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【挿絵多め】煌燈十二軍と供犠奇譚《サクリフィス・サーガ》  作者: HaiRu
第一部【フォルニカ公国篇】 第一章《奴隷少女》
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第34話 『月下の断罪者』



「……く……なぜ……私がヨルムの括りだと……?」


 月明かりに照らし出された男――フォンスが苦々しく口を開いた。


「決定的だったのは、リッパーを『オルセントの流れ屋』に送ったことだ。あの時点でカレンの姿を見ていたのは、宿にいたお前だけだったからな」


 その言葉に、フォンスは押し黙り。


「なるほど……確かに、タイミングがあからさまだったのは私の落ち度だ。その時既に、貴方から疑われていたわけですね」


「違う」


「……ほう?」


 思わぬ否定に、フォンスは怪訝な顔をする。


最初から(・・・・)だ。一週間前、俺があの宿に泊まった時点で、貴様を公国に仇なす者だと疑っていた」


「それは……どういう……」


「俺は三年ほど前まで、この街を根城にしていた。これで分かるな?」


「!」


「そう。あの宿の主はお前であるはずがない(・・・・・・・・・・)


 ジェイルは淡々と続ける。


「俺の記憶では、あの宿の本来の主は気さくな老夫婦だ。

 何やら情報を集めるために、わざわざ宿の主に扮したんだろうが、それが仇となったな。」


「……ああ、本当にタイミングの悪い。そこまで分かっているならば、私がこの街の住民にかけた術の正体も、既に見破られていますね」


「当然だ。『オルセントの流れ屋』の女将にお前を尋ねたところ、お前が宿の主になっていたことについて、何の疑問も抱いていなかった。――いつ主になったのか、記憶が曖昧だったにも関わらずだ。そうなれば、貴様のしたことも想像がつく。

 お前は一週間前、この街にいる人間"全て"に暗示の術をかけたのだろう?」


「――ッ! ええ……その通りです」


 フォンスは観念したように目を閉じる。


 この男はイーンに潜伏する際、街にいた人間全員に、自身が宿の主であると認識させる術をかけたのだ。

 イーンがいくら小さな辺境の街といっても、人口は千人を軽く超える。

 それら全ての人間に気付かれることなく術をかけるのは、並大抵の術士では不可能だ。   

 流石はヨルムの括りといった所か。


「私がこの街に潜伏していた目的は二つ。

 一つは"国境なき行商"オルセント一家の隠し遺産を我がものとすること。そしてもう一つは、バラバ帝国で見つけたあの奴隷の少女を、上の階の方々に献上することでした」


「――なるほどな。ふん……街一体に暗示をかけるその技能は凄まじいが、計画(プラン)杜撰(ずさん)すぎる。

 さしずめお前は第一(ターム)……組織の中でも、末端の構成員だろう?」


「……お恥ずかしながら」


 ジェイルの的確な指摘に、フォンスは押し黙るしかない。


「さて……業腹だが、貴様には聞くことがある」


「ええ、どうぞ。どうせ消される命ですので、何でも。ですが残念ながら、上の(ターム)の方々のことは――」


「それは百も承知だ。第一(ターム)の地位は組織でも最下層。内部情報はほとんど与えられていない。聞きたいのは、あの奴隷だった少女についてだ」


「ほう」


「彼女は何者だ? 只者ではないのだろうが、なぜ貴様がそれを知っている」


「……いいでしょう。私も偶然(・・)、小耳に挟んだ程度ですが……。どうやら彼女は、極めて希少な"治癒の特異魔力体質者(フロート)"のようです」


「治癒の特異魔力体質者(フロート)……だと!?」


 衝撃の言葉に、流石のジェイルも息を呑む。

 だが同時に、妙に納得がいった。

 

(……確かに彼女は、緻密な魔導回路が組み込まれた煌燈十二軍の礼服すらも、一瞬で再生してみせた。

 ただの治癒の令束者(イルスト)ではないと思っていたが、特異魔力体質者(フロート)だったとは……)


 そう思案していると。


「それにしても驚きました。まさか貴方にここまで看破されるとは。

 今の煌燈十二軍は、大公のユリエス卿によって祭り上げられた"第二世代"……未熟な若輩者ばかりと聞いていたのですがね」


 フォンスがどこか感心したような言葉を並べる。


「――ああ。確かに四年前と比べて、煌燈十二軍は弱体化した。当時最強と呼ばれた"第一世代"は皆、殉職や退役したからな。だがな……曲がりなりにも、今は俺たちが公国最強の魔術士だ」


「やはり、公国は強しということですか。オルセント一家の遺産を見つけ出し、治癒の特異魔力体質者(フロート)を献上することで、組織での地位を向上させようとしていたのですが……無念です」


 小さく嘆息するフォンスに。


「……死ぬ前に最後、一つ教えてやる。オルセント一家の遺産を狙っていたと言っていたな」


 ジェイルは睨みつけたまま、そう確認する。


「ええ。大陸中を股にかけ、"国境なき行商"や"自由の系譜"と呼ばれた一族です。彼らが没したこのハラル大森林に、隠し財産の一つくらい……」


「そんなものは存在しない」


「――? 一体、どういう……」


「第一(ターム)。組織でも末端に過ぎない貴様が、それを知らずにあぶく銭を狙ったのも当然だろうな」


 ジェイルは侮蔑した表情のまま。


「なぜなら……俺自身が(・・・・)彼らの遺産だからだ(・・・・・・・・・)


 凍てついた瞳で、ジェイルが告げた。

 それを聞いたフォンスは愕然とする。


「なんと……! まさか、かの御方(・・・・)下僕(しもべ)たちから逃げ果せた者がいたとは……! しかし、どこの国にも属さない、オルセント一家の生き残りである貴方が、なぜ公国に……」



「決まってるだろう」



 直後。

 ジェイルの声が、一段と低くなって。

 その左目に通った大きな傷跡を、右手でなぞる。


「家族同然のオルセント一家を皆殺しにした悪魔ども……そして、それを手引きした貴様らヨルムの括りは、(いま)だ羽虫のように跋扈(ばっこ)している。

 その外道共を、俺が全て潰して……殺すためだ(・・・・・)



 圧倒的な存在感。

 地獄の悪鬼とは、まさに彼の者か。

 無慈悲に左手を(かざ)すジェイルの瞳は、深淵の闇に黒く塗り潰されていた。 



「さあ。今際の際はここまでだ」


「……く……」


 そろそろ、自分が始末されるタイミングだと悟ったのか。

 フォンスは覚悟を決めたように軽く俯いて――


「ふふふ……! まさか、大陸最強と謳われた『煌燈十二軍』の現在(いま)の筆頭が、かのオルセント一家の生き残りとは。

 しかも、その本質は憎悪に塗れた復讐者(・・・)ときている……。冥土の土産に、面白いものを見せて頂きました……!」


 そう言って。


「上の方々はいずれも、人の理を超えた超越者ばかりです。貴方が彼らに牙を剥いてどうなるのか……実に興味深い。

 その顛末(てんまつ)……地獄(ゲヘナ)の淵から拝見させてもらいますよ」


 ジェイルはそんな挑発めいた言葉に意を介さず。


「ふん。貴様に見せるつもりはないが……。当然、皆狩り尽くすさ。その為に、俺は公国(この国)にいるんだからな」


 そう言葉を締め(くく)って。


特異魔術(パーソナル)――」


 ドクン――と胎動する不穏な魔力。

 そして。

 夜の闇を纏ったハラル大森林の入口にて。


 今日、二度目となる、死の凍気が訪れた。



 ――――。



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