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【挿絵多め】煌燈十二軍と供犠奇譚《サクリフィス・サーガ》  作者: HaiRu
第二章《水の都市マージェス》
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第57話 『ジェイル対大魔獣ティタノボア 其の二』



 ――――。



 ニナがヴェレーノを撃破した、同時刻。


「……まずいな。手足が動かなくなってきた」


 時計塔の展望広場で、ジェイルが小さく声を漏らした。

 要所要所で炎熱系の魔術を放ち、空気中にあるだろう毒を気化させてきたつもりだったが。

 ついに、見えない毒がジェイルを蝕み始めたのだ。


『キシャアアアアアアアアアアアアア――!』


 対し、ティタノボアのポテンシャルは全く落ちない。

 変わらぬ獰猛さで、ジェイルに襲いかかってくる。


「躱せないか――《黒星は逆位置に》ッ!」


 呪文を唱えた直後。

 ジェイルが弾けたように吹っ飛び、ティタノボアの突進を間一髪回避した。

 重力系【アンチ・グラビティ】――重力を操り、物体を反発させる魔術だ。


 斥力で無理やり弾き飛ばすので、自分自身にかけたジェイルは当然無事では済まない。

 ザザザザザザッ――! と地面を滑り、結界の壁に背中から激突する。


「痛っててて……風衝系の魔術が使えれば、もっとスマートに躱せるんだけど……」


 特異魔力体質者(フロート)のデメリットを呪いながらも、ジェイルは立ち上がった。

 一方ティタノボアは、自身の攻撃が一向に当たらないことに怒りの声をあげながら。

 もはや何度目になるか分からない突進を、再び繰り出そうとしている。


「流石にタフだな。まあ、クラリオ氷山最強の大魔獣が、更に改造されているんだから当然か。昔コテンパンにされたし……」


 状況は絶望的。

 三等軍用魔術は効かない。二等以上は出す暇がない。

 毒で身体は満足に動かせない。

 せめてニナがいれば、解毒は容易だろうに。

 ジェイルは文字通り、八方塞がりの状況を苦笑いする。

 そんな中……


『キシャアアアアアアアアアアアアア――!』


 ティタノボアが咆哮をあげながら、再び突進を開始した。

 これまでとは比べ物にならない殺気。

 荒れ狂う暴風を身にまとい、真っ直ぐジェイルへと迫る。

 次の瞬間には、ジェイルはバラバラに吹き飛ばされ、その鋭い牙で骨ごと平らげられてしまうだろう。


 しかし……



「だが活路は見えた。……そろそろ終わらせるぞ」


 ジェイルの瞳は、全く死んでいなかった。


「――今だ!」


 ティタノボアがジェイルに触れるギリギリの所で、全身に張り巡らせた【エンチャント・クロス】の出力を全開にする。

 魔力消費は激しいが、その瞬間だけジェイルは、麻痺毒を打ち消すほど爆発的に加速し――


「《黒星は正位置に》ッ!」


 跳躍。

 そして、重力操作の魔術――【バイシクル・グラビティ】を起動。

 結界の壁に、側面から張り付くように着地。

 ティタノボアを見下ろす。

 対してティタノボアは、完全に捉えたと思った突進を躱され、再度結界の壁に激突。


『~~~~!』


 苦悶の声を上げ、石床でのたうち回る。

 その様子に、ジェイルは間髪入れず――


「《氷壁よ》ッ!」


 左腕一閃。

 眼下の魔獣へ【グレイス・ブロック】を放った。

 呪文には僅かな改変を加えており、従来よりも射程範囲が広くて厚い。


 ピキピキピキ――、と。


 床を全て埋め尽くさんばかりの氷塊が、ティタノボアを呑み込んでいく。

 全身が、全て氷に覆われる――


「これもどうせ、すぐに破られるだろうな。だから……」


 その光景を一瞥(いちべつ)したジェイル。

 今度は天井側――塔の上に取り付けられた、巨大な"鐘"の方へ、180度振り返った。

 時計塔ヒルメスのシンボルたるその大鐘は、ティタノボアの全身をちょうどすっぽりと覆う大きさだ。


「――!」


 ジェイルは【エンチャント・クロス】の出力を再び上げて。

 大鐘に向けて勢いよく跳躍。

 鐘の側面と塔内の壁を交互に蹴り上げながら、鐘が吊り下げられている(はり)の部分へと着地する。


 そして懐から、短剣の魔導器――以前『千切のリッパー』に破壊された後、『オルセントの流れ屋』で調達した新品を取り出すと……


「《集え万象》!」


 補助系【フル・オブジェクト】――武器強化の魔術を短剣にかけた。



 元々、魔導器には魔導回路といって、魔力を込めることで性能が強化される術式が施されている。

 その上から、【フル・オブジェクト】などの付与系魔術を重ねがけすれば、威力をさらに底上げすることが出来るのだ。

 魔導大国と謳われる隣国――『レヴィエント王国』に負けず劣らずの魔導技術に加え、魔術を高度に発達させた公国だからこそ為せる技である。


 二重の強化により、極限まで性能が向上した短剣を、ジェイルは両手で構える。

 そして。


「はあああああ――ッ!」


 大鐘と(はり)とを繋げているつり手――竜頭の部分に向かって、勢いよく振り下ろした。



 ガキィイイイイイイイイイイインッ!



 一刀両断。

 直径20メートルはある大鐘を支えていた堅固な竜頭は、いとも簡単に真っ二つに割れた。


 支えを失った大鐘は、ひゅう! と風を切って重力に従い自由落下。

 そして。



 どごぉおおおおおおおおおおおおんッ!



 大鐘のちょうど空洞の部分が、氷塊を壊そうとしているティタノボアに、すっぽりと覆い被さって。

 そのまま周囲の氷塊ごとぶち抜き、床深くへ沈みこむのであった。



『〜〜〜〜!』

 

 

 ティタノボアは抜け出そうと大暴れするが、分厚い大鐘の側面を多少凹ませるだけだ。

 その様子を梁の上から見下ろすジェイル。


「これでやっと時間が稼げる。――いくぞ」


 コォオオオ、と特徴的な呼吸をして。

 必殺の呪文を唱え始める……



「――《紅蓮咲き誇りし凍獄の氷鬼よ・――…………」



 ドクン――


 再度。

 底冷えするような、不穏な魔力が胎動。

 ティタノボアは依然として、大鐘の中で暴れ回る。



「《――・狂瀾(あざな)う白き咆哮放ちて・――……》」



 呪文はゆっくりと、しかし矢継ぎ早に紡がれる。

 ティタノボアは変わらず、大鐘の中で暴れ回る。



「《――……・(あまね)く全てを凍てつくせ》ッ!」



『キシャアアアアアアアアアアアアア――!』



 ティタノボアがついに大鐘を押しのけ、砕けた氷塊を振りまいてその姿を現した。


 が――

 時、すでに遅し。



 ビュウウウウウウウウウウウウウウ――――!



 周囲をのみ込む、膨大な凍気と共に。

 ジェイルの眼下に、人の背丈の三倍はあろう巨大な魔術円陣が展開。

 その直後。



 パリィィィィィィィィィィィィィィン!



 塔内を四方から覆っていた魔力結界が、ステンドグラスのように砕け散った。

 【ゼロフィーラ】が一度起動されれば、周囲の誰も魔力を扱うことは出来ない。

 それは、既に起動されている魔力結界も同じ。



『シャアアアアアアアアアアアアア――!』



 ティタノボアは最後の足掻きにと、ジェイルに向かって飛びかかった。

 しかし、それが間に合うはずもなく――



「終わりだ。特異魔術(パーソナル)――【ゼロフィーラ】」




 ギュイイイイイイイイイイイイン――――ッ!




 魔力の駆動音を唸らせ、不可避の凍線がティタノボアへと襲いかかる。


『~~~~~~~~ッ!』


 純白の凍線が降り注ぎ、ティタノボアは一瞬で巨大な氷瀑と化して――


 その規模は、破壊された四方の結界を押しのけ、塔の外まで行き渡って――


 そして、凍りついたティタノボアは、顔面から大きなヒビが入って――


 どれほどの再生力を持とうが。

 どれほどの毒を持とうが。

 全ての運動が停止する絶対零度の前では、風の前の塵。


 ピキピキピキ……

 そのまま、ヒビが全身に行き渡ったのちに。


 ガシャァァァァァァァァァァァンッ!


 氷瀑はティタノボアごと、砕氷のように砕け散るのであった。



 ――――。



「ふ――」


 梁から飛び降り、石床へと着地したジェイル。

 ゆっくりと、周囲の状況を確認する。


「ようやく倒せたな。だけど――」


 状況は、なんというか、もう酷かった。

 ティタノボアだった肉片は凍結されたのち、粉々に砕けてしまったので、それ自体に大したことは無い。

 だが、落とした大鐘が石床にめり込み、床が完全にひしゃげてしまっている。


 一応、塔内の石床には倒壊防止のため『空間固定』という非常に高度な魔術が付与されている。

 そのおかげで、辛うじて陥没はしていないのだが……


 『空間固定』の防御限界を超えた質量が落下したため、一部崩壊。

 この有様だった。

 修復にはきっと、金貨数千枚は下らないだろう。


「うーん。塔の修繕費、俺の給料から引かれるかな……」


 あまりに酷い惨状の手前。

 ジェイルは、盛大なため息をつくのであった。



 ――――。



 時を同じくして。

 マージェスのどこかで。


「これは……少々驚きましたわね」


 時計塔ヒルメスでの交戦を、遠見の術で盗み見ている少女がいた。

 先ほど、リンゲルやヴェレーノと通信を行っていた、特濃の"闇"を纏ったゴシックドレスの少女だ。


「ヴェレーノ様とリンゲル様の最高傑作が、たった一人の魔術士にやられるなんて。

 あの特異魔術(パーソナル)……たった三節の詠唱ですが、恐らく準一等軍用魔術(・・・・・・・)と同等の威力がありますわね」


 驚きと、それでいてどこか愉快そうな声で、少女は一人呟く。


 本来、クラリオ氷山に生息する野生のティタノボアですら、フォルニカ公国の一般的な一級魔術士が数人がかりでようやく討伐できる大魔獣だ。

 それをリンゲルの人体強化術、ヴェレーノの錬金術によって更に魔改造。

 最早それ単体で、マージェス中の魔術士たちを相手取れるほどの怪物に仕上げていたはずだった。


 だというのに……



「これが、現煌燈十二軍の筆頭にして、熱量操作の特異魔力体質者(フロート)――ジェイル=サファイア様ですか……。

 第二世代にこれほどの逸材……大公様は一体、どこから見つけてきたのでしょう」


 ジェイルという男が放った魔術の規格外さに、ため息をつくしかない。


「それにあの髪色……。"極東の国ヤハム"の生まれ特有と言われる、あの黒髪(・・)についても気になりますわ」


 少女は両手で抱きしめている、おぞましいクマの人形に顔を埋めながら思案する。


「まさか()の……いえ、深読みは野暮ですわね。

 今はより強き魂が、再び芽吹き始めていることを喜びましょう」


 気を取り直し、艶やかな微小を浮かべて。


「――さて、公国の皆様。舞台はいよいよ大詰めですわ。

 最後のイベントは、名付けるなら……そう。さしずめ"大洪水"。水の都市に相応しい魔の厄災を、皆様は乗り超えることができるのでしょうか?

 ふふ……期待していますわ」


 誰へともなく、そんなことを言って。

 かつん、かつん、と靴音を鳴らしながら。

 少女は暗く狭い、路地の奥へと消えていくのであった――



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