第47話 『スタンピードの正体』
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時刻は進み。
銀氷狼本部の二階に設けられた、来客用の一室にて。
ジェイル、カレン、ルーガン、ニナの四人が待機していた。
「しっかし、ヨルムの括りのロクでなしども。まさかマージェスまで襲ってきやがるなんてなぁ」
「隠密主義のやる事とは、とても思えないわね。一体、何が目的なのかしら?」
手持ちの魔装束、魔導器の調子を確かめながら、ルーガンとニナが話している。
「奴らの目的は、一切が謎に包まれているからね。今は、魔獣の大量召喚を引き起こしている、魔力点を解除することに集中しよう」
そう言ったジェイルの服装は、いつもの旅装束から煌燈十二軍の魔装束へと切り変わっていた。
「間違いねえ。ったく、出撃はまだかよ……」
歯痒そうに、ルーガンが呟く――
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先の会議にて。
「今回の一件はスタンピードに見せかけた、ヨルムの括りの悪辣なるテロ行為だ」
粛然とした態度で、リディアナが断言した。
「ですね。魔獣を召喚した魔術円陣の跡、明らかに人為的な改造が施された合成魔獣……そして、国内の外道魔術士らは、四年前にリディアナ公たちが全滅させたことを考えても、それしかありえません」
ジェイルが肯定する。
「うむ。そして先ほど、銀氷狼の部隊からの報告により、マージェスの各地に三つの巨大な魔力点が設置されていることが判明した」
「「!」」
ジェイルとニナが目を見開く中。
「魔力点……?」
カレンはキョトンと首を傾げ。
「? なんスかそれ」
「この馬鹿! ユリエス公から教わったでしょ!」
一人だけ、清々しいほど腑抜けた声を上げるルーガンに、再び容赦ない拳骨が振り落とされるのであった。
「あ〜〜そういえば、なんか教わったような……」
ルーガンは、頭にできた大きなたんこぶをさする。
「ルーガン。確かにこの一年半は、実践訓練ばかりで忙しかったと思うが、座学の方も怠らないようにな」
「う……すんません」
「あはは……」
優しく咎めるリディアナに、苦笑いするジェイル。
「カレンもいることだし、一応説明しておこう。魔力点とは、魔力循環における核のことだ。これを中継にすることで、より大規模な魔力操作を行える。
ちなみに我々の体内にもあって、魔力操作の重要な役割を果たしているんだ。東方では、"経穴"とも呼ばれていたりもするな」
「へえ……」
リディアナの簡潔な説明に、カレンは納得したように頷いた。
「へえ〜」
「初耳みたいな反応するんじゃないわよ」
隣でそんなやり取りをするルーガンとニナ。
「特に準一級以上の軍用魔術は、難易度の高さから、予め魔力点をいくつか仕込んで起動させることが多いですね」
ジェイルがそう補足する。
「ああ。今回の場合、その三つの魔力点を中継にして、魔獣の多重召喚が行われている。
魔獣を際限なく召喚などという芸当、相当大がかりな魔力点が無ければ不可能だ」
「じゃあ、それをぶっ壊せばいいんスね。あれ? でも見つけたんなら、そのまま銀氷狼の皆がやれば済む話じゃ――」
「それができればいいんだが、少し問題があってな……」
リディアナは軽く視線を落として。
「知っての通り、現在の公国は磐石とは言い難い。四年前に外道魔術士らが起こした事件、ヨルムの括りによる数々のテロ、大国に挟まれた不安定な情勢……各地に人員をいくら派遣しても足りない。
今マージェスには、あれほど大がかりな魔力点を解除できるレベルの魔術士は、ほとんど残っていないんだ」
「そんな……」
ニナが息を漏らす。
「しかも、各魔力点にはヨルムの括りや合成魔獣が潜伏している可能性が高い。
カレンの件も鑑みると、最低でも第二階……運が悪ければ、第三階の連中が関与しているだろう」
「「「!」」」
付け加えるようなリディアナの言葉で、カレンを除く一同の間に、更なる緊張感が走った。
「第三階……準幹部クラスって噂の奴らかよ……」
「リディアナさまや、ユリエス公が率いた"第一世代"ですら、遂に生け捕りが出来なかったっていうあの……?」
先の魔獣との戦いにおいて、あれ程の大立ち回りを見せたルーガンとニナですら、顔を引きつらせる。
全貌のほとんどが謎に包まれたヨルムの括りだが、その中で唯一判明しているのが序列だ。
第一階から第五階まで分かれているその序列に対し――第三階は"準幹部"級。
この階から、組織の深部に精通している構成員が増えてくる。
したがって、世界各国では第三階以上の構成員の捕縛を推奨されているが……その隠密性、危険性から、未だ実現には至っていない。
「そうだ。第三階は強い……現在の煌燈十二軍に勝るとも劣らないくらいにな」
何かを嫌なことを思い出すような顔で、リディアナが言う。
「だが、奴らに勝てるとしたら煌燈十二軍だけだ。私が行きたいのは山々だが、都市には魔獣が今も現れ続けている。
食い止めるために、現場の指揮を取らなければならない。だから頼む……皆の力を貸してくれ」
そんなリディアナの言葉に。
「もちろんです、リディアナさま!」
「魔力点もヨルムの括りも、俺たちがぶっ飛ばしてやるぜ!」
「ああ……これ以上、奴らの好きにはさせない」
三人それぞれ、力強く頷くのであった。
そんな様子に――
「三人とも……感謝するぞ」
リディアナが微笑みつつ。
「よし。出撃は、次の魔獣の大量召喚に合わせてだ。これほど大がかりな術である以上、必ずインターバルが存在する。
召喚後のインターバルで、奴らの懐が手薄になった所を叩く寸法だ。ジェイル、ルーガン、ニナの三人は、それまで待機していてくれ!」
そんな掛け声と共に、報告会議は幕を下ろすのであった。
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