元日の二人
時刻は一月一日、十六時を過ぎた頃。眠い目を擦りながら、私はケータイの画面を見て時間を確認した。
隣を見ると、いつもは規則正しく私より早く起きて活動している綾乃が、まだ布団を被って寝息を立てていた。まあ、仕方ないだろう。昨日は、推しアイドルの年越しカウントダウンライブの配信を見て、深夜まで盛り上がっていたから。たまには一日中、寝て過ごすというのも、悪くはない。
とは言っても、さすがにそろそろ起きた方がいい気もするが……。なんて思いながら、私はしばらく、綾乃の寝顔を見つめていた。
うっすらと目を開けた綾乃が、こちらの方を向く。
「瀬奈……? 何してるの?」
ぼんやりとした声で、綾乃が問いかける。
「綾乃の寝顔、かわいいなぁ〜って思って見てた」
「……かわいくないよ」
ぷいっと、顔をそむけながら、綾乃が言う。そんな姿もかわいらしいなと思った。
「初詣、どうする? もう午後だけど」
「え?」
綾乃がびっくりしたように、時計を確認する。
「本当だ……。もう神社しまっちゃうでしょ。明日の朝に行こ」
「ん、じゃあ、明日はちゃんと朝に起きないとね」
「今日だってできればもっと早く起きたかったのに」
「いいじゃん、たまには寝て過ごしても。疲れてたんだよ、多分」
「んんー……。そういえば、風邪は治ったの? 瀬奈」
「ん? そういえばそうだね。もうすっかり元気。ピンピンしてるよ」
「そう、それならよかった。風邪を引いてたら、初詣も行けないものね」
綾乃が安堵して微笑む。私も釣られて笑みを浮かべた。
「綾乃の看病のおかげだよー。ありがとね」
「大したことはしてないわよ」
「ん。でも、ありがとう」
「……どういたしまして」
私の言葉に、照れくさそうに綾乃は返す。
「今日はテレビでも見てのんびり過ごそうか? おせちって買ってあるんだっけ」
「テレビそんなに見たいのやってないでしょ……。おせちは買ってあるわよ、瀬奈が食べたいって言うから、数の子と栗きんとんと黒豆、かまぼこと昆布巻き」
「えへへ、ありがとー。じゃあ、おせち食べて……なにしよっか……。取り急ぎ、その前に、年賀状、届いてないか確認してくるよ」
「じゃあ、おせち出しておくわね」
「ん、任せた」
そう言って私は立ち上がって、郵便受けを確認しに行く。入っていたのは、郵便局からの挨拶状と、綾乃が好きな漫画家さんへのファンレターのお返事と思われる年賀状、一枚。まあ年賀状なんて最近はみんな送らないだろうから、こんなものか、と思いながら、部屋に戻る。
「おかえりなさい、年賀状、来てた?」
「来てたよー、見て見て」
「きゃあっー!? 本物?!」
綾乃が、喜びと驚きと様々な感情が入り混じった声を上げる。それほどこの漫画家さんが好きなのだ。
「よかったね、綾乃」
「よかった……」
しみじみと噛みしめるように言葉を絞り出しながら、綾乃は年賀状をガン見している。私はそんな綾乃を見ながら、綾乃が机の上に置いておいてくれたおせちを食べる。
「あっ、なに先に食べてるのよ!」
「だって、綾乃はおせちより年賀状がいいみたいだったから」
「それとこれとは別! もう、私も食べたいんだから、私の分も残しといてよね」
「ちゃんと残してあるよ」
「ならいいけど」
そう言って、綾乃はそそくさと年賀状をポストカードファイルにしまいに行った。戻ってきて、綾乃もおせちを食べ始める。
「お餅は買ってあったよね? お餅はどうするー?」
「とりあえずおせち食べてからでいいんじゃないの?」
「それもそうだね。お餅は明日かな」
「それでいいんじゃない?」
「じゃあ、明日はお餅パーティーしよう」
「お餅パーティーってなによ」
「……なんだろうね?」
「本人がわかってないんじゃないの」
呆れたように笑う綾乃の姿が、とても愛おしく見えた。
「まあ、それはそれとして、今年もよろくね、綾乃」
「なに、急にかしこまってどうしたの」
「いやぁ、たまにはこういうことちゃんと言っておかないと、と思ってさ。同居し始めてまだそんなに経ってないけど、私はこれからもずっと綾乃と一緒にいるつもりだから、よろしくね。迷惑もかけるかもしれないけど、私は綾乃と一緒にいたい」
「……私だって、瀬奈と一緒にいたいから同居してるのよ。私の方こそ、今年もよろしく。迷惑だなんて思わないから、瀬奈は自分のやりたいように生きればいいのよ」
「……綾乃は優しいね」
「……瀬奈のこと、大好きだからね」
「っ……! 私も、綾乃のこと、大好きだよ」
少し照れくさそうに言う私に、綾乃は優しい微笑みを返した。なんだかくすぐったいような気持ちだったけど、とても幸せで満たされていた。
〈了〉