第43話 『合流』
「そなたは――ジェイル=サファイアか!」
意外な人物に、リディアナが目を見開く。
「ええ。久しぶりの再会ですが、どうやら喜んでいる暇は無いようですね」
黒髪黒瞳の青年――ジェイルが、燃え上がるティタノボアを油断なく睨みつける。
「まさか、あのティタノボアまでいるとは」
「ごほっ! ジェイル……一体、どうしてここに?」
「第二十分隊のウォーレン、そして二十一分隊のオリーバから、リディアナ公がここで交戦中だと聞いて駆けつけました。
マージェスの状況も、概ね把握しています」
そんなやり取りをしていると。
「領主さま! 大丈夫ですか!?」
ジェイルの後ろから、一人の少女が走ってきた。
「そなたは――くっ!?」
少女に問おうとした瞬間、リディアナの顔が一際苦痛に歪んで、その場に倒れ伏す。
「カレン、彼女を連れて後ろへ。かなり毒が回っているみたいだ。すまないが……頼めるかい?」
「わかりました!」
少女――カレンはリディアナを庇いながら、数メートル後方へ引き下がる。
そして、苦悶の表情で胸を抑える彼女の隣に寄り添い、手のひらを重ねた。
「領主さま……失礼しますね」
「一体、何を……」
カレンは静かに目を閉じ、何事かを念じ始める。
すると、少女の体が僅かに光り出す。その粒子がリディアナへと浸透していき――
次の瞬間には、リディアナの全身を襲っていた苦痛がみるみる消え、再び活力が漲ってきた。
「これは……令束か!? 毒を完全に消し去るとは……。そなたは一体――」
眼前で起きた奇跡に、驚きが隠せないリディアナ。
「話は後で。まずは、この魔獣を仕留めましょう」
前方に佇むジェイルは、そう言って魔力を高め始める。
一方、全身火達磨になっていたティタノボアは、ようやく炎を振り払い、ジェイルを睨みつけた。
【フレイム・ロード】の炎に焼かれ、強固な鱗が焼け爛れていたが、それも瞬時に再生している。
「凄まじい再生力に、毒まで……。本来のティタノボアとは、まるで別物だな」
特異魔力体質者によるブーストがかかった、三等軍用魔術すら全く意に介さない様子に。
流石のジェイルも顔を引き攣らせる。
「気を付けるんだジェイル。奴の毒は無色無臭、気付かぬうちに侵される」
ふらつきながらも立ち上がったリディアナが、後方から注意を促した。
「ええ、わかっています。だからこそ――」
ふっ――と左手を翳し、ジェイルは再び深層意識に集中する。
「《炎獄の悪鬼は業炎を纏う・壊劫以て蒼を蹂躙せよ》ッ!」
起動するは【クリムゾン・フレア】。
直後。
轟音と絶大な劫火が大地を撫でる。
ジュー、ジューと何かが気化する音と共に、無限に膨れ上がる熱量が、再びティタノボアを抱きしめた。
『キシャアアアアアアアアアアアアア――ッ!』
その身を溶かさんばかりの炎に、甲高い絶叫を上げるティタノボア。
「なるほど……灼熱で毒すらも焼き尽くすとは。流石は、熱量の特異魔力体質者だな」
ジェイルの狙いを察したリディアナ。
その声にええ、と応えつつ。
「このまま、再生できなくなるまで燃やし続けます!」
今度こそ止めをさそうと、魔術式に一際大きな魔力を込めようとした。
次の瞬間――
「――――!?」
ドガアアアアアアアアアアアァン!
突如として、ジェイルの上から巨大な何かが降り注ぎ――大地が割れた。
「――ッ!? ジェイルさぁあああああああん!」
あまりに突然の出来事。
吹き上がる土煙に顔を背けつつ、カレンが叫ぶ。
その叫びも虚しく空を切り、代わりに聞こえてきたのは――
『ブルォオオオオオオオオオオオオ――ッ!』
野太い蒸気機関車の汽笛のような、猛獣の雄叫びだった。




