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【挿絵多め】煌燈十二軍と供犠奇譚《サクリフィス・サーガ》  作者: HaiRu
第二章《水の都市マージェス》
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第62話 『剣の砦』

 


 ――――。



 次々と魔獣が押し寄せる。

 まるで、間欠泉から吹き出る熱水のように。


「まるで、魔獣の大洪水だな……」


 迫りくる毒蛇の魔獣――ムシュフシュを短剣で捌きながら、ジェイルが言う。

 マージェスの南部に入って、魔獣の数はさらに増えた。

 街路一面、隙間がないくらいにうじゃうじゃと。

 

「ジェイルさん! ニナさん! こっちの道なら魔獣が少ないです!」


 カレンの先導で、三人は路地裏に駆け込む。

 すると当然、魔獣たちの矛先は先頭を走るカレンへと向くのだが……その攻撃はカレンに当たらない。


「ふ――」


 カレンは路地裏の狭い地形を利用しながら、魔獣の爪や牙をぴょいぴょいと躱し、風のように駆け抜けていく。

 その速さは、要所要所で魔獣を迎撃しているとはいえ、【エンチャント・クロス】で身体能力を上げたジェイルやニナでも追いかけるのがやっとのほどだ。


「凄いわね、カレンったら。初めて通る道でしょうに。魔力感知とマナ感知だけで迷わず進んでる……」


 ニナが感嘆の声を漏らす。ジェイルも全く同じ気持ちだった。

 ほんの数日前。初めて出会った時の彼女は、あどけなさの残る危うい少女だったというのに、今はその面影をまるで感じない。

 力強い意思に行動力。これがカレン本来の性格なのだろうか。


 そうしているうちに、三人は狭い路地を抜け、四方が建造物に囲まれた、小さな広場に出た。


「ここは……」


「静かすぎるわね」


 広場は不気味なほど静まり返っていた。

 いつの間にか魔獣は消え、ランチタイム用のテント付きテーブルやベンチ、木々などが全く荒らされていない状態で残っている。

 ここだけ魔獣の被害がすっぽりと消えている様子だ。

 明らかな違和感を抱きつつも、三人は進む。

 しかし案の定、その嫌な予感はすぐ現実となった。


 ひゅんひゅんひゅん!


 広場の真ん中を通り始めたところで、四方の建物の壁を埋め尽くすように、円形法陣が現れたのだ。


「もおおお! やっぱり罠じゃない!」


「そんなっ! 魔力は感じなかったのにどうして……!?」


 壁の法陣からは魔獣が次々に出現し、ぼとり、ぼとりと地面に落ちていく。

 そして、溢れんばかりの魔獣の群れに、ジェイルたちはあっという間に囲まれてしまった。


「どうやら奴らの隠蔽術は、カレンの魔力感知すら超えていたらしいな。だが――」


 それにしても数が多すぎる。

 抜けるためには、四つの狭い路地のどれかを通る必要があるが、当然魔獣たちに防がれている。

 建物の外壁を蹴り上がり、屋上に昇っていこうにも、壁全体を覆い尽くす魔獣たちのせいで物理的に不可能だ。


「ち、これはまずい……!」

 

 あたりを見渡し、逃げ場のない状況に、流石のジェイルも苦い表情を浮かべる。

 既に、本部の残存戦力が投入されてから、かなりの時間が経った。都心部を守る結界魔術が崩壊するのも、時間の問題だ。


「交戦するしかないわね。こんなところで時間をかけてる場合じゃないのに……!」


 刻々と過ぎていく時間に、焦り出す面々。

 その時だった。


「左様。ここで油を売っている場合では無い。ならば、露払いは儂の役目じゃろう」


 頭上から、厳かな声が響く。

 思わず見上げる三人。

 そこに現れた筋骨隆々の老人の姿に、全員息をのんだ。

 その正体は――


「「「タイタスさん!」」」


 銀氷狼本部にてカレンが助けた一級魔術士、タイタス=ヴァンダムであった。


「ふ――!」


 屋上から飛び降りたタイタスは、ジェイルたちの前に派手に着地。


「事情を聞いた。最後の魔力点の場所は、カレンの嬢ちゃんならば見つけられるとな」


「は、はい!」


 反射的にカレンが返事をする。


「うむ。であればここは儂に任せて、お主らは先に向かうといい」


 警戒する魔獣たちの前に立って。

 タイタスは腕を組み、ただならぬ気配を纏い、淡々と詠唱を始めた。


「《集え無尽の万象・宣告は途絶え・武に狂うべし》――錬成弐式【フラフィウス・ロック】」


 詠唱と同時に、周囲の景色が一変する。

 建物の外壁がせり上がって岩肌へと変貌し、魔獣召喚の法陣が粉々に砕け散っていく。

 そして盛り上がった岩は、外壁にへばりつく魔獣たちを、ボトボトと地上へ落としていった。


「すごい! 建物の外壁全体に干渉して、敵の術式を崩すなんて。錬成魔術の規模を超えてる……」


 タイタスが見せた絶技に、ニナは感嘆の声を漏らす。

 さらにタイタスは、蔓延る魔獣たちを見据え、再び呪文を唱え始める。


「《炎獄の大海よ・真紅の暴波纏いて・蒼き万象を呑み尽くせ》――炎熱弐式【プロミネンス・ヴェール】」


 今度は、ジェイルたちの周囲に膨大な炎の奔流が現れた。

 炎は波のようにうねり、地面にいる魔獣たちを根こそぎ灰にしていく。


「……ッ! これがタイタスさんの改変魔術か。特異魔力体質者のブースト無しで、これほど繊細な魔力操作ができるなんて……!」


 ジェイルのお株を奪う圧倒的な熱量魔術に、三人は息をのむしかない。

 そうするうちに、炎が左右に割れ、その先に細い街路へと続く一筋の道が現れた。


「今じゃ。行け!」


「「「はい!」」」


 この好機を逃すまいと、駆け抜ける三人。

 かくして。

 ジェイル達は最後の戦場へと向かうのであった。

 

 そして一人残ったタイタスは、【プロミネンス・ヴェール】の炎を掻い潜った生き残りの魔獣たちを睨みつける。


「ほう。同胞がこれだけやられても、恐怖すら見せんか。だが――《画一せし始原の力よ》」


 その一言で、岩に変質した建物の外壁から魔術円陣が次々と浮かび上がった。

 僅か一節にまで切り詰めた【アルケミー・ドローイング】によって現れたのは、数多の大剣。

 大の大人と同じくらいの大剣が、飛び出しては地面に刺さり、飛び出しては地面に刺さり――


 周囲はあっという間に、無数の大剣で埋め尽くされた。

 これこそ、タイタス=ヴァンダムの通り名の由縁。


「纏めてかかってこい。公国に仇なす魔獣共。此処より先――『剣の砦』を越えることは、永劫叶わぬと知れ……ッ!」


 獣の唸り声にも近い声が、周囲一帯の空気を震わせる。

 凄まじき威圧を纏いながら、タイタスは大剣の一本を引き抜き、魔獣へと突貫していくのであった。



2025年! あけましておめでとうございます!!(大遅刻)

最近バタバタしていましたが、ようやく時間が空いてきたので、またボチボチ更新を進めていこうと思います。

挿絵も増やしていくのでお楽しみに!



いつもご愛読ありがとうございます!

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