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第9話

2月10日:誤字修正しました。

長い日々だった。今振り返ってもそう思う。


ラジェスと親しく付き合うようになってから箱庭生活は飛躍的に進歩した。

いろんなことがあった。

精霊と会ったり、魔法を覚えたり、会話が通じる相手を見つけたり、人間から逃げたり、人間を返り討ち(不測的な事故です!)にしちゃったり。

中でも、ラジェスによる飛行訓練。これが辛かった。

彼は鬼です、鬼教師です。クール通り越してブリザードが吹き荒れる中エグエグ泣きながら羽を動かす日々。

『飛べない竜などトカゲと変わらん!』

まさにおっしゃる通りでございます。叱られながら裏でこの世界にもトカゲいるんだねぇ、なんて考えてたのバレたら殺される。かまいたちで私の頭ドガンドガンしばかれる。

とにかく高所恐怖症と鬼ラジェスに挟まれてがんばったんです。

半年経った現在ようやく、ようやく!!!超超低空飛行なら飛べるようになったんです。ブラボー!I Can Do It!

崇めるがいい、崇め奉るがよい皆のもの!


・・・。

いかん、これじゃタマっぽい。奴にだけは影響されてはいけない。そうなれば私の負け。人間として何かを失う。

タマは時々顔を出しては相変わらず私の血管をぶち切れさせた。

最近、こんな関係でいいのかとつくづく思う。一般的な神と神子ってこんなの?

なにやらタマはラジェスが気に入らないようで彼と一緒にいるときは決して出てこない。私が1人になると出てきて、ブツブツ文句を言うのだ。全く何がしたいのか。


向こうの世界を思い出すと胸が締め付けられるけど、彼らと過ごすこっちの生活も充実してきた。

いつ帰れるのか、タマは言わない。まだ彼が納得するほど私は成長してないんだろう。

一度、詰め寄ったことがある。

このままでは帰ったときには”おばさん”で今度は向こうの世界に取り残されるではないかと。

タマは元の時間軸に戻すと答え、だから大丈夫だとカラカラ笑う。こちらの世界で何年過ごそうが戻るときはあのボロ神社での目覚めから、らしいのだ。

私も出鱈目だがタマはそれの上を行く。だから最悪な性格なのに神なんてやってるんだろうけどさ、なんか振り回されてる私ってすっごく不幸じゃないか??


とにかくそれを聞いて安心したのは確かだ。

私はプツンと大きな葉の影になっていた黄緑色の木の実をもぐ。大きなサヤエンドウの形をしたこの実はバナナみたいで美味しいのだ。

箱庭は各ゾーン毎に四季が別れている。私の寝床の湖は初秋に近い気候で木の実などの食べ物には事欠かなかった。

箱庭といわれているが、周りを囲む険しい山々は私の目で見ても遠くに霞んでおり、かなりの広さであることがわかる。

ラジェスに聞くと雪山や凍った滝、砂漠や花畑など、不思議な景観がギュッと箱庭には詰め込まれてるらしい。ラジェスは回ってみたことがあるらしいのだ。

私もぜひとも見てみたい。飛んで回れば見るのは簡単なのだが・・・。

収穫している手が止まる。どうしたものか・・・私は半月前の小競り合いを思い出していた。


++++++++++

人間達の間で『箱庭に虹色の竜がいる』という情報は私の予想以上に広まってしまったらしい。

覚悟はしていたが、箱庭に入ってくる守人達が増え、襲撃があるようになった。

最初のうちは襲撃者も普通の武器を持ったグループばかりで、いつも逃げたり飛んだりして直接的な対決を避けられたんだけれど、とうとう先日ドラゴン専用の武器を持った者達がやってきてしまったのだ。

彼らは4人という少人数にも関わらず一般的なヴェラオ達より格段に強かった。

1人は短い金髪の男の剣士、1人は槍使いの赤毛の男、1人はローブを着た無精ひげの男で、最後の1人は淡い金髪をポニーテールにした短剣と弓矢を背負った若い女だった。

戦いなれてるというか連携が取れてるというか、彼らには隙が無かった。羽で起こした竜巻も突風も彼らは難なくいなしたし、尻尾を振り回したところで彼らには掠りもしない。逃げ道がふさがれ空には薄い水色の結界が張られていた。

危機一髪のところでラジェスが結界を破ってくれなければ、その場で戦わなければならなかっただろう。ほんとにギリギリだったのだ。


「待て!!”災い”め!!」

飛び立った私を追いかけてくる声にわずかに振り返れば、羽目がけて飛んでくる槍が見えた。その槍から放たれる赤いオーラがたまらなく恐ろしい。

ラジェスが呪文で逸らそうとするが間に合わないっ!私も直撃を避けるよう体勢を変えた。

かすかに感じたのは恐ろしいほどの冷たさ。命を凍らせ波紋のように広がる何か。

槍は私の一枚の羽を掠って落ちていった。痛みより驚きや恐怖の方が強かった。

あれが・・・ドラゴンハンターが使う武器なんだ・・・!

体勢の崩れた私を押しつぶすような重力が襲う。これも魔法なの?!無精ひげが印を組んでるのでそうなんだろう。


『マツリ!』ラジェスが無精ひげに向かうが赤毛の男と女に阻まれる。

さすがにラジェスも2対1だと手間取っている。特にポニーテールの女の人とは戦いたくない様子で困惑してる表情だ。

絶体絶命か。もうこうなったら自分も戦うしかないだろうか。もっとギリギリまで先延ばしにしたかった。

自分の力をおおよそ把握した私は、本気で戦えば相手を塵芥にすることも可能であると知っている。人間の体はもろい。この爪に力を入れれば容易く壊れるだろう。だから躊躇してしまうのだ。

だけど私が傷つく事態になれば、あのタマが、この世界の人たちにご迷惑を・・・すんませんホントすんません。戦うも地獄戦わなくとも地獄な心境だ。

私が手にかけるかタマが手にかけるかの違いなら自分が悪者になった方がいい。タマは屁とも思わないだろうが私がタマの手を汚させたくないのだ。何度考えても結果はそこに行き着くというのに、土壇場になるとコレなのだ。弱いなぁ、私も。自分の尻は自分で拭かなくちゃね。


金髪の男が私に止めを刺そうと向かってくる。

仕方ない。私は口を開いた。


『オリオデガート』

最近友達になった精霊の名を呼ぶ。重力で落下する体をやわらかく大地が受けとめた。

落下した私を中心に、ミルククラウンが出来るような感じで土砂が盛り上がる。


「な?!」彼らが驚きの声をあげる中、受けとめてくれた大地の中から人影が起き上がった。


『も~う。マツリったら早く呼びなさいよ。待ちかねちゃったじゃないの!』

メッ!と両手を腰に当て頬を膨らませているのは、褐色の肌に蜂蜜色の瞳、瞳は縦長の瞳孔が煌めいており、ふんわり巻いた長い緑髪が妖しい美しさを持つ美女。

『ごめん、オリちゃん。なかなかタイミングがなくて・・・』

嘘だ。このゴージャスな彼女を呼ぶと小さな事態も大きくなるから呼びたくなかったのだ。

猫目石の名を持つ彼女は、その名にふさわしく気まぐれで時に残酷。自分の正義を貫く、強く気高いあねさんなのだ。

ひょんなことから私は彼女に懐かれている。全くありがたいことだ。が!短い付き合いなのだが、それでも私は知っている。彼女はタマに似過ぎるくらい似てるのだ。

歩いてるだけで問題を引き起こす奴を頻繁に呼んでたまるか!

なんだいなんだい?神も精霊もこんなんばかりなのか?

良識的な神々や精霊が聞けば憤慨するであろう失礼なことを私は考えていた。


「馬鹿な!!大地の精霊か?!精霊の具現化だと?!」無精ひげの魔法使いが叫ぶ。

すいません、とっても非常識な事なんでしょうね。うん、最初はオリちゃんもスケスケの透明でフヨフヨしてましたヨ?

だけどこの姉さん私の魔力(ぶっちゃけ血なんですけどね・・・)が3度の飯より大好きで。チューチューやられてるうち力強まっちゃったみたいなんです。

今では呼ばれなくても具現出来るほどに独走状態でしてね?

なんでも血に含まれる魔力を純度を上げて抽出しながら霊力に変換して魔力のエネルギー機関にどうのこうのとオリちゃんは説明してたけど、アナタもうただの吸血鬼です、ハイ。


金髪男が私を受けとめた際に出来た高い土壁を崩して近づこうと躍起になっている。

その剣をショベルのように振り回して使ってるところとか額のきらめく汗が彼をガテン系に見せてしまう。本人は必死だし土砂を切ろうとしてるんだとは思うけど、プフ。なんか笑える。そんな余裕をかましてたら、


『で、マツリ。この人間達ちょっと不快な感じね?ヤっちゃっていいかしら?』


それを眺めているオリオデガートの瞳孔がさらに細くなった。

キタコレ。これですよ。ちょっとの不快ごときで、すでに手を下す気満々の彼女を止めるのにどんなに体力気力をすり減らすかっ!

って言ってる傍から岩投げつけない!!そっちの彼も焦りながらも軽々避けちゃったりするから、ホラ!オリちゃん楽しそうになっちゃったじゃないか!!

『駄目だって!とりあえずこの人たちの足止めが出来ればいいんだから!』

『え~?もうちょっと遊ぼうよ~~。これはどう?』

地面から尖った岩が次々飛び出す。彼らは魔法使いが結界を張り致命傷を避けるが、避け切れなかった手足からは血が噴き出していた。OH!NO!

オリちゃんの蜂蜜色の瞳が輝きを増した。

『なかなかやるじゃない!じゃこういうのは??』

彼らの足元が砂と化し陥没する。大きくすり鉢状に窪んだ穴の中心ではゴロゴロとした大岩がガツンガツンとぶつかり合っている。死んじゃう、死んじゃうから!

彼らは悲鳴を上げながらすり鉢の底へと落ちていく。


『オリオデガート!!!もう血あげないよ?!!』


私が絶叫すると、ビクリとしたオリちゃんが慌てて地面を元に戻した。血でしか言うこと聞かないのか、君は?!

怒りのあまり肩で息をしてる私に『いや~ん、冗談よぉ~』とか『マツリ怒らないで~?ねっねっ?』とか猫なで声で擦り寄ってくるが知るか!

『オリオデガート、彼らの足止めを』私の冷たい声に『は~い・・・』とシュンとして答えるオリオデガート。

タマよりこの辺は聞き訳がいいんだけど・・・やはり疲れた。

オリちゃんは瞬時に彼らをどこかへ消すと(テレポートさせている)、私の羽の端っこに出来たかすり傷からポッチリ滲む血を羨ましそうな目で見た。

『ちょっとだけ舐めちゃ駄目?』って上目遣いに見てくるのがまた、反省してないの丸わかりで腹が立つ。『ハウス』と冷たく言った私の命令に応じて渋々姿を消した。

シクシク泣き真似してたのはわかってる。あくまで真似、だ。当分放置しよう。

ドラゴンハンター達も負傷したからしばらくは来ないだろう。


静かになった周りに一息つく。

『お前、振り回されすぎだろう』呆れたようにラジェスが言った。あ、いたんだラジェス。

オリちゃんに良いトコ全部持っていかれた彼はブスッとしている。

ラジェスは戦闘力は強いんだけど雰囲気に呑まれやすいというかタイミングが読めないというか女への押しが弱いというか。

オリちゃんみたいな唯我独尊猪突猛進娘が彼は一番苦手である。『絡みづらいんだ』とポツリと言った彼の一言が私にも死ぬほど良くわかった。

同志よ。私は心の中で彼とガッチリ握手した。


『わかってるけど無理でしょあれっ。ラジェスが私の代わりにオリちゃんと契約結んでくれない?』

ラジェスはその問いには答えなかった。

++++++++++


人間の皆さん、体大丈夫だったかなぁ・・・。そういえば強制転移させられる時金髪男が叫んでたよね?

「”災い”め!我らを排除したところで討伐隊はすでに出発した!首を洗って待っていよ!!」だったっけ?

討伐隊って・・・団体様だよね?うえー、また面倒なことになっちゃったのね。

あの嫌なオーラの武器いっぱい持ってくるんだろうなぁ。ああ、小さくなりたい。ミニマムになってキノコの家にでも平和に住みたい。

私のビックボディは目立ちすぎるのだ。空飛んで箱庭観光なんてしばらく出来そうに無い。

なんだろう。私やっぱり不憫じゃないか??

タマに遊ばれオリオデガートに振り回され親友は頼りにならず人間に追い回される。あ、涙が・・・。

無事元の世界に戻ったら盛大な厄払いをしよう。そうしよう。

せめてと思い、私は寝床の隅に海水から作った塩を盛ることにした。

寝てると勝手に寄ってくるオリちゃんも清めてくれたらいいのになぁ・・・。


さて、と。

険しい山々のせいか箱庭の日暮れは早い。考え事をしながら手にいっぱいのバナナもどきを寝床に運ぶ。

ついでに仕掛けておいた落とし穴の中からイノシシもどきも回収した。

今日も平和な一日だったことをタマ以外の神に感謝する。


そろそろ討伐隊とやらに居場所が発見されてもおかしくない。憂鬱だ、な。

さわさわと風が不穏な空気を運んでくる。風の精が人間の接近を教えてくれてるのだろう。

姿を隠すことも考えたのだが私は討伐隊を待つことに決めたんだ。

いつまでもダラダラ狙われるより一度に人間達と決着をつけたい。

私はこの世界の人間と会話するのをまだ諦めていない。中には話せるような高次な人がいるかもしれない。

討伐隊っていうならそれなりの強い人たちが来る筈だ。例えば神官や高位の魔法使いとかね!

だから、私に手を出すことがいかに人間世界にとって危険か話してわかってもらえるなら一番良いと思うんだ。

それでもやはり言葉が通じない場合は。

私は目を瞑る。静かに覚悟を決めた。

討伐隊の皆さんを徹底的に負かすしかない。もう竜に私に挑む気がなくなるくらいの完全勝利を目指そう。



2つの月が昇る頃、ラジェスが知らせを届けてくれた。

『湖の西2カスタ(2キロ位)の所に多数の人間が駐屯してるぞ』


私は静かにその時を待った。

月達がだんだんと昇っていく。たなびく雲が切れ切れに月明かりを遮った。私のドキドキも時と共に増大していく。

カサリ、そう遠くない湖の対岸の茂みが揺れた。


来た!激しい心臓の音を聞きながら身構えた私の前に現れたのは、



『よぉーーーーーーーう!』



タマだった。わざとらしい登場の仕方に、私がタマをボコりまくったのは言うまでもない。

なぜオリオデガートが夜中にやってくるのか?舐めに来てるんですよ、体液を(ギャーー!)マツリは彼女を”油すまし”と密かに呼んでます。

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