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【挿絵多め】煌燈十二軍と供犠奇譚《サクリフィス・サーガ》  作者: HaiRu
第二章《水の都市マージェス》
66/73

(挿)第63話 『【友愛】―フィーリア―』★


 

 ――マージェス南区十六番街と十七番街の境目。

 水路で囲まれた三角形をかたどる街区画。

 中心に全長5メートル程の大きな噴水があり、周辺には木々やベンチが並ぶ。南区に住む住人たちにとっては、待ち合わせや休息にも使う憩いの場だ。


 だが今は、激しい戦闘の余波があちこちに刻まれており、灰化した魔獣の遺骸や崩壊した瓦礫が転がっていた。そしてほんの少し離れたところでは、魔術の炸裂音や魔獣のかなきり声、魔術士たちの喧騒な叫び声が聞こえてくる。

 

 その決戦の地にて、今、二つの勢力がぶつかろうとしていた。


「予想していたが……」


「ここも馬鹿みたいにいるわね」


 ジェイルとニナがそう言って、前方を睨みつける。

 その視線の先には、やはり魔獣。魔獣。魔獣。

 黒狂犬、バジリスク、カトブレパス、センティコア、etc……

 これまで現れた数々の魔獣たちが、勢揃いで立ち塞がっていた。


『『『『グルルルル……!』』』』


 ジリジリとにじり寄る魔獣たち。ジェイルとニナがカレンを守るようにして立ち、臨戦態勢をとる。


「カレン。令束(イルバ)の発動までどれくらいかかる?」


「広場が思ったより広くて……2分ほどいただければ。必ず見つけてみせます!」


「よし分かった。ニナ、俺たちで時間を稼ぐぞ」


「ええ!」


 そう言葉をかわし合って。

 ジェイルとニナは、数多の魔獣へと挑むのであった――

 


「はあああああ――!」


 ジェイルが稲妻のように、陣を取る魔獣たちの中へ駆け抜ける。


 ズバッ! ズバッ!


 そして右手に持った短剣で、魔獣たちの首を確実に仕留めていく。

 本来ジェイルなら、熱量魔術を使えば一対多数の制圧は簡単にできる。だがこの戦闘でジェイルは魔術を控え、短剣による近接戦闘のみに留めていた。


 というのも、炎熱も氷熱も、周囲のマナを大きく乱す。カレンの令束(イルバ)の邪魔になるからだ。

 だがそうなると当然、仕留めそこなった魔獣がカレンたちの元へと襲いかかる。


「そこ――《貫け雷閃》ッ!」


 それをニナが【ライトニング・レイ】で次々に撃ち落とす。雷撃系・風衝系の魔術は発動後すぐに霧散するため、大気中のマナへの影響が少ないのである。


「〜〜〜〜」


 そして後方――カレンが満を持して瞳を閉じ、祈るように手を合わせ始めた。

 ゆっくりと呼吸を整え、自身の外側――世界へと意識を傾ける。

 脳裏に呼び起こすのは忘れもしない、あの頃の感覚……



 〜〜〜〜。



「も〜! また見つかったぁ!」


 幼い頃のある日。

 カレンは広大な平原で、かくれんぼをしていた。

 カレンが隠れて母が探す。

 だがどういうわけか、何度隠れても母はすぐにカレンを見つけ出すのである。

 特に今回は、カレンを全身すっぽり覆うような、高い草木の中に潜り込んだのにも関わらずだ。


『そうね。ここからじゃ、あなたの姿は全然見えなかったわ。随分と隠れるのが上手になったわね、カレン』


 母がそう言って優しく笑う。


「えー! じゃあどうして私のいる場所がわかったの?」


『それはね、大自然のマナに聞いてみたのよ。両手を広げて、目を閉じてみて』


 カレンは言われた通りにしてみた。


『……ほら、感じるでしょう? 風の流れ、陽の暖かさ、草花の匂い。この世界を廻っている命が。それをもっと凝らすと、マナが見えてくるわ』


「うーん。難しいよお母さん……」

 

 カレンが困った顔をする。


『そうね。急に言われても難しいわよね。じゃあ、ちょっと見てて?』


 母は今度は両手を合わせて、祈るようなポーズをとる。

 するとたちまち、母の周りがキラキラと光り出した。


「わぁ……きれい……!」


 光の粒子はどんどん広がっていき、やがて一族の皆が暮らしている移動式住居の近くまで到達する。


『これが魔力の源……マナよ。私たち⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎は、マナとの親和性がとても高い一族なの。だから心を澄ませて感じれば、色々なことを教えてくれるのよ?

 例えばそう……もうすぐあの木の枝に、小鳥がとまること……とかね』


 母が指した枝をじっと見ていると、ほんの数秒後に言った通りになった。


「すごい!」


 ぱっと表情が明るくなるカレン。


「お母さん。それ、私にも教えて!」


 カレンは母の腕に飛びついて、そうねだった。


『ふふふ、いいわよ。じゃあこれは、カレンが初めて覚える令束(イルバ)ね。マナを感じとって、光らせる力。名前は――』



 〜〜〜〜。



「なんだ……!?」


 戦いの最中(さなか)、ジェイルは魔力的な感覚が、一瞬でざわつくのを感じた。

 理由は言うまでもない。カレンが瞳を閉じ、両手を合わせて何かを祈り始めた直後に、周囲の空気が変わったのだ。

 

(これが噂に聞く、令束発動時の魔力のゆらぎか……!)


 カッ――!


 カレンを中心に、何かが呼応するように波打ちはじめる。その『何か』は徐々に、視覚的な形となって現れるのだった。


「「ッ!」」


 次の瞬間、ジェイルとニナが息をのむ。

 カレンの周囲がキラキラと光り出し、それが伝播するかのように広場一帯に広がっていく。

 戦々恐々としていた戦場が、一瞬で幻想的な光景に変貌したのだ。魔獣たちも動揺して、周囲の輝きに右往左往するばかりだ。


「カレン。これが……」


 隙を見て戦闘から離脱したジェイルが、カレンに問いかける。


「はい。マナを光らせる令束(イルバ)――【友愛(フィーリア)】です!」


挿絵(By みてみん)


「これがマナ……。凄い、初めて見たわ」


 ニナも目を見開いて、光の粒子に手を伸ばしている。


「ジェイルさん、ニナさん。あそこです!」


 そんな矢先、カレンが指さしたのは噴水の真上。

 そこだけぽっかりと円柱型に空間が空いており、光の粒子が存在していない。

 つまり、その場所にはマナが存在する余地が(・・・・・・・・・・)ない(・・)、ということだ。


「――《原始の力・均衡に従い・回帰せよ》!」


 ジェイルが反射で【マテリアル・バニッシュ】を唱える。

 すると、これまで覆い隠されていた魔獣の大量召喚の術式が、ついに姿を現した……



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