤもどきを、爪で切って作った板を渡した背中に担ぐ。簡易リュックだ。残りの羽4枚で落ちないよう覆えば完璧!

見た目、二宮金次郎みたいだが気にしない。鼻歌で歩くとロボ君がため息をついた。


『マツリ、リュウ、シナイヨ』


多分、竜はそんなことしない的なことを言いたいらしい。


『便利だからいいんだよ』


私は気にせず北東側の森の木々に目を凝らす。湖から西2カスタ(2キロ)って言ってたからここからも2カスタ程かな。

意識するとチラチラと木々の隙間に地に横たわる人に手を差し伸べてる人や忙しく動いてる多数の人影が見える。


『ロボ君、行こう!』私は軽々と地を蹴った。トン、タン、トンと飛ぶように森を行く。

ロボ君も狼では一際大きい体格だから私に負けず風のように速い。

2匹の獣が森を行くのに足音も地響きもしない。精霊が力を貸してくれてるのか、風の抵抗は全くなかった。むしろ頬を撫でられてるみたいな優しい感触だ。

体に風を感じるのが楽しいなんて向こうでは考えたことなかったな。

こうやって走るのは好き。空を飛ぶのも下さえ見なきゃ実はとっても気持ちいいのだ。



調子に乗って走ってたから私達は彼らの野営地にすぐに着いてしまった。

音もなくすごい勢いで近づいてきたんだから驚くのは無理もないんだけど。


「竜です!竜が来ました!」

「馬鹿な?!フォルクマール様にお知らせを!!」

「ち!こんな時に!!」


・・・お~~~~~~~い。

私達はお約束というかなんというか、何重にも囲まれて武器を突きつけられてしまった。ロボ君は歯を剥き出して彼らを威嚇している。その彼を宥めながら私は周囲を観察した。

1、2・・・・・・10の天幕が並ぶ開けた空間だ。緑色の天幕はどことなく迷彩服を思わせ、軍隊っぽい。所々で煮炊きの煙が昇り、薬草を煎じたような匂いが辺りに立ち込めている。私達を囲んでる人間たちは白の鎧姿で統一されていた。持っている武器に嫌な感じはしないから野営地に残されていた兵たちなのだろう。私の姿を知らないのも頷けた。10も数があるのに天幕からあぶれてしまったらしい地に横たわる怪我人達。数が足りないのか包帯や薬の処置が追いついてないようだ。意識があるものは必死に私達から逃れようと這ったまま後退する。怪我が酷くなるから動かないで欲しい。ものすごい悪者になった気分だ。


・・・タマ、かなり暴れたの?

ざっと見渡すと思った以上に人数が多く200人位いる。湖まで来たのが20人ちょいだから・・・ああ、ほぼ隊一つ崩壊させたようなものじゃないか。タマの馬鹿。

イクラちゃんにも来て貰えばよかった。水のないところは苦手な彼女だから、今回は声をかけなかったのだ。彼女は見た目からしてぬめった感じだが、癒しの力を使わせたら右に出るものはいない。

手を当てられるだけで傷が治っていくんだから初めて見た時は感動したものだ。オリちゃんに襲われた後何度彼女にお世話になったか。うん、納豆のようなぬめりさえ我慢すればあの手はすごいのだ。ちなみに体の中の病気はイクラちゃんも呪文を使うんだって。


と、いけない。いつまでもここで武器を突きつけられてるわけにもいかない。


『グルルアガアァ(フォルクマールいる?)』


私が一番前に居た若い兵士に話しかけると一斉に彼らの体が強張る。若い兵士はガクガクと四肢を震わせ今にも倒れそうだ。そんなに怖いかなぁ。何もしてないんだけどさ。

そういえばフォルクマールとペーター以外話し通じないんだっけ。面倒だな、もうっ。


私は息を吸うと『グラララアァァルル!(フォルクマールー!)』大声で鳴いた。

ビリビリと木々が振動する。おし!


兵士達から短い悲鳴や息をつめる音が聞こえた。至近距離で叫んじゃってごめんね?

伝令から聞いたのか私の呼び声が早かったのか。

かくして一番奥の大きな天幕から慌てたフォルクマールが走り出てきた。


「神竜様?!」


会議でもしてたらしい。続いて奥からワラワラとどっかで見たような顔が出てくる。

ああ、ドラゴン武器持ってた人たちか。

彼らの登場で私の周りの兵士たちはホッと安堵の息をこぼした。


「何かあったのですか?!申し訳ありません、天幕の周囲に簡易結界を張ったもので気づくのに遅れました」


そう言って片膝をついて礼をとるフォルクマールに後ろの者達も倣う。彼らは話を聞いたのかもしれない。そういえば他人の前では態度を改めると言ってたっけ。堅苦しい言葉遣いに苦笑する。

驚いているのは現在進行形で武器を突きつけている兵士達だ。どうしていいかわからない様子で、私達とフォルクマール達を何度もチラチラ見ている。


「武器を下ろせ。神竜様の御前である」


フォルクマールのすぐ後ろに控えてる中性的な茶髪のロン毛が低い声で指示を出す。

その声に飛び上がった兵士たちが次々に武器を納め平伏していった。上から見るとウェーブやってるみたいだ。

・・・これどこの時代劇?どうせなら「ははぁ~」って奴も見てみたかった。



『もう話は終わった頃だと思い寄ってみたんだ。今後どうするか決めた?』


気を取り直して話しかけた私にフォルクマールは剣の柄を握ると『こちらへ』と私を野営地の奥の空間へ招いてくれた。モーゼみたいに割れる人垣に、ちょっと感動しながら彼の後を追う。

後ろで大勢の兵士のざわめきが聞こえ、「静まれ、説明する!」と彼らを集める声がした。これから話すんだね。ちょっと早く来すぎたなぁ。



きっちり30m程離れて様子を窺う兵士達の中、招かれた場所でロボ君と2人、後ろの荷を降ろす。

フォルクマールは蔓を羽から外そうと悪戦苦闘してる私の格好に呆れ顔だ。


『神竜が、そんな姿で何を?』


爪で蔓を切らないように細心の注意を払う。見かねたロボ君が片側の蔓を口にくわえて引っ張ってくれた。サンキュなのだ。


『落とさないよう慎重にしてるんだから、もう少し待って』


フォルクマールも見かねたのかもう一方の蔓を引っ張ってくれる。

3人がかりで悪戦苦闘して、ようやく蔓がゆるみ荷をドサンと地に置くことができた。はぁ、なんかヨガの境地だった。


『で、これは何だ?』

『いいものだよ♪』


私はいそいそと包みを解く。出てくるのはゴーヤ風梨もどき。


『これ・・は』

『怪我人がいるって聞いたし食べ物にも困ってるんじゃないかと思ってお見舞いに。これラジェスが栄養のとってもある実だと教えてくれたから。美味しいよっ!』

『ケールの実だ』

『ケール?』


青汁の素にもなる緑の葉っぱが浮かぶ。


『貴重な実だ。栄養価が高く癒しの効果があるという。それがこんなにたくさん・・・我らにとって何よりの見舞いだ。ありがとう』


フォルクマールは頭を下げた。うん、良かった持ってきて。私も嬉しくなって笑う。

それを見たフォルクマールも薄く笑うがすぐまた真剣な顔に戻る。


『すまない。上の者から下の者へ説明できるよう話している最中だったのだ。下の者はお前のことは知らないため、また失礼な事をしてしまった。許して欲しい』


深く謝るフォルクマール。私は彼に謝ってもらってばかりだな。

気にしてないことを彼に告げ、早速人を呼んでこの実を怪我した人中心に配ってもらう。

向こうで歓声が上がるのを私は笑いながら眺めていた。喜んでもらえると私も嬉しいんだ。


『で、これからどうするか決めたの?』


私の問いにフォルクマールは困った顔でまだ結論が出ないと言う。

彼らは怪我人が多いのでここを動くのももうしばらく先にしようと思ってたらしい。大多数が動けるようになれば出入り口に移動し、外の境界の町で彼らを解散。動ける者たちで王都に戻って討伐隊を再編成するか取って返して箱庭を再び探索するかで意見が分かれているという。


『俺としては残った者で原因の究明調査をすべきだと考えている。相手がドラゴンアームズの必要な相手なら王都まで戻る利益がない。時間の無駄だ』


よくわからなかったので彼にどうしてか聞いてみる。

ドラゴンアームズは高いと聞いたが数の少ないレアな武器らしいのだ。コンラドゥスで掻き集めた数がやっと14。その中には、裕福な貴族が金に飽かせて購入した武器を人に譲ったり貸し出すのを嫌がり、今回の討伐隊に渋々ついて来た使い手もいるらしいのだ。命より金かと呆れたが、無事に王都に帰りついた先の名誉や、王子という彼自身とのコネが彼らは欲しいのだと彼は苦く笑う。

だから戻ってもこれ以上武器を集めるのは困難らしい。そこら辺の武器屋で売ってる物じゃないんだね。


『今回のことで怖気づく者達がいる。彼らは王都に帰るべきだと言って聞かない』


悔しそうに言うフォルクマールの横顔を見つめる。

きっと、その金持ちボンボン達が駄々をこねてるんだろう。頭に浮かぶのは狂信的に彼を見てた一部の男達。あれかもね。イメージピッタリ。


『大変そうね』


しみじみ言った私に彼は首を振った。


『良くあることだ。結論が出なければ隊を2つに分けることも考えているし、俺は自分のやれる事をやるだけだ。ヴェラオ達がこうしてる今も被害にあってなければいいのだが・・・』


そう言って彼は視線を森に向けた。彼の淡い金髪が風に力なく吹かれてゆらゆら揺れた。


フォルクマールは決して悪人ではない。彼は与えられた役割を真摯にこなそうとしている。

相手が不明な以上ハッキリ言うことは出来ないけど、もし竜が犯人だとしたら。

今まで人間に迫害されてたという竜。ならば今回の事件は積もりに積もった人間への恨みや復讐が根底にあるんだろうか。私は彼に何と言ったらいいかわからない。一応私も半分竜だからね?どちらの気持ちもわかるんだよ。重い空気が流れた。


「失礼します」


急に割り込む声があった。振り向くと、あ、さっきの低い声の人。


「フォルクマール様、皆へ神竜様のことを伝え終えました。・・・一つ問題が」


言いにくいのか彼はこちらをチラリと見て頭を下げるとフォルクマールに耳打ちする。

嫌な予感。私の耳の良さは並じゃないんだ。




「ローゼル様が偽の神竜だと騒いでおります」



名前を聞いた途端険しくなるフォルクマールの瞳。

やっぱり。

私は大人しく私の足元に寝そべっていたロボ君と思わず顔を見合わせた。

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