表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【挿絵多め】煌燈十二軍と供犠奇譚《サクリフィス・サーガ》  作者: HaiRu
第一部【フォルニカ公国篇】 第一章《奴隷少女》
9/69

第8話 『出発』



 様々な色の魔晶石、短剣の魔導器、それに魔装束(シュレーゼ)

 ジェイルはナターシャから借り受けたポーチの中に、数々の道具を手際よく詰め込んでいく。

 これらはどれも、『オルセントの流れ屋』に置かれていた逸品だ。


「こんなに沢山貸していただいて、ありがとうございます」


 ポーチを腰に掛けたジェイルが、軽くお辞儀をする。


「いいんだよ。あたしとあんたの仲じゃないか」


 ナターシャが笑って、


「その代わりと言っちゃなんだが……一つ頼まれてくれないかい?」


「――? はい、なんでしょうか」


「実は、少し前に剣の魔導器の発注を受けたんだけど、材料が足りなくてねえ。森の奥地で魔獣――角狼(ホーンガル)の角を十本ほど取ってきてほしいんだよ」


 ナターシャは片合掌しながら、申し訳なさそうな顔で言った。


「ホ、角狼(ホーンガル)の角ですか!?」


 普段は泰然自若としているジェイルが、珍しく大声を上げる。


 魔獣とは、魔力によって体が変質した動物の総称だ。通常の動物より保有している魔力量が段違いで、個体によっては魔術に近い特殊能力を持つものもいる。


 その中でも、角狼(ホーンガル)はハラル大森林の奥地――フォレスタ公国とレヴィエント王国のちょうど真ん中辺りに生息する魔獣だ。

 大人二人分ほどの巨大な狼の姿と、一角獣のような角が生えているのが特徴である。単純な身体能力は魔獣の中でも上位に入り、魔力が集中している角からは強力な紫の雷を放出する。


 さらに体内に循環する多量の魔力の影響か、通常の狼よりも極めて獰猛。銀氷狼や魔術士組合(ギルド)の中でも、角狼の討伐は一流になるための登竜門と言われている程だ。


 それを――十体も。


「殺さずに、そしてできるだけ傷つけないようにね。魔導触媒としての効果が無くなっちまうから」


「け、結構な難題ですね……」


 つまり、あの獰猛な角狼を生け捕りにして、一本一本角を切り落とさなければならないのだ。

 調査の片手間にとんでもない難易度の依頼をされ、思わず顔を引きつらせるジェイル。


「アッハッハ! 一応あたしも商人だからねえ。儲けれるところは、がめつくいくさ」


 ジェイルの反応を予想してか。ナターシャが笑いつつ。


「それに、あんたを信頼してるんじゃないか。かの"︎︎大公庁の懐刀"︎︎の実力をね」


 ナターシャが片目を閉じながら、悪戯っぽく笑った。そんな様子にジェイルも諦めたようで――


「あはは……善処します」


苦笑いをして依頼に応じるのだった。



 ――――。



「――それでは行ってきますね。夕方には帰って来ますので」


 準備を終えたジェイルが、『オルセントの流れ屋』の雑貨店の方から外に出ようとする。


「魔術士ローブも着ずに、魔装束一枚だけで本当にいいのかい?」


 扉を開けたジェイルに、ナターシャが声をかけた。

 ジェイルの服装は、朝から着ている長袖シャツとズボン――公国にありふれた普段着だ。

 その上から、先程借り受けたベスト型の魔装束を雑に羽織っているだけだった。


 カレンに着せていた魔術士ローブは、現在ナターシャに預けている。


「ええ。あのローブには認識阻害の魔術が付与されていますので、カレンに何かあった時の(かく)(みの)にしてください。それと……カレンのことをよろしく頼みます」


「ああ、分かったよ。あの子は任せておきな。あたしがしっかり面倒を見ておくからね」


 力強く胸を叩くナターシャ。


「――では」


 その様子にジェイルが微笑んで、今度こそ店を後にする。


「……まったく。あんたがそこまで肩入れするなんてね」


 店の中でジェイルの背中を見送りながら、ナターシャが静かに呟く。


「頼んだよ。現"︎︎煌燈(こうどう)十二軍"︎︎――公国最強の魔術士さん」


 その表情は、まるで子供の巣立ちを見送るかのように、とても穏やかだった。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ