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【挿絵多め】煌燈十二軍と供犠奇譚《サクリフィス・サーガ》  作者: HaiRu
第二章《水の都市マージェス》
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第64話 『王の聖炎』



「お、大きい……」


 カレンが思わず息をのむ。


 それはまるで、葉の落ちた大木のようなシルエットだった。

 (かたど)るのは円形、四方形、五方形……

 数万は超えるであろう魔力法陣が、パズルのように組み合わさって、噴水の上に形を成しているのである。

 ガチン、ガチン、と駆動音を鳴らすその様は、非常に不気味で(いびつ)

 その上、なぜ今まで誰も気づかなかったのか不思議なほど、絶大な魔力に満ちていた。


「これだけ大きな術式を、私達に全く気付かせずに作るなんて……あいつら一体、どれだけの技術があるっていうの……!」


 ひと目でわかる。

 ニナたちが解除してきた物とは格が違う。こんな術式、仮に今の煌燈(こうどう)十二軍が全員揃ったとしても、絶対に再現は不可能だ。

 あまりの規格外さに気圧されるジェイルたち。しかし、状況はこちらを待ってくれない。


「ジェイルさん、ニナさん。ごめんなさい。これ以上は……!」


 息の切れたカレンの声と共に、【友愛(フィーリア)】の発光が終わる。そして我に返った魔獣たちが、次々とジェイルたちに牙を向けるのだった。


「カレン!」


 疲労で前かがみになるカレンの肩を、ジェイルが抱きとめる。


(くそッ、どうする! ようやくここまで辿り着いたのに。このままでは……!)


 ジェイルは心の中で歯噛みする。


 あの術式はどう考えても、俺やニナが解除できる代物ではない。

 【ゼロフィーラ】なら無理やり壊せるか?

 いや、駄目だ。あれは起動すると、周囲一帯の魔力操作ができなくなる。つまりその間、ニナや周辺で戦っている仲間たちは、魔力を使わずに魔獣と戦わなくてはならない。

 一撃で壊せる保証がない以上、そんな危険な賭けは論外だ。

 方法が……あるとすれば……


 やがて。


「――ニナ。ここは俺に任せてくれ。俺の魔術で、魔力点を魔獣もろとも破壊する(・・・・・・・・・・)


 ジェイルが静かにそう言った。


「破壊!? 確かに【ゼロフィーラ】なら出来るかもしれないけど、あの魔術は……!」


「わかってる。【ゼロフィーラ】は一定範囲内の魔力操作を不能にする魔術。ここで使っても、皆の足を引っ張るだけだ。だから……あれ(・・)を使う」


「な――あれって、まさか!」


 ニナの瞳が驚愕に見開いた。


「……ジェイル……いけるの?」


 そして。

 ゆっくりと、噛み締めるようにジェイルに問う。


「ああ。今の俺なら、仲間を巻き込まずに魔獣を殲滅して、尚且つあの魔力点も必ず破壊してみせる。――信じてくれ」


 ジェイルは真っ直ぐニナを見つめるが、その表情はどこか自罰的だ。


「ばか。心配してるのはそこじゃないわよ。アンタの気持ちの問題」


 対するニナは何かを察したようで、どこか煮え切らないように目を伏せる。

 が、すぐに。


「そう……わかったわ。なら私は、魔術の起動まで全力でサポートするだけね!」


 己のやるべき事を全うせんとばかりに、魔獣たちの前に出た。


「《原始の根源よ・戦神(せんじん)たる守り手と共に・数多の仇を打ち払え》! 錬成弍式【フラグメント・イージス】ッ!」


 ニナの詠唱とともに、地面から魔術円陣が次々に浮かび上がる。

 そこから人の大きさほどの巨大な盾が現れ、ドーム状に展開。魔獣らの牙や爪を尽く防ぐのであった。


 錬成弍式【フラグメント・イージス】。無数の大盾を衛星のように飛ばして敵を阻む。

 錬成系【アルケミー・ドローイング】を基にして編み出した、ニナの改変魔術(オリジナル)だ。


「今よジェイル!」


「ああ!」


 ニナの一声にジェイルが反応する。


「カレン! 今から魔獣とあの術式を、俺の魔術で薙ぎ払う。巻き込まれないよう、俺の近くに!」


「は、はい!」


 反射的に駆け寄るカレン。

 それを見たジェイルはゆっくりと瞳を閉じる。

 そして、コォオオオオオ――と。

 特徴的な呼気をして、深層意識に集中する。



 ……………………



  今。目の前では、ニナが必死になって時間を稼いでくれている。

 ニナだけじゃない。銀氷狼に組合。立場は違えど、数多くの仲間たちが奮闘している。

 俺に出来ること。それは一刻も早く術式を壊し、この街の脅威を消し去ることだ。


 それなのに――


「……!」


 次の瞬間。

 ジェイルの脳裏に、ある一つの光景が浮かんだ。

 それは辺り一面、白く染まった地獄風景。

 真ん中に佇むのは、恐ろしい瘴気を纏った異形の少女(・・・・・)

 彼女はただ穏やかに、こちらをじっと見つめていて……


「ジェイルさん。大丈夫ですか……?」


 その声で我に返ったジェイル。

 隣では、カレンが心配そうに肘の袖をつまんでいた。どうやら集中が途切れて、虚ろな目をしていたらしい。


「ああ。――すまない」


 昏い記憶に蓋をする。

 そして、カレンに優しく微笑むと。


「いくぞ。熱量操作の真髄、見せてやる」


 静かに目を閉じ、もう一度意識を集中させて。

 全てを終わらせる、必滅の呪文を唱え始めた――



「《王の名を持つ白き蛇・》」


 ドクン!

 一節目を終えた直後。

 何かが鼓動するような、魔力の衝撃が周囲に響く。


「《・灼空(しゃっくう)震わす金色(こんじき)の尾・》」


 二節目。

 ジェイルの足元が光り輝き、そこから無数の光の線が、地面をなぞるように走り出す。

 無造作だがどこか規則的にも見える光の線は、やがて一つの大きな魔術円陣を象っていく。


「《――・九園の焦熱以て咎人(とがびと)を焼き尽くせ》ッ!」


 三節目。

 詠唱を終え、数秒の沈黙の後に。

 世界が白熱する――



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