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【挿絵多め】煌燈十二軍と供犠奇譚《サクリフィス・サーガ》  作者: HaiRu
第二章《水の都市マージェス》
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第53話 『ニナ対"魔毒"のヴェレーノ 其の一』



「ふふ……ふはははははははッ!」


 ニナの意気込みをぶち壊すかのように、男は腹をゆすって哄笑した。


「事ここにきて、これほどの虚勢を張れるとは! いやそれとも、ただただ未熟なだけでしょうか!? 第二世代というのは!」


 その言葉に、ニナは不快感を露わにして。


「こいつ……散々馬鹿にして……! 情報を引き出せるかと思って黙ってたけど……もう我慢できない! ぶちのめすわ!」


 最早、これ以上の会話は無用。

 ニナは両手に装着した篭手を打ち鳴らし、鋭く構える。

 だが、男はあくまでも余裕の表情で。


「馬鹿にしますとも。現に……私がこうして時間稼ぎ(・・・・・・・・・・)をしている事に(・・・・・・・)気づいてすらいない(・・・・・・・・・)


「!?」


 次の瞬間、猛烈な死の気配がニナの脳裏に過ぎる。

 その本能からの警告に従い、掠めるように左手を突き出して――


「《貫け雷閃》ッ!」


 僅か一節にまで切り詰めた、三等軍用魔術【ライトニング・スレッド】。

 ニナの人差し指から放たれる一条の雷は、男の眉間を性格無比に射抜く。

 ――はずだったが。



 ぐら……



 突如として、全身脱力したような感覚が、ニナに襲いかかる。

 その結果【ライトニング・レイ】の軌道は大きく逸れ、後ろの煉瓦壁を虚しく穿つのであった。


「ぐっ……これって……」


 全身をがくがく震わせ、膝から崩れ落ちるニナ。


「クックククククク……ようやく効いてきましたか」


 その様子を愉悦そうに見下ろす男。

 男は懐から、ガラス製のアンプルを取り出した。


「お察しの通り、これは毒ですよ。無色無臭の神経毒です」


 白色のラベルが貼られた空のアンプルを、ニナへと向ける。


「……!」


 無色無臭の毒。

 ニナは先の会議で、そのフレーズに聞き覚えがあった。


「まさか……ジェイルの報告にあった、毒を持っているティタノボアって……」


「ええ。あれの作成に携わったのは私ですよ。かなりの力作だったので、まさか撤退に追い込まれるとは思いませんでしたが」


「く……《天憑の導きあれ》ッ……!」


 ニナは矢継ぎ早に呪文を唱える。

 治癒系【アーリー・ヒール】――細胞を活性化させ、外傷の治癒や解毒などが行える魔術。

 だが……


「なッ……【アーリー・ヒール】が効かない!? それ……ただの毒じゃないわね……!」


「その通り。この毒には魔力が混ぜてありましてね。

 "錬金術"――様々な金属、薬品を魔力を用いた特殊な工程で加工する技術ですよ。

 魔術や令束(イルバ)に比べればマイナーですが……なかなか捨てたもんじゃないでしょう?」

 

「錬金……術……!」


 ニナが微かに目を見開く。

 なるほど。

 魔力が組み込まれているのなら、【アーリー・ヒール】の治癒が阻害されたのも納得できる。



「く……《原始の根源よ・我が(たとと)に画一せよ》ッ!」


 一気に不利になった形勢。

 ニナが辛うじて動く口で、呪文を紡いだ。

 直後。周囲の石造りの床が、鋼鉄の素材に変質。

 そのまま隆起し、ニナを覆い護るように、球形に包んでいく。


「ほう、高速錬成魔術【アルケミー・ドローイング】ですか。しかし、その程度のバリケードで時間を稼げると思うのは浅はかですねえ」


 男は、今度は青いラベルが貼られたアンプルを取り出し、ニナの作ったバリケードの壁へ放り投げる。

 アンプルは壁に当たった後、パキンと割れ、中の液体がかかって――



 ジュ……!



 ほんの数滴触れただけなのに、鋼鉄のバリケードが一瞬で崩れていくのであった。


「っ……強酸……!?」


 ニナはその液体の正体を、一瞬で悟る。

 本来なら、角狼(ホーンガル)の突進をも完璧に防ぐニナの錬成魔術。

 さっきの神経毒もそうだが、この男が扱う薬物の危険性は常軌を逸している。


「申し遅れました。私はヨルムの括り"第二(ターム)"――『魔毒』のヴェレーノ。古今東西あらゆる毒、薬物に精通した錬金術師です」


 ヴェレーノと名乗った男が、わざとらしく一礼した。


「先の戦いを拝見しましたが、あなたは錬成魔術を用いた、近接戦闘を得意としている。

 しかし、どんな(はがね)を錬成したとしても、この強酸の毒は全てを溶かします。そして、いかなる身体強化を施そうとも、神経毒が無効化します。

 私とあなた、相性は最悪だったようですねえ?」


 三度、ヴェレーノはアンプルを取り出して。

 それをパキンと割り、ニナの懐へと投げ入れ……


「さあ、次は催眠の毒です。まずは生け捕りにしたあと、新しい毒を軽く50種類ほど試させて頂きますよ。ククク……」


 気化した液体に触れたニナは、猛烈な睡魔に襲われて……


「くッ……!」


 もはや原型を留めていないドロドロのバリケードの中で、ばたりと倒れ込むニナ。

 その姿を見たヴェレーノは、ほくそ笑むのであった……

 


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