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【挿絵多め】煌燈十二軍と供犠奇譚《サクリフィス・サーガ》  作者: HaiRu
第二章《水の都市マージェス》
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第48話 『カレンの思い、ジェイルの思い』



 ~~~~。



「にしてもよ〜、ジェイル。お前、いつの間にそんな喋り方になったんだよ?」


 各々が出撃に向けて準備を進める中。

 不意に、ルーガンが言った。


「私も思った! 昔は"ヨルムの括り絶対殺すマン"だったのに、ユリエス公みたいなキザな態度になっちゃって!」


「だよな〜! ははは、違和感スゲェ」


 そんなことを言う二人の手前。


「よしてくれ。これでも今は、煌燈(こうどう)十二軍の筆頭魔術士なんだ。全ての魔術士の手本として振る舞わないと」


 ジェイルは肩をすくめる。


「ふ〜ん……いいんじゃないジェイル? 私は今の言葉遣いも結構好きよ?」


 ニヤニヤと、含んだ笑顔を向けるニナ。


「おい、ニナもからかうな。あとカレンの前で、昔の話は掘り返さないでくれ」


 ジェイルがうんざりした顔でそう返す。

 そして、カレンの方をちらっと見るが――


「…………」


 当のカレンは、どこか物悲しそうに目を伏せていた。


「……カレン?」


「どうしたんだよ。悪いモンでも食ったのか?」


「黙りなさいルーガン。楽しみにしてたマージェスが、こんな酷い状況だったのよ。

 国民証の発行も延びちゃったし、ショックを受けるのは当然じゃない」


 そう言ってニナはカレンの前に立ち、目線の高さを合わせて。


「カレン。ガッカリさせてごめんなさいね。でもこの事件は、私たち煌燈十二軍が必ず解決するわ。

 だから……もう少しだけ待っててくれる?」


 安心させようと、そんな言葉をかけるも――



「……違うんです」


 カレンは首をぶんぶんと横に振った。


「え……?」


「あの、ジェイルさん達が言ってる悪い組織って、私の力が欲しくてフォルニカ公国に連れてきたんですよね……」


「あ、ああ。特異魔力体質者(フロート)は数千万人に一人しか生まれてこない、特別な力だからね」


 カレンの問いかけに、ジェイルが答える。

 カレンが治癒の特異魔力体質者(フロート)であること、ヨルムの括りがそれを狙って公国に連れて来たことは、イーンにてジェイルが伝えている。


 当のカレン自身、特異魔力体質者(フロート)については知らなかったが、自身が特別な能力を持っているという自覚はあるようだった。



「もしかして……ヨルムの括りは私を捕まえられなかったから、この街を襲ってるんじゃないんですか……?」


「! どういう……」


 突然の吐露に、ジェイルは呆気に取られる。


「公国に連れてこられた理由を聞いた時から……おかしいと思ってたんです。私はこの治癒の令束()を、誰にも見せたことがありません。

 あの日……"悪魔"に襲われた日に、お母さんを助けるのに使って以来……」


「悪魔……だって……!?」


 ジェイルは息を呑んだ。


「ジェイルさんも、悪魔に襲われたことがあるんですよね……? ヨルムの括りが操っていた悪魔に……」


「……! ああ」


 押し黙るように、ジェイルが答える。


「てことは、私の故郷を襲ったのも、そのヨルムの括りなわけで……私を探すために、イーンの近くにあるこの街を襲ったんじゃないんですか……?」


 カレンの瞳から、一筋の涙がこぼれ落ちた。


「もしそうだとしたら……私……悲しくて……」


「……」


「私は、本当はここにいちゃいけなかったのかなって……!」

 

「……」


「私が……まだ……ちゃんと捕まったままだったら……! この街は……こんな事にならなかったのかなって……ッ!」


 細かに身体を震わせ、俯き、嗚咽するカレンだが。


「違う」


 部屋の隅までよく通る声で。

 カレンの言の葉を否定したのはジェイルだった。


「あの時は説明が足りなくてすまない。君を買い取って公国に連れてきた男は、誰の命令でもなく独断で行動していた。今回のテロに、君は関係ない」


「でも……! 私はこの力、ほんとに誰にも見せたことがないんです! 悪魔に襲われた時に、お母さんに言われたから……。

 なのに知られてるってことは……ッ」


 不安定な場所にあった桶が突然倒れるように、カレンの吐露は止まらない。


「私、怖いんです……何より、故郷のことを全然思い出せないのが……。

 自分が何者だったのかも、曖昧になるみたいで……私……どうしたらいいの……」


 カレンは涙を流し続ける。

 きっと、今まで感情を押し殺すことによって耐えてきた思いが、一気に溢れてきたのだろう。

 その悲痛な表情に、ルーガンとニナは言葉を失うしかないが。


「カレン」


 ジェイルがカレンの涙を優しく拭い、頭を優しく撫でた。


「ジェ、ジェイルさん……?」


「気持ちは痛いほどわかる。故郷を失って……家族を失って……。自分がただ一人この世界に取り残された……いやそもそも、自分の存在さえわからなくなるような、最悪の感覚」


 カレンを宥めるように、今度は優しく頭を撫でる。


「だからこそ聞いてほしい。"君は一人じゃない"」


 そう断言するジェイルの瞳は、どこまでも真っ直ぐで。


「俺は君を護る。口約束を信じてくれとは言わない。これからもずっと、行動で示し続けるさ」


「……ッ!?」


 カレンは涙に濡れた目を見開く。


「どうして……そこまで……」


「前も言っただろ? 君に笑顔でいてほしいんだ。昔は、俺も君と同じだったからね」

 

「私……ほんとにこの国にいていいんですか……?」


「もちろん。それに君の考えが正しいなら、同じ特異魔力体質者(フロート)である俺が公国に身を置いた時にも、奴らに狙われているはずだ。でもそんなことはなかった。

 だから心配することはない。この国でも、きっとうまくやっていけるはずだよ」


「そうでしょうか……?」


「ああ。……どうしようもなかった俺ですら、仲間が出来たんだから」


 ジェイルがそう言って、ルーガンとニナの方をちらっと見る。

 すると、ニナが両手の人差し指で、わざとらしく眉をつり上げるポーズをとって。


「そうそう。昔のジェイルなんて、こーんな顔でずっと不機嫌な困ったちゃんだったのよ?

 可愛いカレンなら、すぐに友達ができるわ」


「懐かしいなあ。昔はよく殴りあったもんだぜ。ジェイル、これが終わったらまた決闘やらねぇか?」


 対して、ルーガンが腕を組みながらにかっと言う。


「二人とも……後で覚えとけよ……」


 あまりに情け容赦なく過去を掘り返され、ジェイルはわなわなと拳を震わせつつも。


「ごほん……カレン、そういうことさ。君の過去は謎が多いけど、悪いようには絶対しない。約束する」


「ジェイルさん……皆さん……う、うぅ……ぐすっ……」


 今度はカレンの方から、ジェイルの胸に飛び込んで。


「あの……こんな大変な時に、言っちゃ駄目なんですけど……私、この国に連れてこられて……ジェイルさんたちと出会えて、本当に良かったです。

 どうか……貴方と、ずっと一緒に居させてください……」


 祈るように、言葉を紡ぐ。


「ああ、もちろんさ。俺も、君を助けることができて本当に良かった」


 そんなカレンを、ジェイルは再び優しく撫でる。


 その背後で……


「……なぁ、前から思ってたけど、ジェイルのやつ結構年下にモテるよな?」


「確かに。ビアンカも一つ下だし……あ、でもベルは同い年だったわよ?」


 ひそひそとした声で、後ろの二人はやり取りを交わしていた。


「…………」


 その様子に、またなんとも言えない気持ちになりながらも。ジェイルはいつまでも、カレンを優しく撫で続けるのであった。



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