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【挿絵多め】煌燈十二軍と供犠奇譚《サクリフィス・サーガ》  作者: HaiRu
第二章《水の都市マージェス》
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第44話 『増援』



 それ(・・)は土煙を纏いながら、ジェイルがいた場所から立ち上がる。


「――ッ!? なに……あれ……? 魔獣……なの?」

 

 その姿を見たカレンが、思わず絶句する。



 見上げるほど巨大な(からだ)

 おそらく、全長5メートルはあるだろう。

 筋骨隆々とした人型のシルエットを形作っているが、その(たたず)まいは人ではない異形の何かを感じさせる。

 その予感は、顔周りの土煙が晴れたことで的中した。

 なんと、その巨大な人型の頭蓋は……恐ろしい形相の"馬"だったのだ。



「ひ…………」



『ブルォオオオオオオオオオオオオ――ッ!』



 再び上げる咆哮。

 異形の怪物から響き渡る轟音に、カレンは思わず耳を塞ぐ。

 長年、奴隷として数々の苦境に身を置いてきたカレン。

 その彼女すら、恐怖という根源的な感情に支配された。


 絶望。

 この人智を超えた怪物を一言で表すならば、これほど似合う言葉はない。


「そんな……ジェイルさん……」


 怪物に対する恐怖と、潰されたであろうジェイルを案じる心とで、半ばパニックになる。

 そんなカレンの背中を支えるように、優しく手が伸ばされた。


「大丈夫。俺は無事だ」


「ッ! ジェイルさん!」


 後ろにいた予想外の青年に、カレンは声を上げる。

 見ると、ジェイルの隣にはいつの間にかリディアナが立っていた。


「ご無事だったんですね!」


「ああ。……リディアナ公に助けられていなかったら、今頃危なかったけどね」


 怪物がジェイルを潰す寸前、その存在に気づいたリディアナがジェイルを救出したのだ。


「よかった……領主様、ありがとうございます……」


 目尻に涙を浮かべ、感謝を告げるカレン。

 その表情に、リディアナが優しく微笑んで。


「気にするな。私もそなたに回復してもらわねば、動ける状態まで戻らなかった。礼を言うぞ、カレンとやら」


 そして、ジェイルとリディアナは二人並んで、馬人の魔獣と相対する。


「しかし、あの半人半馬の魔獣は一体なんだ?

 これまで数々の魔獣と戦ってきたが……あれほどの異形、見たことがない」


「わかりません。あの未知の魔獣については気になりますが……この状況で敵の増援、かなり厳しいですね……」


 刻々と悪くなる状況に、さしものジェイルも苦い顔をする。


「――リディアナ公。お身体は大丈夫ですか?」


「駄目だな。まだ本調子とは言い難い。……平時の三割と言ったところか。後方支援ならば可能だが……」


 リディアナが苦々しく唸った。


「ジェイルさん……」


 カレンが心配そうに声を上げる傍ら、ジェイルは冷静に思考する。



 馬人の魔獣の後方では、先ほど【クリムゾン・フレア】に包まれたティタノボアから、シュー……シュー……という音がしている。

 焼け焦げて半身の骨が見えている状態なのに、その傷は着実に再生へと向かっていた。

 復活するのも時間の問題だ。

 そうなれば、これほどの魔獣を二体も、カレンとリディアナを庇いながら戦わなければならない。



(まずいな、まさかこの状況で新手が来るとは。ティタノボアは確実に仕留めたかったが……一度引くべきか?)


 無論ジェイルにもまだ余力はある。

 いざとなれば、奥の手の特異魔術(パーソナル)を使う魔力も残している。

 だが、度重なる魔獣たちとの戦いで、こちらの消耗が予想以上に激しい。

 もし切り札を切れば、今以上の事態が起こった時に対処しきれなくなる。


 リディアナも同じことを考えていたようで。


「――やむを得んジェイル。ここは一度退き、体勢を整え……」

 

 悔しそうに、そう言いかけた時だった。



「うぉおおおおおらぁあああああああああ――ッ!」



 豪快な雄叫びと共に、明後日の方向――馬人の魔獣の左後方から突如、人影が現れる。

 その人物は、猛スピードで魔獣へと迫っていき――



『ブルォオオオオオオオオオオオオ――ッ!?』



 馬人の魔獣の腹を、背後から文字通り貫通した。

 魔獣の腹に大穴を空けた人物は、拳を振り抜いた状態で、ジェイルたちの前で残心している。


「「あれは――!」」


 目の前に現れたのは、紺青の髪の青年。

 その姿を見て、ジェイルとリディアナが揃って声を上げる。

 一方、カレンは突然の出来事に、驚いた表情をしていて。



『ブルォオオオオオオオオ――ッ!?』



 馬人の魔獣は苦悶の咆哮を上げながらも、自らの腹を破った眼前の敵を睨みつける。

 そして、丸太のような剛腕を振るい、青年を叩き潰そうとするが――


(おせ)え!」

 

 青年は跳躍。

 そのままジェイルたちがいる方向へ、爆速で突貫し始めた。

 渾身のひと振りを(かわ)された馬人の魔獣も、怒りのままに青年を追随する。


「どうやら、こちらにも増援が来たようだね」


「え? え!? こっちに来てますよ!」


 驚きを隠せないカレンに、ニヤリと笑うジェイル。


「ジェイル! 壁だ!」


 青年に呼びかけられたジェイルは、瞬時にその意図を察し――


「ああ、わかってる。《原始の障壁よ》ッ!」


 青年が向かってくる前方に、防御系【オリジン・シールド】を展開した。


「ナイス! うぉおおおおおおおおお――!」


 青年はそのまま【オリジン・シールド】に突進。

 魔力障壁に対し、水平横向きに着地。

 そのまま障壁を蹴って、バネのように推進方向を180度変えて――

 再び魔獣へと突貫する。



『ブルォ!?』



 逃げていた青年が、いきなり真逆に方向転換し、自身に飛んでくる。

 不意をつかれた魔獣は思わず仰け反って――



「おおおおおおらぁあああああああ――ッ!」



 再び拳を振り抜いた青年が、今度は魔獣の喉元を通過した。



『~~~~!?』



 貫通。

 咽喉にも大穴を空けられた馬人の魔獣は、声にならない声を上げ、身を悶えさせる。


「ニナ! トドメだッ!」


「分かったわ!」


 血飛沫を撒きながら青年は振り返り、そう叫んだ。

 その傍らには、はたまたいつからそこに居たのか。

 深紅の髪の娘が立っており――



「《堅牢なる黒鉄(くろがね)の牢獄・暗き深淵を纏いて鏖殺(おうさつ)せよ》ッ!」



 娘が呪文の〆を括った、その瞬間。

 馬人の魔獣の周囲に魔術円陣が八つ、展開した。

 それらは丁度、魔獣を取り囲んで六面体の頂点の位置に配置されており、そこから黒い線が伸びて大きな六面体が形成される。

 

 重力系【グラビティ・プリズン】――対象を結界に閉じ込め、内部を超重力で圧殺する魔術だ。


 馬人の魔獣は結界の中で激しく抵抗するが、それも虚しく――



『~~~~~~!』



 ぐしゃりという音と共に。

 重力の奔流に潰され、肉塊と化し、完全に死に絶えるのであった。


「よっしゃあ! いいぞニナ!」


「当然よ! これで後は、あの大蛇だけね」


 そんな言葉を交わし、青年と娘――ルーガンとニナは、奥で鎮座するティタノボアに狙いを定める。



『シャァァァァァ……』



 対するティタノボアは――ジェイルによってつけられた全身の傷は、既に治癒しきっており、万全の状態へと戻っていた。

 しかし次の瞬間、くるりと尾を翻し、彼らに背を向ける。


「っ! ルーガン、逃げる気だ!」


 ティタノボアの意図に気付き、ジェイルは声を上げた。


「ちっ、流石に五対一じゃ分が悪いってか!? 

 魔獣の癖に頭が回るじゃねぇか!」


 舌打ちをしながら、ルーガンが後を追いかけるが。


「……なんだと!?」

 

 信じられない光景に、ルーガンは目を見開いた。

 なんと――ティタノボアを中心に、大地に巨大な円形法陣が現れたのだ。

 法陣から出る光がティタノボアを包み込み、その姿は徐々に薄くなっていく。


「あれは……転移の術か!」


「やっぱりスタンピードの原因って……!?」


 何かに確信を得たような表情をするリディアナとニナ。


「ち――! 逃がすかよぉおおおおお!」


 ルーガンが弾速の速さで駆け抜け、ティタノボアに一撃入れ込もうと拳を放つが――

 寸前で転移が完了。

 ティタノボアは完全に消え、拳は虚しくも空を斬った。


「くっそ! どうなってやがる!?」


 あと一歩届かず、歯噛みするルーガン。

 周囲をぶんぶんと振り返るが――


「ルーガン! 気持ちはわかるけど、奴を追うのは後よ!」


「ち……あぁ、そうだな」


 ニナの呼び掛けで、渋々ジェイルたちの場所へと戻る。


「――リディアナさま。大公ユリエスの命により、マージェスに馳せ参じました」


「ほんとはもっと早く着いてたんスけどね。遅れてすまねぇ、リディアナさん」


 横に並んだ二人は、リディアナの前で跪く。


「いや、よい。そなたたちが北区の魔獣を殲滅してくれたことは、報告で聞いている。大公庁からの増援、感謝するぞ」


 長い戦闘を終え、ようやく緊張状態を解いたリディアナが言った。


「――だけど、まさかお前までマージェスにいるなんてなぁ、ジェイル」


「本当に驚いたわ。それに、その可愛い女の子は一体だれなの?」


 ルーガンとニナは立ち上がって、ジェイルとカレンの元へ寄る。


「久しぶりだね。ルーガン、ニナ。この子――カレンのことは、後で説明するよ」


 ジェイルたちが短くやり取りをしていると。


「あの、ジェイルさん。この方たちは、一体……?」


 怒涛の展開についていけなかったカレンが、ようやくジェイルに尋ねた。


「ああ、紹介がまだだったね。二人は俺の同僚で……」


 そう言いかけて、ジェイルはルーガンたちの方をちらっと見やる。

 その様子を察した二人はカレンの前に行き――


「よう、嬢ちゃん。俺は煌燈(こうどう)十二軍、第二軍団所属のルーガン=ベオウルフだ!」


「同じく、第三軍団のニナ=アッシュよ。よろしくね、カレン」


 二人とも、朗々とした表情で挨拶するのであった。



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