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【挿絵多め】煌燈十二軍と供犠奇譚《サクリフィス・サーガ》  作者: HaiRu
第二章《水の都市マージェス》
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第46話 『喧騒なる報告会議』



「――以上が、俺からの報告になります」


 毅然とした態度で、ジェイルが言葉を締めた。

 ジェイル、カレン、ルーガン、ニナの四人は、銀氷狼本部の三階にあるリディアナの執務室にいる。

 これまでの報告をまとめ、今後の作戦や動向を決めるためだ。


 今現在、マージェスは大量の魔獣が各地で暴れ回っているという共通認識の下。

 まずはジェイルがマージェスに訪れた経緯――カレンが治癒の特異魔力体質者(フロート)でバラバ帝国から連れて来られたこと、イーンの街でヨルムの括りの構成員が潜伏していたことを報告した。



「そうか、ご苦労だった。しかしまさか、イーンでそのような事件があったとは……。

 ヨルムの括りは、この国に相当深く根を張っているようだな……」


 奥の執務席に腰掛けるリディアナが、眼前に横並びに立つジェイルたちの手前、神妙な面持ちで言った。


「ッつったって、そのヨルムの括りは第一(ターム)の雑魚だったんでしょ? そんな気にすること無いんじゃないっスか?」


「黙りなさいこの脳筋」


 気の抜けた声でぼやくルーガンに、ニナの容赦ない拳骨が振り落とされた。


「痛ッでぇ!?」


「今の話聞いてたの? 問題はそこじゃないわよ!」


 ルーガンは頭を押さえながら。


「ああ?――カレンが治癒の特異魔力体質者(フロート)だってことか? 確かに珍しいが、いるとこにゃいるだろ? 現にジェイルや大公サマ……レノスだって、特異魔力体質者(フロート)なんだからよ」


「そこでもないわよ! このバカ!」


「ぐぉおッ!?」


 鋼鉄の篭手を纏ったニナの鉄拳が、ルーガンの腹を穿つ。

 ルーガンは、そのまま体をくの字にひしゃげて、バタリと倒れるのであった。


「あ、あわわわわ……!」


 どう見てもやりすぎなニナの仕打ちに、カレンがおどおどと慌てるが。


「あはは。二人はいつもこんな感じで(じゃ)れてるから、気にすることはないよ」


 隣にいるジェイルが苦笑しながら、カレンを(なだ)めた。


「そ、そうなんですか……!?」


 (じゃ)れるの次元が違いすぎて、焦るカレン。

 というか、一方的にボコボコにしているのだが……


「ニナはツンデレだからね。特に、ルーガンに対しては」


 ジェイルはニナの方を見て、含んだように微笑む。


「そ、そうなんですか……?」


「だ、だだだ誰がツンデレよ! この脳筋があまりに鈍いから、性根を叩き直してるだけなんだからッ! カレンに変なこと吹き込まないでくれる!?」


 そう言われたニナは、顔を真っ赤にしながら地団駄を踏み、倒れ伏すルーガンをげしげしと蹴りつけた。

 ルーガンは体をピクピクと動かしており、辛うじて生きていることは確認できる状態だ。


「まあ、ルーガンは馬鹿ではないが、少々疎い所があるからな。ニナもそこまでにしてやれ」

 

 リディアナも、このやり取りを見るのは初めてではないようで。

 苦笑を浮かべながらニナに言った。


「は、はい! 申し訳ありません! ほら、立ちなさいルーガンッ!」


「痛ッててて……散々殴っといてよく言うぜ。よくわからんが、ツンデレってやつは怖えーな……」


 ニナに背中をバシバシと叩かれ、ルーガンが体を起こす。

 あれだけの仕打ちにも関わらず、存外ケロッとした様子だった。



「――話を戻そう」


 リディアナの掛け声で、一同の間に再び緊張感が走る。


「まず、ここ半年の間、公国各地では魔獣絡みの事件が増えてきている。スタンピードまではいかなくとも、それに近い形でな」


 リディアナは、執務用の机にどさりと積まれた、大量の紙束を前に出す。

 ジェイルたちが確認すると、どれも辺境の街での魔獣の出現や暴走など、魔獣事件に関する資料ばかりだった。


「何件かは、私たちに出動要請が来た事件ね。ジェイルは知らないだろうけど……」


「ああ。第一軍団は、都市を中心に巡回警備するのが任務だからね。辺境の街に訪れたのは、先日イーンに行った時くらいだ」


 資料を確認しながら、ジェイルとニナはそんなやり取りを交わす。



 煌燈(こうどう)十二軍の中でも第二軍団、第三軍団の二人は、普段は首都エレメンタに待機している。

 しかし、ひとたび銀氷狼や組合でも取り扱えない案件が回されれば、各地に(おもむ)いてその対処にあたるのだ。



「だっけど、ヨルムの括りと魔獣事件とで何か関係あるんすかねぇ?」


 ルーガンが資料を見て、目を細めながらぼやく。


「確かに、イーンで起きた事件と今回のスタンピードは、一見無関係だ。

 だが……カレンの件を鑑みると、一つの推論が立てられる」


「わ、私……ですか?」


 リディアナの指摘に、カレンが驚いた表情をする。

 その傍らで。


「なるほど、そういうことか。どうりで違和感を感じたわけだ」


 静かに俯いていたジェイルは、何か合点がいったようだった。


「カレン。奴隷だった君をイーンで引き取ろうとしていたのは、ヨルムの括りというテロリストだと言ったことを覚えているかい?」


 ジェイルは、そうカレンに確認する。


「は、はい……確か、大陸中にいる悪い組織ですよね?」


「ああ。そいつは俺が倒したんだけど、その時一つ腑に落ちない事があったんだ」


「腑に落ちない? んだそりゃ?」


 ルーガンが訝しむように尋ねた。


「おかしいと思わない? バラバ帝国で売られてた奴隷を、わざわざフォルニカ公国で引き取るって。

 しかも、『千切のリッパー』みたいな、腕利きの魔術士を雇ってまで運ばせるなんてね」


 ジェイルの代わりに、ニナが答える。


「そう……カレンを得たいだけなら、帝国で奴隷商から直接引き取ればいい。その方が、アクシデントも少ないだろうしね」


 ダメ押しのように、ジェイルが言った。



 ヨルムの括りは、大陸中で暗躍する世界最古にして最悪の秘密結社。

 長い歴史の中で、足取りはおろか構成員の全貌すら、各国に全く掴ませない亡霊のような組織だ。

 それほどの組織ならば、世界中の国に隠密で潜入するのは容易いだろう。

 であれば、バラバ帝国に直接出向いた上で、カレンを引き取ればいい。



「だが奴は……カレンを買い取った第一(ターム)のフォンスは、あくまで公国で引き取ることに固執していた。

 さらに言えば、カレンとオルセント一家の遺産を入手することで、組織内で優位に立とうとしていた。つまり……ヨルムの括り(奴ら)の上層部は今……」


 ジェイルはそこまで言いかけ、リディアナの方をちらっと見る。


「ああ――その男はカレンを、上層部に引き渡そうとしていたのだろう。

 フォルニカ公国……いや。今現在このマージェスに潜み、魔獣の大量召喚を行っている……ヨルムの括り共にな」


 解答とばかりに、リディアナが答えた。

 両手を机の上で交わらせ、深刻そうに俯いている。

 その表情はまるで、どこか嫌な記憶が蘇っているかのようであった。



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