第41話 『派遣者たちの攻防』
――――。
その頃。
マージェス北部。
運河の傍らに建設された住宅街の街路にて。
「くっそ、キリがねぇなこりゃ!」
紺青の髪の青年――ルーガンが、吐き捨てるように言った。
「うるさいわよルーガン。口より手を動かしなさい!」
傍らから、深紅の髪の娘――ニナが冷ややかな目を遣る。
「へいへい。ったく、口を動かさずにどうやって呪文を唱えんだよ……」
そう言って軽口を叩き合う。
現在、二人は大量の魔獣に取り囲まれていた。
群れを成す犬型の魔獣――黒狂犬は腰を低くし、石造りの街路に爪を立て、今にも二人に襲いかかろうかと言わんばかりだ。
「つか、さっき魔獣どもの一波を片付けたばっかだろ。一体どこから湧いてきやがったんだ?」
「どうやら、ただのスタンピードじゃ無さそうね。これじゃあ、魔獣の大量発生というより……大量召喚じゃない」
度重なる連続戦闘に、流石のニナもくたびれた表情を見せる。
「何か裏があるってことか。だったら早く、そいつを暴かねぇとな!」
そんな会話をしていると。
『『『『グルァアアアア――――ッ!』』』』
ついに痺れを切らした数匹の黒狂犬が、二人に突進を開始した。
「ちいッ――ニナ! この辺りは、俺たち以外に誰もいないよな!?」
ルーガンが大きな声を上げて、ニナに問う。
「ええ! みんな都心部に避難してもらってるわ」
「よし。今から魔獣どもをまとめて蹴散らす! 時間を稼いでくれ!」
「了解よ! ――《原始の根源よ・我が袂に画一せよ》ッ!」
ニナが矢継ぎ早に呪文を唱えた。
起動させた魔術は錬成系【アルケミー・ドローイング】――高速錬成魔術だ。
その瞬間、ニナの足元から二つの魔術円陣が展開。
石造りの街路を素材に、巨大な逆五角形の盾が二つ出現した。
先端に槍のような突起がついたその盾は、『アダーガ』と呼ばれる攻防一体の武器である。
そしてニナは、生み出した二対のアダーガを両手に装着し、低く構えると――
「はぁあああああ――ッ!」
見事な回天乱舞でアダーガを振り回し、襲い来る黒狂犬たちを迎撃する。
ざしゅ! ざしゅ!
その姿はまるで、麗しき踊り子の舞のよう。
先端の槍が黒狂犬の首を捉え、次々に血華を咲かせていく。
『『『『ギギャアアアアア――――ッ!』』』』
黒狂犬たちが断末魔の絶叫を上げる中――
一歩引いていたルーガンは静かに目を閉じ、深層意識に集中。
「――《炎獄の悪鬼よ・その身に纏いし朱の業炎以て・蒼き万象を焼き尽くせ》ッ!」
計三節に渡る詠唱で完成させたのは、炎熱系【クリムゾン・フレア】――灼熱の炎で周囲一帯を燃やし尽くす、二等軍用魔術だ。
その瞬間。
ゴォオオオオオオオオオオ――ッ!
空気を震わせる轟音と共に。
辺り一帯が真紅の色に染まる。
獄炎の津波が。膨大な熱量が。
黒狂犬たちへと押し寄せる。
超高熱の炎に晒され、雄叫びを上げる間もなく、骨すらも蒸発していく。
蹂躙――そんな言葉こそ相応しい、圧倒的な光景であった。
「……こんなとこか」
魔獣の全滅を確認したルーガンは、ゆっくりと魔術を解く。
「二等軍用魔術の三節詠唱。脳筋のあんたにしちゃ、なかなかやるじゃない」
【クリムゾン・フレア】起動の瞬間、安全圏に避難していたニナ。
ウィンクをしながら、ルーガンへ賞賛を送る。
「ま、遠距離魔術もいい加減修行しろって、大公サマや師匠に散々言われたからな〜」
ルーガンが頭をポリポリと掻きながら、そう返した。
「それよか、いい加減リディアナさん達と合流しねぇか? こんだけやれば、しばらくこの辺りは大丈夫だろ」
そんなことを言って。
「そうね。避難所までは銀氷狼の魔術士たちが結界魔術を作ってくれてるし……私たちも、銀氷狼の本部に向かいましょう」
二人がマージェスの都心部へと向かおうとした……その時だ。
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ…………ッ!
大地が揺れ動くような音と振動が、一面に響き渡った。
「なんだ今のは……!?」
「――ッ! 見て、ルーガン!」
ニナが指さす先――マージェスの西部から、巨大な土煙が吹き上がっている。
「おいおい。あの規模は流石にやばくねぇか?」
ルーガンがその方向を眺めながら、軽く冷や汗を垂らす。
「もし巨大な魔獣が出たのだとしたら、今の疲弊した皆じゃ対処しきれないわ! すぐ向かいましょう!」
「ああ。ったく、次から次へと厄介なもんだぜ!」




