第5話 『或る雑貨店』
他愛もない会話をしながら、二十分ほど街を歩いたジェイルとカレン。
二人は今、街角にある古い小さな店の前に訪れていた。
入口のドアの上には『オルセントの流れ屋』と書かれた看板が立てられている。
店の前からは、閉め切ったカーテンの窓辺に展示されている木箱や巻物、箒などを見られた。
「オルセント……? 雑貨店ですか?」
一瞬、訝しむような表情をするカレン。
「ああ、そんなところだよ」
そう言いながら、ジェイルはドアを開けた。
「わぁ……!」
店内に入った瞬間、カレンは思わず息を呑む。アンティーク調の店の中には、小洒落た雑貨が所狭しと並んでいた。
まず目を奪われたのは、天井から吊るされた大量のランタンだ。次に、床の上に敷かれた不思議な模様の絨毯、カーテンレールに掛けられた沢山のローブ、棚の上には様々な色の石が宝石箱のように散りばめられている。
中は狭く薄暗いが、ランタンの暖かな光と相まって、まるで不思議な世界に迷い込んだような感覚だった。
「なかなか良い雰囲気の店だろう?」
「意外です……こんな素敵なお店で働いていたなんて」
店の中を進み、くるくると見渡しながらカレンは言った。
「働いている、というよりお手伝いに近いかな」
後ろをのんびり歩きながら、ジェイルはそう答える。
「俺は公国中を旅しながら、困っている人たちの手助けをしているんだ。一週間前から依頼を受けて、ここで働いているんだよ」
そんなやり取りをしていると、
「――おや? いらっしゃい! 随分と小さなお客様だねえ!」
快活な声と共に、店の奥から店主と思わしき人物が現れた。
歳は四十代半ばほどだろうか。ブラウンの髪とそばかすが特徴の、いかにも主婦という言葉が似合いそうな女性だ。
「え……あの……」
突然の事で、カレンが思わず固まっていると、
「こんにちは。ただいま戻りました、ナターシャさん」
ジェイルが親しんだ声で挨拶をする。
「ジェイルじゃないかい! 三日も行方をくらませて心配していたんだよ!?」
ナターシャと呼ばれた女性は、驚いた声でジェイルに駆け寄った。
「すみません。ハラル大森林で、少々事件に出くわしまして……詳しい話は奥でよろしいですか?」