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【挿絵多め】煌燈十二軍と供犠奇譚《サクリフィス・サーガ》  作者: HaiRu
第二章《水の都市マージェス》
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第59話 『止まらない侵攻』



――――。



「まったく、どうなってんのよ!」


 マージェス西部。

 倉庫街から少し離れた街路にて。

 ニナは、大量の魔獣と交戦していた。


 倉庫にあった魔力点の解除後、捕縛したヴェレーノを銀氷狼に引き渡した所までは良かったものの、突如として魔獣の大群が出現。

 本部に戻る銀氷狼の仲間を魔獣から守るため、孤軍奮闘しているのだった。


「せっかく魔力点を解除したのに、魔獣が一向に減らないなんて……!」


 目の前の状況に違和感を感じながらも、ニナは魔獣たちと戦い続ける。

 そこへ……


「「「「ニナ殿!」」」」


 性別や年齢、魔装束(シュレーゼ)や装備もバラバラの魔術士が数名、小隊となって現れた。

 彼らは銀氷狼ではなく、組合(ギルド)に所属する魔術士だ。


「みんな! 何が起こってるの?」


「マージェス全域で、魔獣召喚が相次いでいます! しかも通信用の魔導器が魔力妨害(ジャミング)を受けて、本部との連絡が取れません!」


 最前列の若い男が言った。


「そんなっ、倉庫の魔力点はとっくに解除したのよ! 少しは減ってもいいのに、一体どうして……」


「一応、倉庫だけでなく、ルーガン殿の赴いた旧地下水路でも、魔力点の消失が確認されました。

 ジェイル殿が向かった時計塔の魔力点は偽物で、(くだん)のティタノボアが出現しましたが、ジェイル殿によって討伐済みです」


「それなのに、状況が悪化してるっていうの?」


「ええ、残りの魔力点については、現在銀氷狼の方たちが捜索中です。

 とはいえ通信できない以上、伝令がどうしても遅れてしまいます。解決には、もうしばらく時間がかかるかと……」


 ヨルムの括りの1人を捕縛、3つあるはずの魔力点のうち2つを解除したにも関わらず、魔獣召喚はとまらない。

 恐らく魔力点がまだ隠されているだろうが、魔力妨害で通信できない以上、すぐに解決はされないだろう。


「次から次へと状況が悪くなってるわね。この展開も、ヨルムの括り(奴ら)の計画通り、なんて考えたくないけど……」


 そんな矢先、地面から再び円形方陣が浮かび上がる。

 方陣から黒狂犬(ヘルオーン)の群れが現れ、ニナたちに襲いかかるのだった。


「もう! ゴキブリみたいに湧いてくるんだから! 《黒星よ・大地を割け》ッ!」


 ニナが呪文を唱えると、前方に巨大な魔術円陣が出現。

 迫りくる黒狂犬(ヘルオーン)が陣上を通過した途端、ぺしゃりと地面に押し潰される。

 三等軍用魔術――重力系【グラビティ・フィールド】だ。


「ここは私に任せて! あなた達は本部に戻って、リディアナさまから直接指示を仰ぐの! いい!?」


「「「「は、はい!」」」」


 ニナの一声で組合(ギルド)の魔術士たちは一斉に撤退。

 それを確認したニナは……


「アンタ達の相手は私よ! はああああああああ――!」


 アダーガを高速錬成し、魔獣の群れへと突貫していくのであった。



 ――――。



「っ……流石に多いわね……!」


 一向に減る気配のない魔獣たちを見て、ニナが歯噛みする。

 アダーガによる近接戦を主体とすることで、魔力は温存できているものの、やはり体力は削られるのだ。


 しかし、状況は無情。

 河川や水路の脇から円形方陣がぼっ、と浮かび上がって。

 そこから現れたのは、2本の角を持った牡牛の魔獣、センティコア。


『ブルルルル……!』


「やばっ」


 センティコアがその大きな角で、ニナを貫かんと襲いかかった……その時。


「《氷壁よ》ッ!」

 

 大きな声と共に、ニナの足元近くから魔術円陣が開いた。

 そこから隆起した氷塊に呑まれ、センティコアは一瞬で絶命する。


「【グレイス・ブロック】!? それにこの声って――」


 放たれた魔術――【グレイス・ブロック】の術者は……


「ニナ! 無事か!?」


 ジェイルだった。


「ジェイル!」


「伝令役の魔術士から聞いたよ。第二階『魔毒』のヴェレーノの捕縛、お手柄だったじゃないか」


「当然っ! そっちも聞いたわよ。あのティタノボアを一人で倒すなんて、流石ね!」


 ニナが笑顔でピースをして。


「ああ。だけど、この状況は一体何なんだ?」


 ジェイルが辺り一体を見渡した。

 魔獣たちは建造物を壊し、水路に牙を立て、街灯を(かじ)っている。

 まるで砂糖に群がるアリのように、マージェスの街を襲っているのだ。


「見ての通りよ。魔力点を解除したはずなのに、魔獣の召喚が止まらないの。寧ろどんどん増えてる……」


「おかしい。俺の所はフェイクだったけど、ニナが1つ解除している。普通なら出力が落ちて、魔獣召喚は減るはずなんだが」


「一応、ルーガンのとこも解除されてるみたいなんだけど、当のアイツは来ないし……。ああもう! なにやってんのよ。あの馬鹿は!」


 天に向かって叫ぶニナに。


「ふ、ルーガンがそんなに心配だったら、ニナだけ旧地下水路に行ってもいいんだぞ?」


 ジェイルは含むような笑みを浮かべて言った。


「べ、別に心配してないし! どうせ疲れて寝てるとかでしょ! ジェイルの馬鹿ッ! 阿呆ッ! 性格不安定ッ!」


「えぇ……」


 ニナのマシンガンのような罵倒に、流石のジェイルも顔をひきつらせるしかない。


「ふん。あいつがそんな簡単にやられるわけないわよ」


 ニナは口を尖らせて。


「ああ、そうだな。一応、旧地下水路には仲間が向かってくれた(はず)だから、きっと大丈夫さ」


 そんなやり取りしながら。

 二人はおびただしい数の魔獣を(さば)き続ける。



「《炎楼よ》ッ!」


『キシャアアアアア――!』


「ち――」


「ジェイル、頭を下げて! はあッ!」


『〜〜〜〜!』


 ジェイルの放った魔術の隙を突いて、突進してきた黒狂犬(ヘルオーン)を、ニナが錬成した長剣の投擲でうち落とす。

 そして……



「「「「うおおおおおおおおおお――――!」」」」


「「「「押し戻せぇええええーー!」」」」


「「「「煌燈十二軍のお二方に続くんだ――ッ!」」」」


 増援に来た銀氷狼、組合(ギルド)の混成部隊が、魔術を次々と放つ。


『『『『グルルルルル……!?』』』』


 その勢いに魔獣たちが怯み、後方へと一箇所に固まった所へ――


「ニナ! あわせろ!」


「ええ!」


「「《氷壁よ》ッ!」」


 ジェイルとニナによる【グレイス・ブロック】の同時撃ち。

 特異魔力体質者(フロート)のブーストに加え、2人の魔力共鳴で威力が何倍にも増幅した氷塊が、魔獣たちを一網打尽にする。

 互いに信頼していなければ出来ない、見事な連携だ。

 しかし……


『『『『キシャ――――ッ!』』』』


 魔獣の召喚は、止まらない。


「もう! どんな理屈なのッ!?」


 次々現れるアーヴァンク、フレムベア、黒狂犬らに、ニナは地団駄を踏む。


「まずいな。俺たちの奮戦で士気を上げた矢先だ。このままだと、限界は近い」


 増援に来た仲間たちも、もともとは別の戦線で戦っていたのだ。

 疲弊する仲間の様子を見て、ジェイルが苦い顔をする。


「本部からの連絡もないし……どうしたらいいのよ……!」


 皆、かろうじてまだ戦うことは出来るが、状況が詰みすぎている。

 疲労が蓄積されていくなか、最早打つ手なし。

 誰もが思った……その時だった。


「ジェイルさんっ!」


 ジェイルたちの背後から、一際高い声が上がる。

 振り返ったジェイルとニナの2人は、意外な人物に目を見開いた。


「あなた……!」

「カレン!? どうしてここに――」



「ついてきて下さい! 最後の魔力点を見つけました!」



 その声の主は、煉瓦色の髪の少女――カレンだった。



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