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【挿絵多め】煌燈十二軍と供犠奇譚《サクリフィス・サーガ》  作者: HaiRu
第二章《水の都市マージェス》
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第二章《水の都市マージェス》 エピローグ①『若き魔術士たち』



 ジェイルが最後の魔力点を破壊した、その半刻後――


「痛ってて。酷ぇ目にあったぜ……」


 復興が始まったマージェスの街。

 皆が(いそ)しむ中、銀氷狼本部の入口付近にあるベンチの上に、ルーガンが倒れ込んでいた。


「まったく。魔力切れで地下水路に倒れてたなんてね。ほんと、無茶するんだから」


 傍らにいたニナが、小さく嘆息する。


「ここまで運んでくれた組合(ギルド)のみんなに、後でお礼言っときなさいよ?」


「わかってるよ。ったく……」


 バツの悪い顔でそっぽを向くルーガン。

 だが。やがて、悔しそうに目を細めながら言った。


「……悪いな。ヨルムの括りの連中、取り逃しちまった」


「仕方ないわよ。第三(ターム)は準幹部クラス。他所(よそ)の国なら、単騎で壊滅に追い込むような連中よ。そいつらを二人も相手にして、撤退に追い込んだだけでも大金星。リディアナ様も言ってたじゃない」


「ああ……そうかもしれねぇ。だけどな、そういう問題じゃねぇんだ」


 ルーガンは自身の両手を見つめて呟く。

 その両手には、まだ残っている。リンゲルによって、おぞましい肉塊に変えられた元人間(・・・)たち。その彼らを皆殺しにした、あの感覚が。


「肉塊にされたあいつら……すげえ辛そうだった。あんな姿にされた上に、無理やり操られて、戦わされた。本当は、あいつらも助かりたかったはずなんだ。それを……俺が殺しちまった」


 額に手を当てながら、絞り出すように言うルーガン。


「……自分を責めないで。私だって、あの合成魔獣(キメラ)が人間だって最初から知ってたら……」


 やるせない顔をする二人。

 これまで、魔獣や犯罪者を殺すことはあっても、何の罪もない犠牲者の命を奪ったことなど一度も無かった。

 故に、その重圧が重くのしかかる。


「これが、命を奪う重みなのね。リディアナ様達は、一体どれだけの覚悟で……」


 簡単に割り切れない自分たちの未熟さを、嫌でも思い知らされる。

 所詮(しょせん)、自分たちは大公ユリエスにスカウトされただけ(・・)の魔術士。経験、実力、実績の全てが圧倒的に足りていない。

 結局のところ、今の煌燈(こうどう)十二軍で先代たちと対等以上に渡り合えるのは、ジェイルだけなのだ。


 そんなしんみりとした空気は、唐突に吹き飛ばされた。



「「「「失礼します! ルーガン殿、ニナ殿!」」」」



「うおっ、なんだなんだ?」


 思わず身体(からだ)を起こし、目を瞬かせるルーガン。

 見れば、ルーガンとニナの周りに、銀氷狼の魔術士達が集まっていた。


「今回の助力、本当に感謝します!」

「御二方のお陰で、マージェスを守ることができました!」

「これが新しい煌燈十二軍……流石です!」


 興奮して、次々と二人にお礼を言う魔術士達。

 やがて、二人の前に若い青年が現れた。


「ルーガン殿、ニナ殿。此度は本当にありがとうございました」


 銀氷狼、第二十分隊分隊長のウォーレン=アハトだ。

 魔術士達を代表して、過剰なくらいに深々とお辞儀をする。


「ちょ、おいおいウォーレン! そんなに(かしこ)まらないでくれよ。ちょっと立場が上ってだけで、年もそんな変わらねぇんだし……」


「そうよ。何よりあなた達が頑張ってくれたお陰で、マージェスを守ることができたのよ。みんなで掴んだ勝利だわっ!」


 感謝の言葉に戸惑う二人。

 だが、そんな二人に対しウォーレンは首を横に振る。


「いいえ。この感謝は言葉だけでは言い表せません。何せ……お二人は我々にとって"光"なのですから」


「? そいつは一体……」


「ご存知の通り、我々は第二世代と揶揄される不作の世代。私を含め、未だに三等軍用魔術の一節詠唱すらできない未熟者ばかりです」


「ウォーレン……」


「でも……だからこそ、貴方たちの姿が眩しい。ベオウルフ家のルーガンさん。アッシュ家のニナさん。

 同じ第二世代である貴方たちの活躍を聞く度に、我々はいつも鼓舞されていたのです。そして今回……戦いを共にして、その気持ちが一層強くなりました。

 まだまだ未熟な我々ですが、貴方たちに近づけるよう精進していきます! ですので……どうかこれからも、我々の光であり続けてください……!」



 ――――。



「――随分と、期待されるようになったもんだな」


 ウォーレン達が去った後、ルーガンがぽつりと呟いた。


「そうね。二年前と比べたら、嘘みたい」


 ニナも信じられないといった表情をしている。


「……ったく、やめだやめ! しみったれるのはここまでだ!」


 パン! パン!

 ルーガンは、自分の頬を思いっきり叩いた。


「あいつらの期待に応えるためにも! これ以上ジェイル一人に無理させねえためにも! 俺達が今まで以上に強くならなくちゃいけねえ。そうだよな?」


「ルーガン……」


 ニナは目を瞬かせると。


「そうね。煌燈十二軍は一騎当国。それが大陸最強たる由縁だもの。私達が新米だからって、泣き言は許されないわ」


「おし。そうと決まりゃ特訓だ! 早く復興を終わらせて、エレメンタに帰ろうぜ!」


「勿論よ。いくらでもやってやるんだから!」


 自らを見つめ直したルーガンとニナは、復興に勤しむ皆の元へと向かっていく。

 それぞれの思いと決意を胸に秘めながら。


(リンゲル=ライヤード……あの腐れ外道の(ジジイ)の始末は、いつか絶対に俺がつける。それは、俺がやらなくちゃいけねぇことなんだ……!)

 

(もっともっと強くなる。もう、皆の足手まといなんて懲り懲りだもの……!)


 若き魔術士達の新たなる戦いは、まだ始まったばかりであった――



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