第39話 『スタンピード』
「――ッ! わ、我々は"銀氷狼"マージェス本部の第二十分隊で、自分は分隊長のウォーレン=アハトと申します! かの公国随一の魔術士殿に助けていただき、光栄であります!」
ウォーレンと名乗った青年と、彼が率いる若い魔術士たちが、一斉に敬礼をした。
そんな彼らに、ジェイルはよしてくれと笑いながら。
「今、マージェスで何が起こっているんだ?」
真剣な眼差しで、ウォーレンに尋ねる。
「……"スタンピード"です」
「なんだって……?」
ウォーレンの答えに、ジェイルは訝しんだ。
「スタン、ピード?」
ジェイルのすぐ傍らにいたカレンが、怪訝そうに首を傾げる。
「スタンピード――マナの流れや気候、力場の影響で、魔獣が大量に発生する災害現象のことだね。
だけど、マージェスの近くには魔獣の住処は無かったはず。そもそも魔獣がいないのに、どうしてスタンピードが起こってる?」
「それが……分からないのです」
ウォーレンが神妙な面持ちで続けた。
「始まりは四日前でした。マージェスの南部にある河川周辺の市街地で、魔獣の群れが突如発生したんです。何の前触れもなく……。
そこから広がっていくように、各地で魔獣が出現し始めました。まるで、何も無い場所から湧き出てくるように」
「突然、街中に魔獣が出現したって? そんな馬鹿な……」
あり得ない証言に、軽く目を見開くジェイル。
「ええ……。しかし、マージェスは『公国保安庁』を携える国家防衛の総本山です。領主であるリディアナ様によって、すぐに対策が打たれました。
ですが、昼夜問わず現れる魔獣に対応が追いつかず……調査も難航しているのです」
よく見ると、ウォーレンの目元には酷い隈があった。
きっと常に厳戒態勢で、ここ数日まともな休息を取れなかったのだろう。
「襲われた区域の住民たちには現在、都市の中心部に避難してもらっています。
そして銀氷狼と魔術士組合が総出で殲滅にあたっているのですが……魔術士たちの被害は甚大です。幸い、死者はまだ出ていませんが……」
いかに精強な組織でも、魔獣が街の内部から次々と溢れ出るならば、対応は後手に回るしかない。
死者がまだ出ていないだけで奇跡と言えるだろう。
「ジェ、ジェイルさん……」
カレンが心配そうな目で、ジェイルを見つめる。
楽しみにしていた美しい都市の凄惨な姿に、かなりショックを受けているようだ。
「カレン。すまないが、国民証の発行は後回しだ。今は、この惨状を見過ごす訳にはいかない」
ジェイルは静かに目を閉じ、そして何かを決意するような顔で言った。
「は、はい! 私も微力ですが、お手伝いします!」
そんなジェイルを見て、カレンが元気よく声を上げるのだった。
「カレン……」
頼もしい声に、ジェイルは微笑む。
「よし。まずはリディアナ公と合流して指示を仰ごう。ウォーレン、彼女は今どこに?」
「は、はい! リディアナ様でしたら、今は銀氷狼本部の執務室にいるはずです!」
「わかった。すぐに都心部へ向かう」
「了解しました! 道中は、我々もお供いたします!」
こうして。
ジェイルたちは、襲い来る魔獣たちを退けつつ、マージェスの都心部へと向かっていくのであった。




