エピローグ②『若き少女の決意』
復興に向け、マージェスは活気に満ちていた。
魔術士たちが集まって呪文を唱えたかと思うと、街路に積み上がる瓦礫が次々に崩れさり、更地へと姿を変える。
そこに魔術士たちが更なる呪文を唱える。すると、地面に術式が描かれ、建築の支柱がもう現れる。
他の場所でも、猛スピードで作業が進んでいる。このペースなら、数日もあれば街は元通りになるだろう。
「わあ……すごい」
その光景を――カレンは眺めている。
(……お母さんのおかげで、この街を守れたよ)
心の中で、亡き母に思いを馳せながら。
「ありがとう。お母さん……」
カレンは今、銀氷狼の二階にある吹き抜けた場所から、マージェスの街を見下ろしていた。
事件解決の後、彼女はリディアナに呼ばれ、国民証を発行するための軽い審問を受けていたのである。
〜〜〜〜。
「よし、以上で審問は終了だ。手間を取らせてすまなかったな」
リディアナが書類に印を押し、くるくると紐で束ねる。
「本来なら難民の受け入れは、多くの手続きが必要なのだが、其方は特別だ。後は大公であるユリエス殿が印を押せば、すぐにでも公国の民として生きられる」
「あ、ありがとうございます!」
カレンがぺこりと頭を下げた。
「礼を言うのはこちらの方だ。其方のお陰で、この街は守られた。最大限の待遇を期待していてくれ」
「あの……領主様」
「どうした?」
「私は、これから向かうエレメンタという街で暮らすことになるのでしょうか?」
「ああ、そうなるな。エレメンタには、ルミナス魔術学院という学園がある。この国で生きていくために必要な知識を、全て学べる場所だ。推薦状を同封しておいたから、そこで学んでくるといい」
「えっと……その……申し出はありがたいのですが……」
「どうした。何か不満でもあるのか?」
「そ、その……」
カレンは、どこかもじもじした様子で俯いているが。
やがて――
「わ、私……ジェイルさんの旅について行きたくて……! そ、その為にはどうしたらいいでしょうかっ!?」
顔を真っ赤にしてそう言った。
「……ほう?」
リディアナは珍しく、目を丸くする。
「それは、ジェイルの立場を知ってのことか?」
「はい! ジェイルさんが旅をしているのは、軍のお仕事があるからですよね。それでも……それでも、あの人のお役に立ちたいんです!」
嘆願するようにリディアナを見つめるカレン。
リディアナはしばらくの間、その瞳を見つめて。
「……ふ。会ったばかりだというのに、あのジェイルをそこまで気に入るとは。珍しいこともあるものだな」
やがて、小さく笑って答えた。
「わかった。其方の実力を見込んで、ジェイルの巡回任務に同行できるよう、ユリエス殿には口添えしておこう。どうか、この国のために力を貸してくれ」
「領主様……! はい、ありがとうございます!」
カレンの顔がぱっと明るくなる。
「なに、お安い御用だ。ところで――カレン」
リディアナは、カレンの前に立つと続けて言った。
「君には大きな才能がある。あのジェイルにも匹敵するほどのな」
「才能……私に、ですか……?」
「ああ。君の特異魔力体質者としての力。瀕死の重症や猛毒すら癒す、規格外の令束。凄まじい力だ。……だが、今はまだ、その力に振り回されているようにも見える」
「っ……はい」
「ならば、この言葉を覚えおくんだ。"強大な力は、相応の意義を以て扱うべし"」
「力の……意義……?」
「ああ。力が無ければ、何もなし得ない。だが、意義なき力はただの暴威でしかない。何のために力を振るうのか。誰のために力を振るうのか。そこに意義を見出せたなら、その令束を使いこなす事もできるだろう。
期待しているぞ、カレン」
リディアナはカレンの肩に手を乗せ、そう微笑みかけるのであった。
「……ッ! はい。頑張ります!」
〜〜〜〜。
カレンは両手を見つめながら、リディアナとのやり取りを思い出す。
カレンの記憶は、未だ曖昧なままだ。母の顔は靄がかかったように思い出せず、一族の名前すらも記憶から抜け落ちている。
ただ、それでも。フォルニカ公国に来てからの日々は、紛れもない真実なのだ。
(私が何者だったのか、それはまだ思い出せない。だけど……)
カレンは再び、復興に勤しむマージェスの民たちを眺めた。
彼らは凄い。一族のように血は繋がっていなくても、愛する祖国のため、仲間のため、家族のために、命を賭して戦い抜く。
そんな在り方はとても眩く、そして尊く映る。
(もし、この力が誰かの役に立つのなら、私も……)
やがて。
カレンの心に、一つの決意のようなものが浮かび上がってくる。
「決めた。私、魔術士になる……! 私を救ってくれたジェイルさんのような……私を受け入れてくれた、この国の人達のような……そんな魔術士に……!」
希望と羨望の折り重なった感情が、カレンの心を満たす。
そんな、少女の決然たる思いが、風とともに駆け抜けていくのであった――
エピローグは次で最後です。
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