第64話 『王の聖炎』
「お、大きい……」
カレンが思わず息をのむ。
それはまるで、葉の落ちた大木のようなシルエットだった。
象るのは円形、四方形、五方形……
数万は超えるであろう魔力法陣が、パズルのように組み合わさって、噴水の上に形を成しているのである。
ガチン、ガチン、と駆動音を鳴らすその様は、非常に不気味で歪。
その上、なぜ今まで誰も気づかなかったのか不思議なほど、絶大な魔力に満ちていた。
「これだけ大きな術式を、私達に全く気付かせずに作るなんて……あいつら一体、どれだけの技術があるっていうの……!」
ひと目でわかる。
ニナたちが解除してきた物とは格が違う。こんな術式、仮に今の煌燈十二軍が全員揃ったとしても、絶対に再現は不可能だ。
あまりの規格外さに気圧されるジェイルたち。しかし、状況はこちらを待ってくれない。
「ジェイルさん、ニナさん。ごめんなさい。これ以上は……!」
息の切れたカレンの声と共に、【友愛】の発光が終わる。そして我に返った魔獣たちが、次々とジェイルたちに牙を向けるのだった。
「カレン!」
疲労で前かがみになるカレンの肩を、ジェイルが抱きとめる。
(くそッ、どうする! ようやくここまで辿り着いたのに。このままでは……!)
ジェイルは心の中で歯噛みする。
あの術式はどう考えても、俺やニナが解除できる代物ではない。
【ゼロフィーラ】なら無理やり壊せるか?
いや、駄目だ。あれは起動すると、周囲一帯の魔力操作ができなくなる。つまりその間、ニナや周辺で戦っている仲間たちは、魔力を使わずに魔獣と戦わなくてはならない。
一撃で壊せる保証がない以上、そんな危険な賭けは論外だ。
方法が……あるとすれば……
やがて。
「――ニナ。ここは俺に任せてくれ。俺の魔術で、魔力点を魔獣もろとも破壊する」
ジェイルが静かにそう言った。
「破壊!? 確かに【ゼロフィーラ】なら出来るかもしれないけど、あの魔術は……!」
「わかってる。【ゼロフィーラ】は一定範囲内の魔力操作を不能にする魔術。ここで使っても、皆の足を引っ張るだけだ。だから……あれを使う」
「な――あれって、まさか!」
ニナの瞳が驚愕に見開いた。
「……ジェイル……いけるの?」
そして。
ゆっくりと、噛み締めるようにジェイルに問う。
「ああ。今の俺なら、仲間を巻き込まずに魔獣を殲滅して、尚且つあの魔力点も必ず破壊してみせる。――信じてくれ」
ジェイルは真っ直ぐニナを見つめるが、その表情はどこか自罰的だ。
「ばか。心配してるのはそこじゃないわよ。アンタの気持ちの問題」
対するニナは何かを察したようで、どこか煮え切らないように目を伏せる。
が、すぐに。
「そう……わかったわ。なら私は、魔術の起動まで全力でサポートするだけね!」
己のやるべき事を全うせんとばかりに、魔獣たちの前に出た。
「《原始の根源よ・戦神たる守り手と共に・数多の仇を打ち払え》! 錬成弍式【フラグメント・イージス】ッ!」
ニナの詠唱とともに、地面から魔術円陣が次々に浮かび上がる。
そこから人の大きさほどの巨大な盾が現れ、ドーム状に展開。魔獣らの牙や爪を尽く防ぐのであった。
錬成弍式【フラグメント・イージス】。無数の大盾を衛星のように飛ばして敵を阻む。
錬成系【アルケミー・ドローイング】を基にして編み出した、ニナの改変魔術だ。
「今よジェイル!」
「ああ!」
ニナの一声にジェイルが反応する。
「カレン! 今から魔獣とあの術式を、俺の魔術で薙ぎ払う。巻き込まれないよう、俺の近くに!」
「は、はい!」
反射的に駆け寄るカレン。
それを見たジェイルはゆっくりと瞳を閉じる。
そして、コォオオオオオ――と。
特徴的な呼気をして、深層意識に集中する。
……………………
今。目の前では、ニナが必死になって時間を稼いでくれている。
ニナだけじゃない。銀氷狼に組合。立場は違えど、数多くの仲間たちが奮闘している。
俺に出来ること。それは一刻も早く術式を壊し、この街の脅威を消し去ることだ。
それなのに――
「……!」
次の瞬間。
ジェイルの脳裏に、ある一つの光景が浮かんだ。
それは辺り一面、白く染まった地獄風景。
真ん中に佇むのは、恐ろしい瘴気を纏った異形の少女。
彼女はただ穏やかに、こちらをじっと見つめていて……
「ジェイルさん。大丈夫ですか……?」
その声で我に返ったジェイル。
隣では、カレンが心配そうに肘の袖をつまんでいた。どうやら集中が途切れて、虚ろな目をしていたらしい。
「ああ。――すまない」
昏い記憶に蓋をする。
そして、カレンに優しく微笑むと。
「いくぞ。熱量操作の真髄、見せてやる」
静かに目を閉じ、もう一度意識を集中させて。
全てを終わらせる、必滅の呪文を唱え始めた――
「《王の名を持つ白き蛇・》」
ドクン!
一節目を終えた直後。
何かが鼓動するような、魔力の衝撃が周囲に響く。
「《・灼空震わす金色の尾・》」
二節目。
ジェイルの足元が光り輝き、そこから無数の光の線が、地面をなぞるように走り出す。
無造作だがどこか規則的にも見える光の線は、やがて一つの大きな魔術円陣を象っていく。
「《――・九園の焦熱以て咎人を焼き尽くせ》ッ!」
三節目。
詠唱を終え、数秒の沈黙の後に。
世界が白熱する――
いつもご愛読ありがとうございます!
『いいね』と『ポイント』で応援よろしくお願いします!!




