第一章《奴隷少女》エピローグ
――――。
同時刻。
フォルニカ公国"首都"エレメンタに設けられた中枢機関『大公庁』の執務室にて。
「……次が最後の書類になります」
一人の青年が、両手いっぱいの書類をどさっと机に置いた。
歳は16ほどだろうか。
栗色の髪をした、まだあどけない顔立ちが特徴の青年だ。
「もう最後かい? ありがとう、ムーンエル」
執務用の机の上で、これまた大量の書類を捌いている金髪の男が言った。
見るのも嫌になるほどの書類の束を、男は涼しい笑顔で受け取る。
二十歳過ぎほどの若い男だ。
色白の肌に、上質なシルクのような透明感抜群の金髪。鮮やかな翠色の瞳。
その姿は、人目で凡俗な平民とは違う、高貴な身分であることが窺えた。
「大公様。恐れながら、少しお休みになられた方がよろしいかと思います。
もう何日も、働き詰めですので……」
ムーンエルと呼ばれた青年は、金髪の男の身を案じる。
「ははは、私は大丈夫だよ。魔術士のように、命懸けの戦いをするよりかは遥かに楽な仕事だ。それに……」
大公様と呼ばれた金髪の男は、追加の書類をパラパラと流し見た。
「今の公国は、昔のように磐石とは言い難い。人口減少による人員不足、諸外国からの侵略、そして……水面下で暗躍するヨルムの括り。
国家としては、かなり不安定な状態だ。
一国の長として、休んではいられないさ……おや?」
そんなやり取りをしていると、机の上に突如として小さな魔術円陣が浮かび上がった。
「これは――」
「伝令の魔術だ。各地に派遣中の煌燈十二軍からかな?」
金髪の男は魔術円陣に手をかざし、伝令の内容を読み取る。
「……ふむ。なるほど……」
数秒の沈黙が通って、金髪の男は軽く目を細めた。
「大公様。伝令とは一体……」
その様子を見たムーンエルは、引き締まった表情で男に尋ねる。
「どうやら、送ってきたのはジェイルみたいだね」
「ジェイルって……あの第一軍団のジェイルさんですか?」
「ああ。伝令の内容は――『イーンの街に潜伏していたヨルムの括りを排除し、狙われていた少女を保護。少女はバラバ帝国から連れてこられた奴隷で……治癒の特異魔力体質者』――だそうだ」
すると、それを聞いたムーンエルは驚いた表情で言った。
「特異魔力体質者ですって……!? しかし、帝国から連れてこられたとなると……なぜヨルムの括りは、わざわざ我が国で引き取りを……」
「それはまだわからない。だがこれまでの動向から、奴らが我が国で何かをしようとしているのは事実だ。
奴隷だった少女はそれに巻き込まれて、無理やり連れてこられたんだろう」
金髪の男が右手でかき消す動作をすると、魔術円陣がふっと消滅した。
「ジェイルはどうやら、その少女を公国の国民にするみたいだ。マージェスで国民証を発行した後、エレメンタに戻ってくるらしい。
国民証は最終的に、私の承認が必要だからね」
「ですが……その少女が敵国からの諜報員という可能性も……」
ムーンエルは心配そうな声で進言する。
「かもしれないね。……まあ、もしそうだとしても彼なら上手くやってくれるだろうさ」
そう言った金髪の男の表情は、どこか愉しそうだった。
「……大公様?」
場違いな表情に、ムーンエルは不思議そうな顔をする。
「いやなに……特異魔力体質者は、数千万人に一人の割合で生まれると聞く。
このタイミングで、そう都合良く公国に流れてくるなんて出来すぎだ。
君の言うように、他国からの諜報員であることを疑うのが自然なのだろうね」
金髪の男は続けて。
「だけど万が一、少女がたまたま公国に流れ着いたんだとして……。この国に魅せられ、力になりたいと願ってくれるのなら……。
長きに渡るヨルムの括りとの戦いにも、何か進展が起きるかもしれない」
そう言って肘をつき、両手を顔の前で組む。
そして――
「さてと、件の少女――カレン=レストリアがこの国に光をもたらすか、それとも陰をもたらすのか……。じっくり見届けようじゃないか」
金髪の男――フォルニカ公国"大公"ユリエス=アークロプス=フォルニカが、底の読めない表情で微笑むのであった……
初めまして、HaiRuです!
いつもご愛読下さり、ありがとうございます!
煌燈十二軍と供犠記憚――ここまでが一章となります。
本当に長かった……
プロットから文字に起こすのがここまで大変だとは……
現実という激務に追われる中、ちょくちょく小説を書き進めて約1年。ようやく終えることができました。まだ全体の数十分の一ですが……
一章は登場人物も少なく、冗長に感じられるかもしれませんが……これらは全て! 全て必要な過程なので悪しからず……!
さて、第一部第一章とあるように"サクサガ"ワールドはまだまだ続きます。
ようやく始まったジェイルとカレンの物語。
皆さんも楽しんでいただければ、作者冥利につきます。
暇を見つけたらX(旧Twitter)にて、彼らのイラストを投稿していければと思いますので、そちらの方もチェックをお願いしますね!
ではでは!
次は二章のエピローグにてお会いしましょう〜〜!
これ……全部書き終わるの何十年後になるんだろう……




