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【挿絵多め】煌燈十二軍と供犠奇譚《サクリフィス・サーガ》  作者: HaiRu
第一部【フォルニカ公国篇】 第一章《奴隷少女》
34/73

第33話 『後始末』



 ――――。



 半刻後。


「ほら、これでどうだい? 鏡を見てみな」


「わあ……! とっても可愛いです!」


 『オルセントの流れ屋』の二階。

 居住部屋に立てられた大鏡の前で、カレンがくるくると踊った。

 今のカレンは、先程までのボロボロの奴隷装束の姿ではない。

 白を基調とした、清潔感溢れるワンピースを身にまとっていた。


「そいつはよかった。捨てずに残しておいて、正解だったよ」


 ワンピースを着せた張本人――ナターシャがにかっと笑う。


「だけどいいのですか? こんな綺麗な服を頂いてしまって……」


「いいんだよ、どうせ誰も着ないんだから。天国にいる娘も、着てくれる子がいるなら喜んでいるだろうさ」


「え……天国って……」


「ああ。今から四年前まで、この国は悪い魔術士たちにずっと狙われていたんだ。当時、煌燈十二軍だった夫と娘は、その時の戦いで……ね」


 ナターシャは、どこか遠くを見つめるような顔をする。


「そんな……」


「もちろんあの時は辛かったさ。だけど、二人はこの国を守るために誇りをかけて戦ったんだ。その覚悟は間違っているとは思わない」


 そう言って柔らかく笑って。


「それに……今日、二人目の娘もできた」


 カレンの頭に、ぽんと手を乗せる。


「カレン。無事に戻ってきてくれて、ありがとう。どうかこの美しい国で、幸せになっておくれ」


「ナターシャさん……」


 ナターシャの言葉に、カレンは胸いっぱいの表情になる。

 そんなやり取りをしていると。


 ――ぐぅ。


「あっ……」


 カレンのお腹が、可愛らしく音を上げた。


「あはは! そういえば、あの後結局何も食べずじまいだったからねえ。さあ、晩ご飯にしよう」


「えへへ……はい!」


 そうして二人は、階段を下り、一階の酒屋の方へと向かっていく。

 その途中で。


「あの……そういえばジェイルさんは、一体どこにいったのでしょう?」


 カレンが不思議そうな表情で尋ねた。


「ああ……ちょっとした、後始末さ」



 ――――。



 フォルニカ公国の辺境で起きた事件は、これにて終結した。

 奴隷として囚われていた少女を見事に救い出し、一件落着。

 ……といいたいところだが。

 煌燈十二軍である彼には、まだ一つ仕事が残っている。


 太陽もすっかり沈み、暗い静寂が辺りを包み込む。

 イーンの街の外れにある街道――ハラル大森林の入口付近に、一人の男が立っていた。


「まったく、いきなり呼び出したかと思えば……いつになったら来るのでしょうか。受け取りは明日の朝だというのに……」


 男は誰にともなく、そう呟く。

 そんな中。

 男の背後から、ざくっざくっと土を踏む音がした。


「――待っていても、『千切』のリッパーなら来ないぞ」


「あなたは……ジェイルさん!?」


 背後から現れたのは、煌燈十二軍の軍用礼服に身を包んだジェイルだ。

 

「は、はて……一体、何のことでしょう?」


「聞こえなかったか? 輸送役(・・・)の男は来ないと言ったんだ」


 白を切る男に、ジェイルが鋭く言葉を投げかける。


 その様子は、先程までカレン達といた時とはまるで別人だった。

 暗く冷えきった瞳。低い声色。そして……溢れ出る猛烈な"殺意"。

 例えるならば、冥府に居座る執行者。


「……!」


 流石の男も、身の毛もよだつような気配を纏ったジェイルに、思わず左手を構えるが――


「無駄だ。この一帯は既に、俺の特異魔術(パーソナル)――【ゼロフィーラ】の支配下にある。

 あらゆるエネルギー運動は停止し、魔力操作は行使できない」


 ジェイルは冷徹に言い放つ。

 その時ちょうど、月明かりが雲の隙間から差し込んだ。

 淡い優しい光が、男の姿を照らし出す。

 三十代ほどの男だった。ふくよかな体型に、柔らかな顔立ち。そして、ホテルマンのように整えられた金髪。

 その男は――


「死ぬ準備は出来ているか。 イーンの宿の主、フォンス(・・・・)。いや……"ヨルムの括り"」



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