第2話 『フォルニカ公国と煌燈十二軍』
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そう言って、ジェイルは部屋の隅――ベッドの近くに置いてあった大きめのショルダーバッグを開け、中から羊皮紙に描かれた地図を取り出した。かなりボロボロで、よく使い込まれた印象だ。
続いて、テーブルの上に乗った空の食器を端に避け、真ん中にその地図を広げた。
そして地図の中にある、一際大きな大陸を指差すと。
「このいちばん大きな大陸が、レヴェナ大陸。君がいるのは、この大陸にあるフォルニカ公国という国なんだ」
続いて地図を裏面に返す。そうすると、今度は今言っていたフォルニカ公国が、大きく映っている地図へと変わった。
「公国は四つの大きな都市がある。まず中央にある首都『エレメンタ』、次に北部の『アリスロット』、そして南西部の『バミリア』、最後に南東部の『マージェス』の四つだ。ちょうど、首都を囲んで三つの都市が、正三角形を作っている感じだね」
ジェイルはそれぞれの都市をなぞり、最後に『マージェス』から少し東に離れた街を指差した。
「そして、俺たちが今いるのがここ。マージェスの郊外にある街、イーンだよ」
「なるほど……私はこんな小さな国の辺境に連れてこられたのですね」
カレンは地図をまじまじと見つめながら、不躾にそう呟いた。その言葉にジェイルはあはは、と笑う。
「確かにうちは、国土だけで見れば小国だ。おまけに西にレヴィエント王国、南にラザビア南方諸国連合、東にバラバ帝国と周りを大国に囲まれている」
再び地図を裏返して、三つの国を指し示す。どれも公国の国土の五倍以上はあるだろうか。とても大きな国ばかりだ。
「そのおかげで、公国は古くから他国の侵略に脅かされてきた。だけど未だに、どの国からも支配されずに独立を保っている」
「……さきほど言っていた、魔術士という身分と関係があるのですか?」
「その通り。魔術を扱う者――魔術士。長い長い歴史の中で、公国に忠誠を誓った魔術士たち――『煌燈十二軍』が、この国を守り抜いて来たんだ」
「煌燈十二軍?」
聞いたこともない言葉に、カレンが首を傾げる。
「公国中の中から選ばれた、少数精鋭の魔術士たちのことだよ。公国唯一の公的軍事機関で、その強さはまさに天下無敵。一人一人が、他国の軍の一個軍隊以上の実力を持っているんだ。なにより俺は――」
ジェイルは少し得意げな顔になって続けようとするも――
「そうなのですね。では、魔術というものについて教えてください」
カレンの魔術に興味が移った様子に、ジェイルは少し肩透かしを食らったような気分になる。
しかし、少しずつ心を開いてくれているのか――自然とカレンが話に食いつき、口数も増えているように感じる。ジェイルはそれを嬉しく思いつつ、気を取り直して魔術について語り始めた――