表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

【聖剣とアホ勇者シリーズ】一回抜かれてから地面にミリ刺しされた聖剣を抜いてドヤる勇者【最終話】

作者: 騎士ランチ

「おはよつございまーす!私は今度の魔王の、えーと魔王です!私を止めたくば魔王城まで来てみやがれなのですよ!はーっはっはっは!」


 空に映し出された宣戦布告。新しい魔王は、ビキニアーマーを着た少女の見た目をしていた。それを見た国王は、この魔王が先代魔王を倒した勇者の成れの果てだと気づかざるを得なかった。


「大臣、あれ北の国出身の勇者キタノ君だよな?」

「女体化魔術で魔王を油断させてスリーパーホールドで倒したキタノの事ですかな?確かに、女体化状態の彼の肌を青くしてツノ付けたらあんな感じです」

「そだな。で、キタノ君がスリーパーホールドで倒した魔王は南の国の勇者ミナミノの弟に激似のゴリマッチョだった」

「こりゃ、あの呪いの仮説も確定ですなあ」

「ん。魔王倒した奴が人類の醜さに絶望して次の魔王に生まれ変わる。そういう呪いとかがあるっぽいね」


 国王と大臣は確信した。闇落ちした勇者が死後に魔王となる呪いはありまぁす!だもんで、また別の勇者を送ってこの魔王を倒しても、そいつも何やかんやで人類に絶没して魔王になるのだろう。


「大臣、どーすんべ?キタノ君倒しても、その勇者も魔王になって、でもキタノ君放置しても国民が暴動起こして国が終わっちゃうよ」

「勇者が魔王になるというシステムが民衆に広まってパニックになる可能性もありますな」

「ワシら二人で話し続けても、読者の期待には答えられん。ナカノを連れてこい」

「かしこまり」


 ナカノとはこの王国、大陸中央にある『中の国』の勇者候補である。北の国の勇者キタノが聖剣スルーして魔王をスリーパーホールドしてから、岩に刺さっだままの聖剣に魔王の首を押し付けて斬るという、あり得ない時短攻略をしてしまった為に活躍の機会を失われたが、ナカノの実力と人格は歴代最高と言って良い、正に最優の勇者と呼んで良い存在になるはずだった。ガンダムで言えばキタノがザクⅡでナカノがゲルググである。


「陛下、中の国の勇者候補ナカノ、参上致しました」

「おー、よく来た。ま、座れ。話と言うのは他でもない。女体化キタノ君が魔王でお空にバーンって出たのは見たよな?」

「やはり、キタノ殿でしたか。彼の名誉を守る為に、世間に正体が判明する前に私が討てという事ですね?」

「ちゃうちゃう。それしたら、君が次の魔王になってまうやん。そーなったら、世界終わりやん。ワシが君に頼みたいのは新たな勇者のサポートよ」

「ははーっ、陛下のご命令とあらば」


 ナカノ即了承。彼が出来た男で国王も作者も助かる。


「して、私が仕える事になる新たな勇者とは?」

「うむ、それについては東の国の勇者ヒガシノにしようと思っている」

「ヒガシノですか…」


 ナカノは苦い顔をする。繰り返しになるが、ナカノはパーフェクト勇者だ。そのナカノがこんな顔をするだけの問題がヒガシノにはあった。


 今から一年前、勇者キタノが聖剣の里で魔王の首を斬った帰り、途中で立ち寄ったバーガー屋の駐車場で待ち受けていたヒガシノがキタノに襲いかかった。理由は至極単純。魔王退治の手柄を奪おうとしたのだ。


 魔王との戦いの疲れが残り、両手が魔王ボデーと魔王の首で塞がったキタノ、ノーダメでやる気も十分で奇襲したヒガシノ。結果はキタノの圧勝。キックだけでヒガシノを撃退して見せた。


 だが、ヒガシノが蹴り飛ばされた先が崖だったのに気付き、キタノは猛ダッシュでヒガシノを助けに行った。崖から落ちる寸前でヒガシノは引き上げられたが、今がチャンスと思ったのか、助けられた事に腹を立てたのかは知らないが、ヒガシノはあろう事か自分を助けたキタノを突き落としてしまった。そして、その行動は騒ぎを聞きつけたバーガー屋店員に目撃され、彼は牢屋へと直行となった。


 要するに、勇者ヒガシノという男は世界を救った勇者の死と闇堕ちの原因となった奴なのだ。


「ヒガシノは今も牢屋に?」

「ええ、今も自己弁護してますよ」


 ナカノの質問に大臣が頷き、現状を説明する。


「魔王の遺体を渡さなかったキタノが悪いとか、先に攻撃してきたのはアイツの方だとか、あんな場所に駐車場を作ったバーガー屋に責任があるとか、そんな事ばかり言ってます。この一年謝罪の言葉は一度もありませんでしたな」

「彼に勇者が務まりますかね?」


 大臣の報告を聞いたナカノが、うんざりした顔で国王に問う。


「その為のお前なんよ。魔王や他の強敵はお前が九割削れや。で、トドメはヒガシノにさせる。魔王殺した勇者が闇落ちして次の魔王になる。ヒガシノ弱い。ヒガシノ元々カス。上手くいきゃ呪いの連鎖終わるかも知れんし、失敗しても次世代の魔王雑魚確定。オッケー?」

「理屈は分かります。しかし、キタノ殿を殺した男を再度勇者認定したら、我が国の民も東西南北の国家も黙ってはいないでしょう」

「そこは抜かり無いんよ。要は、ヒガシノをヒガシノと思われ無ければ良いんよ。大臣、罪人ヒガシノをギロチン刑とせよ」

「かしこまり」


 翌日、ヒガシノは観衆が見守る中、ギロチンて首をはねられた。魔王の脅威は残っているが、この世で最も許せない男がようやく死んだ事で人々の心は幾分か落ち着いた。


 だか、彼ら一般市民は知らなかった。この世には、首が切られても正しい手順を踏めば蘇生する魔術があるなど、一般市民は知る由もなかった。そして、彼らは当然女体化魔術の存在も知らなかった。今の魔王と勇者キタノを見比べて正体に気づけるのは、両方の姿を知っている一部の偉い人とバーガー屋ぐらいである。


 それと同じ様に、新たに勇者認定を受けた女が、女体化したヒガシノだと気付けるのは、その魔術を理解しているか、ヒガシノの両方の姿を見た者だけだった。

私は聖剣を守るエルフ。この里に封印されている聖剣を管理し、これを抜きに来た勇者が真の勇者かを見極める存在。


「今度の魔王は随分早く復活したなあ」


数週間前、空に魔王のビジョンが現れ、人類に宣戦布告したのはこの里からも確認出来た。前の魔王が勇者に倒されてからまだ一年ぐらい。明らかにペースがおかしい。


「人間社会で、そして魔王側で何があったんだ」


使命によりここを離れられない私には何も分からない。だが、もうじきここに勇者が来るのは分かる。


ザッザッ てくてく


来た。油断も隙も無い武芸者の足音と、特に見るべき点の無い普通の足音。成歩堂、今回は二人組のパターンか。勇者とその従者といった所さんか。


「聖剣の守護者様、初めまして。私達は中の国から来た勇者パーティです。彼女が此度の勇者オワリノ。そして私が従者のナカノです。こちら、つまらないものですが」


 ナカノと名乗った青年が私に差し出したのは、復刻版ミナミノバーガーとポテトのセットだ。こいつ…出来る!土産のチョイスもだが、放っているオーラが歴代勇者でもトップクラスだ。でも、さっきの説明だと、あっちの女の方が勇者なんだよなあ。いっちゃ悪いが、全く勇者らしさを感じない。


「あ、オワリノでーす」


こちらを一瞥し、鼻ほじりながら軽く頭を下げる勇者(?)オワリノ。うーん、怪しい。顔色はアンデット並に悪いし、目の焦点は合っていないし、それにその首元の縫い目は何だ?そういうファッションなのか?何より、彼女からは勇者の力をマシでなーんも感じない。


この仕事を百年単位でやってきた私は、一目見れば相手の強さは大体分かる。ナカノ君は初代勇者ハジメノや天才勇者ニシノに匹敵するミナミノバーガー級、オワリノさんはヴィーガンバーガー級だ。

これは平時のオーラを評価しただけだから、必ずしも実力と一致している訳では無いが、ナカノ君が初代勇者レベルにやべー奴で、オワリノさんがここに来れたのが不思議なレベルなのは間違いないはずなのだ。


だから、ナカノ君が聖剣を抜こうとしているのを見ても、直ぐにはそれがおかしな事だとは気づけなかった。


「ストップ」


私は今にも聖剣を抜こうとしているナカノ君を、ギリギリで止める。


「その聖剣、一応勇者しか抜いちゃダメなんだけど、ナカノ君はその…違うんだよね?」

「ええ、この私は中の国が推薦する勇者候補でした。が、このオワリノに負けて勇者の座を降ろされたのです」

「そうなの?」

「ですが、私は諦められない!この聖剣をあの女より先に抜いて私こそが勇者だと証明してやるううう!!!」


スポッ


あ、抜きやがった。


サクッ


あ、地面に刺しやがった。


「何で抜けないんだあああ!!!」

「いや、抜いたよね?今、抜いたよね?」

「私には聖剣が抜けなかったー!ぐやじいいいい!」


地団駄を踏むナカノ君。その衝撃でグラグラ揺れる聖剣。これ、完全に封印解かれてるわ。


「おいナカノ、邪魔だからそこどいて」

「ヒィッ」


ナカノ君を押しのけて、オワリノさんがハナクソが付いた手で聖剣を引っ張ると、あっさりと聖剣は抜けた。


「な、な、な、何故お前が聖剣を抜けるんだよおー!」

「大げさだな、俺はただ普通にこの剣を抜いただけなんだが?封印とか特に感じなかったぞ」

「そんなはずは無い!私がいくら力を込めてもびくともしなかったんだぞ!あり得ない…これは悪い夢だ…」


膝から崩れ落ちるナカノ君。何だこの茶番。初めてだよ。聖剣封印の地でこんなコント見せられたのは初めてだよ。


結果的には勇者パーティが聖剣を手にしたのだから、それは良いのだが、彼らの関係や目的がイマイチ分からん。ナカノ君に聞いても誤魔化されそうだし、あちらの頭悪そうな方から情報収集しよう。


「オワリノさん、君は本当に勇者なのか?」

「んー、よく分からんが聖剣を抜いた奴が勇者なら、それは俺なんだろーな。知らんけど。はい、中の国の勇者証明書」


確かに勇者証明書だ。これまでここに辿り着いた勇者が持っていたのと変わりない。つまり、少なくとも中の国は彼女を勇者として認めているって事か。…ますます分からん!


「もーいいか?」

「あ、ああすまない。疑って悪かった。話は変わるが、あのナカノという男と君はどんな関係なんだ?」

「俺が王様から勇者認定されてからずーっとしつこく着いてくるんだよ。毎回毎回、俺の目の前でやらかして、俺がそれの尻拭いをしてやってる」


んー、そうかな?私の目にはナカノ君がオワリノさんの行動を誘導しながら、道を切り開いている様に見えるんだが。まあ、私の役割とは関係の無い事だ。深く聞くべきでは無いだろう。

そうだ、聞くと言えばこの件とは別に聞きたい事があったんだ。


「オワリノさん、君の一つ前の勇者でキタノという男が居たと思うのだが、彼は魔王を倒した後にどうなったか知っている?」

「キタノ…?ち、違う。俺はやってない。俺は悪くない。」


それまで緊張感ゼロだったオワリノさんは、私がキタノ君について質問した途端に突然顔を更に青くして震え始めた。


「ヒガ、オワリノーっ!」

「もがっ」


ナカノ君が、ダッシュでオワリノさんの口を塞ぎ押し倒す。


「守護者様、申し訳ありません。ここまでの旅と聖剣を抜いた疲れでオワリノはフラフラの様です。彼女を連れてすぐに宿屋に戻ろうと思います。あ、そのバーガーとポテト熱い内に食べた方が良いですよ。では!」


そう言うと、ナカノ君はオワリノさんを引きずってさっさと立ち去ってしまった。


「うっま!うまっ!うまっ!んまっ!熱っつ!」


私はバーガーとポテトを急いで平らげると、旅の支度を始め、村の代表を呼ぶ。


「コンドノー!」

「お呼びでしょうか長老」

「決めたぞコンドノ。私は先程の勇者パーティに同行する事にした」


早すぎる魔王の復活。明らかに勇者な偽物と明らかに勇者じゃない本物。キタノ君のその後。流石に気になる事が多すぎる。


「もうじっとしてるのは辞めた。私はこの目で、人と魔の間に今何が起きているのか確かめたくなった」

「聖剣の守護者の役目を放棄する事になりますよ?そうなれば貴方は不老では無くなります」

「構わん。私が留守の間、ここは任せたぞ!」


私はコンドノに役目を押し付け、ン百年ぶりに里の外へと走り出す。これは勘だが、絶対ここで行動しないと後悔する様な事が裏で起こっている。それが何なのか、私にどうにか出来る事かは分からないが、後悔だけはしたく無い。初めてだよ。こんなに、世の中が気がかりになるのは初めてだよ。


「ゴリチェンジ!」


里とバーガー屋の間に住んでいるゴリラと自分の位置を交換し、私を追ってきたコンドノの行く手を塞ぎつつショートカット。バーガー屋で一服しているナカノ君とオワリノさんを見つけた私は二人に声を掛けた。


「おーい!私も連れて行ってくれー!」

「げ」

「あ、さっきのエルフ」

「そう、私の名はサッキノ。元聖剣の守護者にして、今は勇者パーティーの一員」

「勝手に仲間にならないで下さい」

「ん?ナカノ君も勝手に勇者について行って迷惑掛けてると聞いたのだが?」

「そ、それはそうですが」

「ならば、私も勝手に同行する。コンゴトモヨロシク」


こうして、私と勇者パーティの旅が始まった。この後、今の魔王の正体や、中の国の目的について私は知る事となるのだが、それはまた別の機会に語るとしよう。


聖剣とアホ勇者シリーズ 完


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 面白かったです。 両腕がふさがった状態でキックだけで、ヒガシノを返り討ちにするキタノ君の強さに笑いました。 [気になる点] ヒガシノ一人に仇で返されただけで人類全てに絶望するとか‥‥…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ