表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【挿絵多め】煌燈十二軍と供犠奇譚《サクリフィス・サーガ》  作者: HaiRu
第一部【フォルニカ公国篇】 第一章《奴隷少女》
22/73

第21話 『カレン=◼️◼️◼️◼️◼️ 其の三』



 ――――。



『◼️◼️◼️◼️◼️家――――かつては伝説的な魔術士を排出した名家だったが……平和()けしたのかなあ』


 どれくらいたったのだろうか。

 私の近くで、間の抜けた男の声が聞こえる。


 私はその声の主を見上げようとするが、顔を上げることができない。

 それどころか、うつ伏せになったまま、指一本動かせない。


『はあ……はあ……。あなたがあの悪魔達を呼び出したのですか』


 さらに近くで、母の声がした。

 初めて聞くような、低く震えた声で、母が男に問うている。

 その様子からは、滅多に見せない怒りの表情を察することができた。


『おや? 多少の抵抗は想定していたが、まさか生き残りがいたとは』


 くるり、と。(きびす)を返す音がする。


『その通り。あの悪魔達は僕の配下でね、こんな冴えない中年だが……これでも、世界最高の概念魔術士を自称しているよ』


 男は悠然とした口調で答えた。


『魔術士ですって!? どうしてここに……! いや、貴方のことなどどうでもいいッ! なぜ……なぜ◼️◼️◼️◼️◼️一族を襲ったのです!?』


 母は驚いた様子で、男に食いかかる。


『ふむ、代わり映えのない質問だね。その答えはただ一つ……我らが"大いなる主"のためだ』


『ッ……どういう……』


『我が主は強力な魂をご所望でね……その悲願を達成するためには、今の君たちはあまりにも脆弱だ。ということで、申し訳ないが間引かせてもらった。

 まあ、魂は輪廻の環を通り(・・・・・・・・・)再び現世へと巡って(・・・・・・・・・)くる(・・)。ちょうど畑を耕すのと同じさ。次の"周回"を期待させてもらうよ』


 一体、何を言っているのか。意味が分からなかった。

 しかし、ただ、どうしようもなく理不尽な理由で、私たちの家族は、同胞は、命を奪われたのだと悟った。


 私の心は絶望に支配される。


 しかし母は、周囲に漏れ出す魔力や気配から、どうしようもない憤怒を滲み出していることが、容易に想像できた。


『何を言っているのか分かりませんが、貴方は危険すぎます。この世界のために……これ以上、野放しにするにはいきません……!』


『私を殺すつもりかい? 確かに令束(イルバ)で悪魔達を退けたのは、賞賛に値する。だが同胞も皆殺され、誰一人守れなかった君が、これ以上戦っても不毛なだけだと思うがね?』


『ッ……まだ、終わってない……! 同胞(かぞく)はもういないけど……私たちの命は、魂は! この空と大地に繋がって、必ず誰かに受け継がれるのッ!』


 母が涙まじりに、鮮烈に叫ぶ。

 そして――


『――《輪廻に囚われし我らが主――地に落ち、神格を失ったとて、それでも我らを見守る、偉大なる神性――!』


 何か、まじないのような言葉を紡ぎ始めた。


『ほう……』


 男の声が一瞬強ばる。


『素晴らしい……! まさかこの時代で、◼️◼️◼️◼️◼️一族の秘奥を拝めるとは……実に半世紀ぶり(・・・・・)だ……』


 何のことを言っているのかは相変わらず分からない。

 しかし、なぜか喜んでいるような反応だった。


『おめでとう、君は合格だよ。ささやかなお礼として、私の真なる下僕をお見せしよう』


 男は不敵な声で、訳の分からない言葉を続ける。

 そうしている間にも、母のまじないのような言葉はどんどん紡がれていき――


『――希望は未だ途切れず――輝きは未だ見失わず――翡翠の大地にて魔を払う――深紅の巫女たちの寄辺となれ》――――ッ!』


 そう言い終わると。

 突然糸が切れたように。私の体が自由に動き、思わず顔を上げる。

 それと同時に、眼前では母と男の周囲に、大きな炎が現れた。

 炎は高速で渦を巻くように、母と男を包み込んでいって――


『ふははははははは! よろしい! 君の令束界域(イルバメルド)と僕の堕天使(・・・)、どちらが上か試そうじゃないか――』


 男の声を皮切りに、炎が完全に二人を覆う。


『お母さぁあああああああああ――――ん!』


 私は動かない体に鞭を打ち、腹の底から叫び声を上げた。


『……ッ! ……ごめんね……愛しているわ、カレン……どうか……』


 そして荒れ狂う炎嵐の中、最後にぽつりと呟く母の声が聞こえ……。

 次の瞬間、世界が白熱した――――



 ――――。



 その後の出来事は、特に語るようなことはない。

 再び目を覚まし、ようやく動いた体を起き上がらせたところ、そこに母と男の姿はなかった。

 それどころか、おびただしい血と死体の地獄だった草原が、砂と風の行き交う荒野となっていたのだ。


 家族も同胞もおらず、荒野には私一人だけ。

 結局、あの男は誰だったのだろうか。

 私の(からだ)から出てきたあの光は、一体何だったのだろうか。


 その後、行く宛てもなく野垂れ死のうとしていたところ、バラバ帝国という国からの奴隷商に捕まった。

 数年間連れられた後、ついに買い手が決まり、護衛役のリッパーという人物によって運ばれてきたのである。


 しかし、出荷の際に小耳に挟んだところ、買い手はどうやら連れてこられた国――フォルニカ公国出身ではないらしい。

 どういう訳か私のこの"力"を知っており、どこかロクでもない国で、ロクでもないことに使われるとまでは聞いた。

 まぁ、当時の私にとってはどうでもいいことだったのだが。


 そうして私は、まるで海の中をふわふわと漂っているかのように、連れ去られるがまま呆然と身を委ねてきた。


 自由になりたい気持ちも消えてなくなった。助けを求める気力もまるで浮かばなかった。

 死ぬことすら出来ず、心の中のありとあらゆる希望や願望が、泡粒のように消えていったのだ。


 一族を、家族を、そして何より、大好きだった母を失ったあの時に、私の中の大事な何かが、決定的に壊れたのだろう。

 このまま人形のようになってしまえば、苦しまずに済む――そう思っていた。

 

 あの人たち(ジェイルさん達)に会うまでは。

 見ず知らずの私を助けてくれたジェイルさん。

 異国の人間であるにも関わらず、温かい優しさで包み込んでくれたナターシャさん。

 あの二人が、氷のように固まった私の心をゆっくりと溶かしてくれた。

 何も無い私を、陽の当たる場所に連れ出そうとしてくれた。



 ジェイルさん……不思議な雰囲気の人だった。

 温かくて、それでいてどこか懐かしい。

 まるで、故郷の家族たちのように。

 公国中で困ってる人を助けているって聞いたけど、一体どうしてそんなことをしているんだろう。



 ああ――

 もし叶うのなら、この美しい国をもっと見てみたかった。

 もし叶うのなら……もっとジェイルさん(あの人)と一緒にいたかった。



 だけど…………もう…………



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ