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第13話

※後半残虐表現入ります。ご注意ください。

気を取り直したのはフォルクマールが早かった。

私もその様子にドキリとする。やだ私何楽しそうにしてるのよ。そんな場合じゃなかったのに。タマが来ると無理やり奴のペースに巻き込まれてしまう。くそぅ。

彼は何度かためらった後、タマの方を向いた。


『お許しください。我らは知らなかったとはいえあなたの聖なる竜に剣を向けるなど愚かな真似をいたしました。深く不徳をお詫び申し上げます』

『ああ、今後同じことがなければいい』


タマの答えにホッとするフォルクマール。キュと唇を引き結ぶと、『ありがとうございます』そう言って深々と頭を下げた。

肝心の神はこんなだし、神の竜って言ったって私もさっぱり自覚なんかないし。

別に何にも偉いことしてないから敬われる必要ないように思うんだけどなぁ。

フォルクマールが私の方も向いた。


『貴方にもお詫びを。度重なる非礼を深く恥じ入るばかりです』

うん。決めた。

『そう思ってくれるなら一つお願いが』

『なんでしょうか?』

『普通に話して欲しいかも。敬語苦手なの』

『それは・・・』


フォルクマールは何やら困った顔をした。タマが口を挟む。


『茉莉、お前がそう思っても他者はそう見ない。大きな力を持つ者はそれに付随する責任を持たねばならない。

立場を明確にすることは不要な混乱を避けるためにも必要だ』

『だけど私、竜ってだけで別に何もしてる訳じゃないし。それなのに敬われるなんて気持ちが悪いっていうか落ち着かないよ』


何よりフォルクマールはタマの苦労を分かち合える唯一の人だ。

タマ繋がりってのも悲しい話だが、出来れば仲良くなりたいのに敬語で話されるなんて壁があって寂しいではないか。

そんな気持ちが伝わったらしい。何か決めたような顔でフォルクマールが私を見上げた。


『では他者の目がない時だけそうさせていただきます。それでいいか?』


最後、敬語抜きで話してくれた彼に私は喜んで頷いた。ありがとうフォルクマール!

彼は優しい瞳で微笑んだ。すぐに真面目な顔に戻ってしまったが。

え??微笑む・・・笑った?!私はマジマジと彼を見る。

彼が私の前で笑うのは初めてだ!!

ずっと敵意を向けられて険しい顔ばかり見てたから、雷に打たれたような衝撃を受ける。


フォルクマールは再びタマに向かうと凛とした表情でもう一度跪き、深く頭を下げた。


『貴方様にお願いしたき儀がございます。なにとぞ怒りを治め、わが民ヴェラオの者達が箱庭に入ることをお許しください。

すでに度重なる不幸でヴェラオの者達は箱庭に入ることが出来ず、彼らの生活は困窮してきております。

箱庭の恵みは我ら人間にとってすでに生活の一部でございます。

災害が続き国の食料庫にはわずかしか物資がなく、箱庭の豊富な食料が得られないならば近隣諸国と食料を巡る争いが起きましょう。

また、火石や風石など箱庭でしか採れない玉は魔法を使うことの出来ない下々の民たちの生活にも深く浸透しているもの、それが供給されないならば国全体のいえこの世界全体の混乱を招きましょう。

目障りかとは思いますが、二度と聖なる竜を襲うような事がないようヴェラオ達には徹底いたします。

我らに出来る償いならばお心に沿うよう尽力することをこの聖剣ディヌスにかけて誓います。例えそれが我が命を差し出すことも厭いません。

何卒、民達のため、世界の安定のためにお許しください』


タマはその首をタマに差し出すように下げている彼を無表情で見つめて返事もしない。

私はただただ驚くばかりだ。彼のせいではないのに。王子様って民たちのためにこんなことまでするの?

昔話や小説だって玉座に踏ん反り返る悪い王様や王族なんていっぱい居たのに。

彼が民たちや世界のため命を差し出してもいいと言ったのは本気だろう。その潔い態度は現代人の私には馴染みがない。

戦時中の特攻隊とかってこんな感じだったのかな?彼からは信念と揺ぎ無い意思が伝わってくる。

それほどの覚悟を見せたフォルクマールの重い言葉を無視する気か?!


『タマ!!もういいよね?私に何もなければヴェラオの人たちに悪さしないよねっ?!返事くらいしなさいよ、耳くらいあるでしょ?このボケ神!

フォルクマール、わかったからもう頭を上げて!私は平穏に過ごせればそれでいいから。タマにも何もしないように私から言い聞かせるから!ね?!タマ!』


私は焦ってしまい、悪さした子供の母親みたいにペコペコ頭を下げた。

タマは私の数倍以上(下手したら何十、何百倍以上)年上な筈なのになんで私がと思わないでもないが、この深刻な空気の場を早く収めたいのだ。

そんな私にタマはもう一度ため息を付く。


『お前いい加減にしとけよ?』


そう言って奴はデコピンを私にくらわせた。

ギャャーーーーーーーーーーーース!!!

痛いんだよ、これすっごく痛いんだよ。いつまでもビリビリするんだよ。ひでぇ。

私が転がって痛がる様にフォルクマールは真っ青になった。私を気の毒そうに見て自分のせいだろうかと悔やむ瞳が心に痛い。

違うよ、フォルクマールのせいじゃないんだよ。タマが沸点低いドS野郎なだけなんだよ。

涙目になりながらグーっと彼に親指を上に立てて笑ってみせる。大丈夫なんとか堪えた。まだ生きてる。

ちなみにこのThumb up、異世界で通じるかどうかは不明だが。


『ったく、お前ら2人とも不敬で宇宙空間にでも放り込んでやるか?俺をなんだと思ってやがる』


タマは不機嫌全開だ。辺りにパキンパキンと音がする。ラップ音?怖っ!

額を押さえて蹲りながらタマに噛み付く。


『なんで私がデコピンなのよ?!悪いのあんたでしょうが!』

『なんで俺なんだよ。アホらし』

『アホらしい?!どの口が言うんだこの野郎!!あんたが過剰な仕返ししてるからでしょ?!人でなし!』

『確かに人じゃないな』

『あ、そか。神でなし!』

『そうじゃない』


ほとほと呆れたと悲しい雰囲気でタマが頭を振る。


『お前は頭の回転が速いときと超絶に遅いときがあるな。肝心な時のその鈍さ、なんとかした方がいいぞ?』

『話そらすな!』

『逸らしてるのはお前だろ?俺はに・ぶ・いと言ってるんだ。理解できたか?』

『何度も言うな!私が鈍くて誰に迷惑かかるっていうのよ!ほっとけ!』

『救いがたいな』


タマめー!頭の中で地団太踏みながらタマを罵倒する。そもそもアンタがっ!!

ズキズキ痛む額が、タマを許すなと言ってるようだ。

まだまだ続く口喧嘩を遮り、黙って何か考え込むように成り行きを見ていたフォルクマールが口を開いた。


『失礼だとは承知の上で神にお伺いしてよろしいでしょうか?』

『ふーん、ま、いいか』


そんなフォルクマールの真剣な様子を面白そうに見てタマが偉そうに承諾する。


『ありがとうございます。では恐れながらお聞きします。

先程まで私はこれも神の罰と受け入れておりました故に、確認すべきことを怠っていました。ヴェラオ達を害したのは貴方様ではないのではございませんか?』

『何故そう思う?』

『先程不敬だとおっしゃられたのと、神竜に対する態度で。勘としか申し上げられませんが・・・』

『へぇ、王子はバカじゃないらしい。おい茉莉、ちゃんと見習え』


はい?私は目を丸くした。タマじゃ、ないの??

『・・・ホント?』と恐る恐る聞くと勿体つけたあと『その答えは正しくもあり間違ってもいる』なんて曖昧に答えた。どっちなんだよ。

だけど『全く。最初に確認ぐらいして欲しかったなー』ってブチブチ言うタマに、確かに決め付けてたよなって思ったから『一方的に怒ってごめん』と素直に謝った。

奴はニヤリとして『うん、今度から気をつけてよね』なんて偉そうに言う。・・・なんか釈然としないんだが。奴の機嫌が少し良くなってラップ音止まったからいいや。


でもまぁ、それじゃどういうことなんだろ?さっきの口ぶりではタマは犯人だけど違うってこと?別の犯人がいるの??

考えなきゃならないのに額も頭も痛い。

なんか思ってないことばかりが続いて頭が付いていかない。もつれた紐を解く元気が出てこないというか・・・ハッキリ言うと疲れた。

そういやいつの間にかお日様昇ってるし。徹夜明けの目に朝日がまぶしいぞっと。

そんな私の様子にタマは『この空間はこのままにしとくから2人とも少し寝なよ。頭スッキリさせなよね。話はそれから!

あ、他の人間や箱庭の生き物達は争わないようそれぞれ結界に入れてるから大丈夫だよ』って言い捨ててさっさと私達の返事も聞かず消えてしまう。


・・・おい。


私とフォルクマールは顔を見合わせた。また問題先送りでどうしろって言うんだ。


『・・・とりあえず寝とく?』

『・・・それしかなさそうだな。神がいなければ事情がわからん』


同時にため息を吐くと私達は少し距離を開けて寝転んだ。

あ、ペーターもいたんだっけ。ペーターは結界の端で今はスヤスヤ寝息を立てている。

私の視線を追って彼を見たフォルクマールが苦く笑った。


『オーガスタは実力も性格も悪くないんだが寝るとなかなか起きれないんだ。許してやってくれ』

『いや、別にいいんだけど寝顔だけ見ると平和だなぁ・・・って』

『平和か。厳しい状況なんだが』


一旦黙ってしまうフォルクマール。再び起き上がってこちらを向くと頭を下げた。


『本当にすまなかった』

『や?!さっき謝ってもらったし本当にもういいんだよ!ドラゴンなんだもん!お宝がそばにあったら誰だって欲しくなっても仕方ないし!』

私も起き上がってアワアワ言う。

『そうじゃない。俺はお前に当たったんだ』

そう言うフォルクマールはひどく辛そうに頭を抱えた。どういうことなんだろう?彼はポツリポツリと言葉を繋ぐ。


『廃人になったドラゴンハンター達の中に俺の乳兄弟がいたんだ』


あの4人の中に?王子の乳兄弟って貴族とか良いとこのお坊ちゃんだよね?


『剣士だったあいつは俺が止めるのも聞かず立場も名も捨てヴェラオになった。

ドラゴンハンターの仲間になったと聞いたときには竜などそう簡単に会えない、出会ったとしても普通の剣で何が出来ると反対したんだが・・・。

囮や時間稼ぎは出来ると笑って自分の運と腕を試したい。そう言ったよ。ドラゴン用の武器は高いからな。家を出たあいつには買える代物ではなかったんだ。

だが施しは受けないと武器を買うという俺の援助を突っぱねて殴りあいになったな』


ああ・・・。金髪の彼が浮かぶ。ガテン系な印象を受けたけどやっぱり豪快な人だったんだ。

素手で象に向かうようなものだが、戦うことが生きがいだったのかもしれない。最後まで私に噛み付いた彼。


『短い金髪の人?』気づいたら聞いてしまった。

『ああ。覚えてるのか?あいつお前に会ったときはどんな感じだったんだ?』

躊躇いながらあの日のことを彼に話す。

『一番最後まで私に向かってこようとしてたよ。少し、怪我させちゃったんだけど、転移魔法にも抗って討伐隊が来るから首を洗って待ってろ!って・・・』

私は俯く。あの人は彼の大事な友人だったのに違いない。罪悪感でいっぱいになる。

そんな私の様子に彼は寂しく笑った。

『あいつらしいな。気に病むことはない。あいつは覚悟してドラゴンハンターになったんだ。俺は戦って死んでやるって笑い飛ばす奴だったよ』

そこでギュッと彼の拳が握られる。強く強く握られた拳は白く、指の隙間からうっすら赤い血も見えた。

『戦いの場で死んだんならあいつは本望だったはずだ。だが、帰ってきたあいつは・・・』

念話が出来るようになったせいなのか?脳裏にあの金髪の彼が浮かび、彼の仲間達が浮かんだ次の瞬間私は悲鳴をあげた。


確かにフォルクマールの言ってた通りの姿の彼の仲間。

体は焼け焦げ頭だけが無事。苦悶に歪んだ顔。うつろな目からは常に涙が流れよだれを垂れ流し。

しかし金髪の彼の姿は。

私は最初壊れた人形かと思った。子供が無邪気に残酷に遊んだあとの成れの果て。

その右目はポッカリとした空洞でどす黒い血に溢れ、鼻と両耳がそぎ落とされている。血まみれの口腔内に歯は一本もないのではなかろうか?舌はあるだろうか?

その体にはあるべきところに腕がない。右手は骨があるのかと疑問に思うほど垂れ下がり、左手は切り取られ、ありえないことに切り落とされたその手が腹部を貫いていた。

彼の下肢は全ての間接がありえない方向へ曲がっている。そして、裸体のその陰部も切り落とされていた。

生きているのが不思議な状況で彼は静かに呼吸している。更なる出血もない。

たった一つ残っていた彼の瞳はこの世の何も見ていなかった。空っぽな瞳。死者の瞳。

普通ではない。明らかに悪意を持って楽しんで拷問した痕跡。


私は悲鳴を上げ続けた。吐き気が込み上げるのを耐え、また悲鳴を上げる。

コレにあの彼の面影は一切なかった。


驚いたフォルクマールが何かを悟った瞬間脳裏の映像が消える。

私は消えたことに気が付き落ち着くまで悲鳴を上げ続け虹色の雫を零し、緊張が解かれた瞬間倒れるように気を失った。

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