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【挿絵多め】煌燈十二軍と供犠奇譚《サクリフィス・サーガ》  作者: HaiRu
第一部【フォルニカ公国篇】 第一章《奴隷少女》
26/73

第25話『ジェイル対リッパー 其の一』



 ――――。



 先に仕掛けたのはジェイルだ。



「《氷壁よ》ッ!」



 まるで抜刀するかのように、鋭く左手を(かざ)しながら呪文を唱える。

 選んだのは氷熱系【グレイス・ブロック】――先刻、リッパーの四肢を閉じ込めた、公国の三等軍用魔術だ。


 呪文を極限まで切り詰めた一節詠唱――さらに熱量の特異魔力体質者(フロート)だけあって、威力も範囲も並のそれとは段違い。

 今、呪文が完成し、巨大な氷柱がリッパーを呑み込もうとした――その刹那。



「――!?」



 リッパーが消えた。

 大地から突き出した氷柱はリッパーを捕えられず、虚しく残像を凍てつかせる。


 一体何処へ消えたのか。

 答えは直後に判明する。



「――おらァ!」



 突如、リッパーが後方から出現。

 空気を震わさんばかりの轟音を纏った回し蹴りが、ジェイルの頭部に放たれる。

 まともに食らえば即倒は免れないが――


「くッ!」


 寸前で反応したジェイルが、両腕を十字に組んで防御。

 体勢は崩れなかったが、靴底を削りながら十数メートル後方へ飛ばされる。


「まだまだいくぜェ?」


 続いて追い打ちをかけるかの如く。

 リッパーがジェイルに急接近。

 そのまま勢いを乗せた右ストレート、左貫手、三日月蹴り――リッパーの近接技の数々が、散弾銃のように襲いかかる。


「――ッ!」


 それら怒涛の猛攻を、ジェイルは――受けない。

 躱す、流す、受け止める――

 ジェイルはリッパーの攻撃を、流れるように(すんで)の所で(さば)き続ける。



「――はッ!」



 猛攻の間隙を盗み、ジェイルが針の糸を通すかのような水面蹴りを放つ。

 しかし、リッパーはそれを軽々と躱し、数メートル後方へ跳躍。

 互いに、再び睨み合う体勢となった。



「なるほど。身体能力強化の魔術【エンチャント・クロス】を使って、俺の魔術起動よりも速く背後に回ったのか」



 ジェイルは水面蹴りを終えたまま静かに残心。

 初手の差し合いを冷静に分析する。



 魔術は、呪文を詠唱しなければならない性質上、戦闘時には必ず数瞬の隙が生まれる。

 リッパーはその隙を突き、ジェイルに近接戦闘を仕掛けたのだった。



「やっぱやるなァ。魔術士は近接戦闘をサボりがちだと踏んでいたんだが」


 リッパーが腕をポキポキと鳴らす。


「普通の魔術士ならそうだろう」


 ジェイルはゆっくりと立ち上がり、軽く呼気を整えながら告げる。


「だけど今の煌燈十二軍は皆、先人たちから真っ先に、近接戦闘を叩き込まれたよ。

 たしかに優先度は低いが……魔術が使えなくなると、必ず足元をすくわれるからね」



 珍しくはあるが、魔術のような魔力由来の力を封じる手段も、一定数存在する。そのような相手に魔術のみで挑むとなれば、たちまち魔術士はただの凡夫に成り下がってしまう。


 あらゆる戦闘に通じ、様々な状況に対応できる質実剛健の猛者――煌燈十二軍はそのような人材でなければならないのだ。



「へっ、この俺と互角にやり合うとは流石だな。じゃあ次は、お待ちかねの魔術戦と行くかァ!」


 閑話休題。高らかに声を上げながら。


 リッパーは魔術を唱え始めるのであった――



 ――――。



「すごい……これが、魔術士の戦い……!」


 カレンは眼前の光景に息を呑んだ。

 今、目の前で二人の凄まじい魔術戦が繰り広げられている。


 リッパーが何事か呪文を唱えると、左手を伝って具現化させた魔術円陣から、一条の光が放たれる。


 高圧の雷を纏っているらしいその光は、ジェイルの頭部を貫かんと襲いかかるが――


 ジェイルは冷静に防御魔術を起動させ、生み出した障壁でそれを弾く。

 さらにお返しと言わんばかりに、【グレイス・ブロック】を起動。


 呪文に何かしらの改変を加えているらしく、身の丈ほどある巨大な氷柱は四つに分裂し、リッパーを四方から急襲する。


 しかし、リッパーの防御もまた金甌無欠。

 先刻見せた魔術――風衝系【ブレード・テンペスター】をすかさず起動させ、風刃で氷柱の尽くを掻き消す。


 先ほど、ジェイルが張った結界魔術のお陰で、カレンの元には余波一つ飛んでこない。

 しかし、その戦闘の緊迫感はひしひしと肌に伝わってくる。


 放たれる妙技の数々は、まるで神話に聞く神々の大戦のよう。

 その光景は一人の少女に、畏怖と憧憬を与える。

 躍動する戦場に、カレンはこれまでの恐怖すら忘れ、何かに憑かれたようにじっと眺めるのであった――



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