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【挿絵多め】煌燈十二軍と供犠奇譚《サクリフィス・サーガ》  作者: HaiRu
第一部【フォルニカ公国篇】 第一章《奴隷少女》
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第30話 『闘争の果てに』



「きゃ――!?」


 暴風を纏って飛んでくる砕氷に、カレンは思わず目を背ける。

 そして、四散した氷瀑の中心には――


「ぜぇ、ぜぇ……。今のが特異魔力体質者(フロート)だけが使える『特異魔術(パーソナル)』ってやつか……死ぬかと思ったぜ……」


 荒い息を立てながらも、しっかりと二の足で立っているリッパーの姿があった。


「本当に驚いたな」


 ジェイルはカレンを背後に庇ったまま、静かに目を見開く。


「加減したとはいえ、まさか【ゼロフィーラ】から自力で抜け出すなんて」


「はぁ、はぁ……。へへへ、まぁな……奥の手を隠し持ってんのは、テメェだけじゃねェってこった」


「なるほど。じゃあどうする? まだ戦いを続けるのなら相手をするが……」


 ジェイルはそう言いながら、左手に魔力を漲らせる。


「おいおいバケモンか? あれだけの大魔術を使って、息切れもねェのかよ……」


 苦笑いするリッパー。その額には、大粒の脂汗が浮かんでいる。

 煌燈十二軍。

 大陸最強と称される魔術士の規格外さに、改めて戦慄していたのだ。

 両者の間に、少しばかりの緊張感が流れる。

 しかし、ものの数秒がたったあと。


「チッ、やめだやめだ。これ以上やっても、負けるのは目に見えてるしな。俺はここいらでトンズラさせてもらうぜ」


 リッパーは突然、頭をガリガリと掻きながら、くるりと背を向けた。そのまま数歩、歩き出す。


「あん? 追ってこねェのか?」


 逃げる素振りを見せても、ジェイルは静かにそれを眺めているだけ。

 それを不審に思ったのか、リッパーは再びジェイルの方へ振り返った。


「ああ。今追っても、その奥の手とやらで恐らく逃げられるからね。この子も無事に保護できたことだし……痛み分けでいこう」


「ったく、余裕こきやがって。どこが痛み分けなんだか……。だが気にはならねぇのか? ガキを買った人間の情報とかよ」


「ああ、それには及ばない。君はあくまでも輸送と護衛のために雇われただけだから、その辺りの情報を持っていないことは分かってる。

 それに……犯人はもう見当がつい(・・・・・・・・・・)ている(・・・)


 ジェイルは不敵に微笑む。


「ケッ、どこまで用意周到なんだか。じゃあ俺は、そろそろ帝国に帰らせてもらうとするぜ」


「ご自由に。ただし、再び公国に干渉してくるのなら、その時は命の保証はないと思った方がいい」


「わァってるよ。こんなバケモン揃いの国、依頼されても二度と来るかッつの。

 あーあ。俺が依頼を失敗するのなんざ、魔術を覚えて以来初めてのことだぜ。暫く、裏の仕事は減るだろうな。チ……大損だ」


 そう言ってはいるが、リッパーの表情に怒りの色はない。

 むしろ、内心どこか楽しそうにすら見える。

 そして立ち去る直前――


「おい。奴隷のガキ」


 リッパーは、ジェイルの後ろにいるカレンをちらっと見やった。


「!」


 カレンは思わずジェイルの陰に隠れる。

 すると。


「フン――良かったな」


「……え?」


 予想外の一言に、カレンは驚きの声を上げる。

 リッパーはそのまま背を向け、森の奥へと消えてゆく。

 カレンは唖然とした表情で、その背を眺め続けるのだった。


「どうやら、幼い少女が奴隷として売られるのは、彼も思うところがあったみたいだ」


 リッパーの姿が見えなくなった後。

 ジェイルがカレンの肩に、ぽんと手を乗せる。

 その表情は、まるで好敵手と戦った直後のような、充実感のあるそれだった。



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