第3話 『魔術という技術』
前提として、この世界には大気中に生命力――マナと呼ばれる物質が存在している。そしてマナは、体内に取り込むことで魔力という物質に昇華される。
魔力はあらゆる力の源となり、それ故に各国で魔力を用いた技術の発展、開発が進められている。
例えばレヴィエント王国の魔導器、バラバ帝国の令束、極東の国ヤハムの呪却、――そして、フォルニカ公国の魔術。
国によって魔力を用いた技術は多種多様だが、ほとんどが軍事利用することによる国力増大を目的に開発が進められている。
「これを見てごらん。この文字や数字の集まりが、魔術式。魔術はこれを呪文に落とし込むことで、詠唱を介して起動するんだ」
ジェイルは、空中に魔力で簡素な数式を書いてみせた。
「この魔術式は炎熱系魔術【フレイム・スフィア】の術式だよ。最も簡単な攻性魔術で、術式を頭の中でイメージしながら呪文を詠唱すると、火球が放出されるんだ」
そう説明しながら、部屋の一角――火のついていない暖炉にちらっと目をやり、左手を翳す。
「《炎弾よ》」
呪文を詠唱すると、左手の先から魔術円陣が出現する。そこから掌ほどの小さな火球がひゅん、と飛び出し暖炉の中に着弾。予め入れられていた薪に着火し、ぱちぱち と火が上がり始めた。
「こんな風にね。もっと高度な魔術を起動しようと思えば、脳内の深層意識の改変や、術式構築用の魔力と起動用の魔力の使い分け、魔力の出力調整――色々と意識しないといけないことがあるんだけど……」
そう言いながら振り返った瞬間、ジェイルは驚愕する。そこにはなんと、テーブル越しに自分と同じように暖炉に向かって、左手を翳しているカレンの姿があったのだ。
「このようにするのですね……《炎弾よ》」
「えっ!? ちょっと待っ――」
そう言おうとした時には既に手遅れ。カレンの左手から、ジェイルと全く同じ魔術円陣が浮かび上がった。
ただ一つ異なることがあるとすれば・・・・・・放出された火球は、テーブルや椅子を軽く超えるほど巨大だったことだ。
「――ッ! 《原始の障壁よ》ッ!」
ジェイルは咄嗟に防御魔術を起動させ、火球を相殺しようとする。しかし、膨大なエネルギーの余波までは打ち消せず――
ガッシャアアアアアアアン!!!!
次の瞬間、宿の一室は半壊。その衝撃で部屋のドアはくの字に折れ曲がり、廊下の外へ派手に吹き飛んでいた。
「――な、何があったのですかぁ!?」
鳴り響く爆音を聞いて、宿の店主と思わしき男性が、階段から上がってきた。
「…………」
驚いて目をぱちくりさせるカレン。
「あー、これはまずいな……」
見るも無惨な部屋の様子に、ジェイルは苦笑いを浮かべて、頬を掻くしかなかった。




