第59話 『止まらない侵攻』
――――。
「まったく、どうなってんのよ!」
マージェス西部。
倉庫街から少し離れた街路にて。
ニナは、大量の魔獣と交戦していた。
倉庫にあった魔力点の解除後、捕縛したヴェレーノを銀氷狼に引き渡した所までは良かったものの、突如として魔獣の大群が出現。
本部に戻る銀氷狼の仲間を魔獣から守るため、孤軍奮闘しているのだった。
「せっかく魔力点を解除したのに、魔獣が一向に減らないなんて……!」
目の前の状況に違和感を感じながらも、ニナは魔獣たちと戦い続ける。
そこへ……
「「「「ニナ殿!」」」」
性別や年齢、魔装束や装備もバラバラの魔術士が数名、小隊となって現れた。
彼らは銀氷狼ではなく、組合に所属する魔術士だ。
「みんな! 何が起こってるの?」
「マージェス全域で、魔獣召喚が相次いでいます! しかも通信用の魔導器が魔力妨害を受けて、本部との連絡が取れません!」
最前列の若い男が言った。
「そんなっ、倉庫の魔力点はとっくに解除したのよ! 少しは減ってもいいのに、一体どうして……」
「一応、倉庫だけでなく、ルーガン殿の赴いた旧地下水路でも、魔力点の消失が確認されました。
ジェイル殿が向かった時計塔の魔力点は偽物で、件のティタノボアが出現しましたが、ジェイル殿によって討伐済みです」
「それなのに、状況が悪化してるっていうの?」
「ええ、残りの魔力点については、現在銀氷狼の方たちが捜索中です。
とはいえ通信できない以上、伝令がどうしても遅れてしまいます。解決には、もうしばらく時間がかかるかと……」
ヨルムの括りの1人を捕縛、3つあるはずの魔力点のうち2つを解除したにも関わらず、魔獣召喚はとまらない。
恐らく魔力点がまだ隠されているだろうが、魔力妨害で通信できない以上、すぐに解決はされないだろう。
「次から次へと状況が悪くなってるわね。この展開も、ヨルムの括りの計画通り、なんて考えたくないけど……」
そんな矢先、地面から再び円形方陣が浮かび上がる。
方陣から黒狂犬の群れが現れ、ニナたちに襲いかかるのだった。
「もう! ゴキブリみたいに湧いてくるんだから! 《黒星よ・大地を割け》ッ!」
ニナが呪文を唱えると、前方に巨大な魔術円陣が出現。
迫りくる黒狂犬が陣上を通過した途端、ぺしゃりと地面に押し潰される。
三等軍用魔術――重力系【グラビティ・フィールド】だ。
「ここは私に任せて! あなた達は本部に戻って、リディアナさまから直接指示を仰ぐの! いい!?」
「「「「は、はい!」」」」
ニナの一声で組合の魔術士たちは一斉に撤退。
それを確認したニナは……
「アンタ達の相手は私よ! はああああああああ――!」
アダーガを高速錬成し、魔獣の群れへと突貫していくのであった。
――――。
「っ……流石に多いわね……!」
一向に減る気配のない魔獣たちを見て、ニナが歯噛みする。
アダーガによる近接戦を主体とすることで、魔力は温存できているものの、やはり体力は削られるのだ。
しかし、状況は無情。
河川や水路の脇から円形方陣がぼっ、と浮かび上がって。
そこから現れたのは、2本の角を持った牡牛の魔獣、センティコア。
『ブルルルル……!』
「やばっ」
センティコアがその大きな角で、ニナを貫かんと襲いかかった……その時。
「《氷壁よ》ッ!」
大きな声と共に、ニナの足元近くから魔術円陣が開いた。
そこから隆起した氷塊に呑まれ、センティコアは一瞬で絶命する。
「【グレイス・ブロック】!? それにこの声って――」
放たれた魔術――【グレイス・ブロック】の術者は……
「ニナ! 無事か!?」
ジェイルだった。
「ジェイル!」
「伝令役の魔術士から聞いたよ。第二階『魔毒』のヴェレーノの捕縛、お手柄だったじゃないか」
「当然っ! そっちも聞いたわよ。あのティタノボアを一人で倒すなんて、流石ね!」
ニナが笑顔でピースをして。
「ああ。だけど、この状況は一体何なんだ?」
ジェイルが辺り一体を見渡した。
魔獣たちは建造物を壊し、水路に牙を立て、街灯を齧っている。
まるで砂糖に群がるアリのように、マージェスの街を襲っているのだ。
「見ての通りよ。魔力点を解除したはずなのに、魔獣の召喚が止まらないの。寧ろどんどん増えてる……」
「おかしい。俺の所はフェイクだったけど、ニナが1つ解除している。普通なら出力が落ちて、魔獣召喚は減るはずなんだが」
「一応、ルーガンのとこも解除されてるみたいなんだけど、当のアイツは来ないし……。ああもう! なにやってんのよ。あの馬鹿は!」
天に向かって叫ぶニナに。
「ふ、ルーガンがそんなに心配だったら、ニナだけ旧地下水路に行ってもいいんだぞ?」
ジェイルは含むような笑みを浮かべて言った。
「べ、別に心配してないし! どうせ疲れて寝てるとかでしょ! ジェイルの馬鹿ッ! 阿呆ッ! 性格不安定ッ!」
「えぇ……」
ニナのマシンガンのような罵倒に、流石のジェイルも顔をひきつらせるしかない。
「ふん。あいつがそんな簡単にやられるわけないわよ」
ニナは口を尖らせて。
「ああ、そうだな。一応、旧地下水路には仲間が向かってくれた筈だから、きっと大丈夫さ」
そんなやり取りしながら。
二人はおびただしい数の魔獣を捌き続ける。
「《炎楼よ》ッ!」
『キシャアアアアア――!』
「ち――」
「ジェイル、頭を下げて! はあッ!」
『〜〜〜〜!』
ジェイルの放った魔術の隙を突いて、突進してきた黒狂犬を、ニナが錬成した長剣の投擲でうち落とす。
そして……
「「「「うおおおおおおおおおお――――!」」」」
「「「「押し戻せぇええええーー!」」」」
「「「「煌燈十二軍のお二方に続くんだ――ッ!」」」」
増援に来た銀氷狼、組合の混成部隊が、魔術を次々と放つ。
『『『『グルルルルル……!?』』』』
その勢いに魔獣たちが怯み、後方へと一箇所に固まった所へ――
「ニナ! あわせろ!」
「ええ!」
「「《氷壁よ》ッ!」」
ジェイルとニナによる【グレイス・ブロック】の同時撃ち。
特異魔力体質者のブーストに加え、2人の魔力共鳴で威力が何倍にも増幅した氷塊が、魔獣たちを一網打尽にする。
互いに信頼していなければ出来ない、見事な連携だ。
しかし……
『『『『キシャ――――ッ!』』』』
魔獣の召喚は、止まらない。
「もう! どんな理屈なのッ!?」
次々現れるアーヴァンク、フレムベア、黒狂犬らに、ニナは地団駄を踏む。
「まずいな。俺たちの奮戦で士気を上げた矢先だ。このままだと、限界は近い」
増援に来た仲間たちも、もともとは別の戦線で戦っていたのだ。
疲弊する仲間の様子を見て、ジェイルが苦い顔をする。
「本部からの連絡もないし……どうしたらいいのよ……!」
皆、かろうじてまだ戦うことは出来るが、状況が詰みすぎている。
疲労が蓄積されていくなか、最早打つ手なし。
誰もが思った……その時だった。
「ジェイルさんっ!」
ジェイルたちの背後から、一際高い声が上がる。
振り返ったジェイルとニナの2人は、意外な人物に目を見開いた。
「あなた……!」
「カレン!? どうしてここに――」
「ついてきて下さい! 最後の魔力点を見つけました!」
その声の主は、煉瓦色の髪の少女――カレンだった。
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