第26話『ジェイル対リッパー 其の二』
――――。
(妙だなァ……なぜヤツは、氷熱系魔術しか使ってこねぇんだ?)
壮絶な魔術の撃ち合いの最中、ふとリッパーは疑問に思う。
先程からリッパーは、熱量系や雷撃系、風衝系など、基本三属性と呼ばれる攻性魔術を巧みに扱い、攻撃を仕掛け続けている。
一方ジェイルは、それを身体能力強化の魔術で間一髪に躱し、防御魔術の障壁で見事に捌き、僅かな隙から反撃の攻性魔術を放っている。
それらは一見、完璧な対応――なのだが。
その攻性魔術の全てが熱量魔術――その中でも氷熱系に分類される魔術なのだ。
確かに熱量操作の特異魔力体質者らば、少ない魔力で高威力、高精度の熱量魔術を起動することができる。
しかし、明らかに他属性の魔術を使った方が有利になる状況でも、あの男は頑なに熱量魔術のみを使用しているのだ。
さらに、浮かび上がる疑問はそれだけでは無い。
(加えてあの無様な立ち回り……あれが本当に、噂に名高い煌燈十二軍の筆頭なのか?)
例えば先程の差し合い。リッパーが三等軍用魔術、炎熱系【フレイム・ロード】を放った時もそうだった。
ジェイルはあえて防御系【オリジン・シールド】の障壁で炎柱を受け止め、【グレイス・ブロック】で反撃に転じていた。
その結果、ジェイルの反撃まで一呼吸の間があったおかげで、【グレイス・ブロック】の着弾まで数瞬の猶予が生まれ、リッパーは余裕を持って躱すことができた。
現代の魔術士同士の戦いにおいて、魔術戦とはリズムの奪い合いである。
相手からの攻撃に対し、防御して反撃、この二工程で差し返すよりも、攻防一体の一工程で差し返す方が、相手に隙を与えずこちらの有利に立ち回ることができる。
このような事は、我流で魔術を磨き上げてきたリッパーですら周知の事実だ。
あの状況の場合、本来ならば風衝系【バイシクル・サイクロン】などで炎をいなしつつ、そのまま反撃に転じるのが定石だろう。
だというのに。
ジェイルは差し合いごとの展開に関わらず、愚かしいほどに氷熱魔術を使い続ける。
その立ち回りは極めて非効率。
一方でリッパーは、ほとんどの差し合いを一工程の魔術で返している。
故に使用した魔術の回数は、ジェイルの方が圧倒的に多い。燃費も最悪のはず。
今時、学生魔術士でも、もう少しマシな魔術戦を披露できるだろう。
「…………」
度重なる、違和感。
(ということは……だ)
先程からリッパーの頭の中で浮かんでいた、ある一つの仮説が、いよいよ確信へと変わってくる。
そして。
(なるほどなァ。どうやら一体一の魔術戦に限っていえば、俺にも勝ちの目は大いにあるらしい)
にやり、と。
リッパーは内心、ほくそ笑むのであった。




