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【挿絵多め】煌燈十二軍と供犠奇譚《サクリフィス・サーガ》  作者: HaiRu
第一部【フォルニカ公国篇】 第一章《奴隷少女》
19/73

第18話 『致命』



「いや〜〜~~、やっぱ魔術って便利なもンだよなァ」


 倒れ伏すジェイルと傍らで泣き叫ぶカレン。

 二人を尻目に、森の奥から一人の男が姿を現した。


「そこら辺に落ちてる木の枝なんかで、ここまで仕事が楽になるンだからよ、ッと」


 茂みを掻き分け、余裕綽々の様子で二人に近づいてくる。


「そんな……どうして……」


 男を見たカレンが愕然とした表情で、両手を口に当てた。

 なんと、先ほど爆発したはずのリッパーが、五体満足の状態でやってきたのだ。

 信じ難い事実に、恐怖が再び牙を剥く。


「……なるほど。錬成魔術と幻像魔術の応用、か……」


 そんな中、ジェイルが苦しそうに顔を上げ、眼前のリッパーを見据えた。


「ご名答。まずは、木の枝を錬成魔術で適当に加工する。次に、幻像魔術で見た目を化けさせて簡易召魔(サーヴァント)化させれば、遠くから操れる俺の駒に早変わりってわけだ。

 さらに魔導器なんかでカスタマイズすれば、視覚共有や発声、簡単な魔術も使えるッつーオマケ付きでな」


「……そうか。どうりで触れた時に、違和感を感じたわけだ……」


 付与(エンチャント)型の幻像魔術は、視覚や聴覚は欺けても、触覚までは欺けない。

 本物のリッパーから告げられた答え合わせに、ジェイルが苦い表情をする。

 出血は、依然止まらない。致命傷であることは、誰が見ても明らかだった。


 ジェイルは三つの大きなミスを犯した。

 一つ目は、とある理由(・・・・・)から、全力を出し切らずにリッパーと対峙したこと。

 二つ目は、内心リッパーに対して、自覚以上に憤りを感じ、冷静さを欠いていたこと。

 そして三つ目は――リッパーの魔術の腕を、想像以上に低く見積もっていたこと。


 木の枝を、魔術によって簡易召魔(サーヴァント)に加工する。

 言うは易しだが、それがどれほどの技巧によって成される魔術か。

 このリッパーという男。国外の出身と聞いていたが、魔術大国たるフォルニカ公国の中で比べても、間違いなくトップクラスの魔術士だろう。


 無論、ジェイルも魔術の腕には自信がある。

 平時の状態なら、木の枝などにかけられた幻像魔術にも、容易く気付くことができたはずだ。


 平時ならば。


(まさか、こんな簡単な(トラップ)に気付かないとは……。くそ、俺も冷静さを欠いていたのか……)


 油断をしていた訳でも、舐めていた訳でもない。ただ、あらゆる要素が噛み合った結果、ジェイルは為す術なくやられた。

 それだけだ。


「さァて、そんじゃあそろそろ(とど)めといくか」


(……く……まずいな……だが……)


 出血により薄れゆく意識の中、ジェイルが歯噛みする。

 だが、このまま無様に気を失うわけにはいかない。自分が倒れれば、一体誰がこの少女を救えるというのか。


「ぐ……ぉお……ッ! 《天憑(てんひょう)の導きあれ》ッ……」


 舌を噛み切り、かろうじて意識を保ち、治癒系【アーリー・ヒール】で止血をするジェイル。

 重々しく体を持ち上げ、どうにか立ち上がる。


「……はぁ……はぁ……」


「ほう? 【ブラインド・アロー】で胸を貫かれたのに、まだ立ち上がるとは驚いたなァ。心臓は外してたか」


 ジェイルの姿はまさに満身創痍。指で小突けば再び倒れてしまいそうだ。


「ジェイルさん……もう……」


 悲痛な表情で見つめるカレンの目尻からは、涙がボロボロと零れていた。


「大丈夫だカレン……君は必ず、俺が守ってみせる……!」


 最早、執念とも見えるその気迫は、いったい何処から来るのか。

 次の瞬間、ジェイルの姿がその場からゆらりと消えた。

 鋭く踏み込みながら、リッパーの側方に回り込む。そして、懐から短剣の魔導器を取り出し、切っ先をリッパーの首に正確に向けた。


「!」


 その間、コンマ数秒。

 カレンの目からは凄まじい速さ。

 だが。リッパーの目からは――遅すぎる。


「醜いなァ」



 パキィイイイイイイン――



 一体、何が起こったのか。

 まるで細氷の散るが如く。

 次の瞬間には、短剣の魔導器は粉々に砕けて――

 ジェイルは、リッパーの後方に大きく弾き飛ばされていた。


「がッ――」


 派手にバウンドしながら。大地を二度、三度。

 ジェイルの身体が、盛大に叩き付けられる。

 そして、ぐしゃあと。

 脱力しきった状態で倒れ伏し、今度こそ動かなくなるのであった。


「ジェ、ジェイルさん――――ッ!」


 最早、生きているのかどうかすら怪しいが、ジェイルの元へ駆け寄ろうと、カレンが走り出す。

 だが、そんなカレンの前に、リッパーが立ち塞がった。


「おいクソガキ。これ以上、手間かけさせやがんじゃねェ」


 刹那。

 カレンが上空へ激しく吹き飛ばされる。


「きゃああああああああああ――――ッ!」


 同じく派手にバウンドしたカレンは、ジェイルが倒れ伏す傍らで停止した。


「ったく、バカかテメェは。何の仕込みもないまま、本体()が出てくるわけねェだろ」


 リッパーは、倒れているジェイルを流し見て、ひやりと言い放つ。

 見ると、リッパーの周囲にはビュオオオと、荒れ狂う暴風が駆け抜けている。

 それはちょうど鎧のように、リッパーの身体を包み込んでいた。


「風衝系【ブラインド・アーチ】だ。悪いな、二等(・・)軍用魔術も使えるんだわ、俺」



 風衝系【ブラインド・アーチ】――【ブラインド・アロー】を何層も重ねることによって、攻防一体を可能としたフォルニカ公国の二等軍用魔術。

 近、中距離では無類の強さを誇り、威力も持続も三等のそれをはるかに上回る攻性魔術だ。

 本来ならば十節近くの詠唱が必要だが、リッパーは予め詠唱して仕込み、時間差で起動させたのだった。



「ぅうう……。ッ!? ジェイルさん! ジェイルさん!」


 吹き飛ばされたカレンは、隣で倒れているジェイルに気づく。

 必死に呼びかけるが、返事はない。

 リッパーの魔術によって全身を切り刻まれ、ぐったりとしていた。

 

「ありゃりゃ、もう死んじまったか? 手加減したとはいえ、二等軍用魔術だからな」


 リッパーが拍子抜けしたような顔をする。

 

「大体、魔装束(シュレーゼ)も着ねェ、攻性魔術(アサルト・スペル)も使わねェ……そんなんで俺に勝てるわけないだろ? 何の舐めプだよ。それとも何だ、使えねェ理由があったとかか?」


 リッパーは頭を搔きながら、続けざまに舌をまくしたてた。

 大陸に名高い公国の魔術士が、この程度の実力だったことに、肩透かしを食らった気分だったようだ。


「まあ、いずれにせよ、これで依頼は達成だ。後は明日の朝にガキを引き渡せば、大金が手に入るっと……あぁん?」


 もう一度、ジェイルたちの方を振り返ったリッパーは目を細める。

 ジェイルに抱きつきながら泣き叫ぶカレンが、微かに光っているのだ。

 その光は幾重も重なった糸のように伸び、ジェイルを包み込んでいるように見えた。


「おい、何してやがんだガキ――」


 訝しんだリッパーが、カレンに問おうとした――その瞬間。



 バリバリバリバリ――――――ッ!



 鳴り響く雷鳴の音と共に。

 まるでレーザーのような極太の紫電が、突如としてリッパーの方へ飛んできた。


「――ッ!? 《障壁よ》ッ!」


 青天の霹靂に辛うじて反応したリッパーは、防御系【オリジン・シールド】を唱える。

 ガガガガガッ! という音を放ちながら、魔力障壁と紫電がぶつかり合う。


「ぐ……おおおおおおおお――ッ!」


 紫電の衝撃に押し切られたリッパーが、後方に吹き飛んだ。

 靴底を削られながらも、紫の稲妻の出処を突き止めようと睨みつける。しかし、飛んできた方向には樹木が生い茂るだけで何も無い。


「ち……あの角狼(犬っころ)の中に、まだデカい個体(やつ)が生きてやがったのか? おいガキ! 着いて来い!」


 面倒事はご免とばかりに、リッパーはカレンの首元を掴み、この場から離脱しようとする。

 カレンは、ジェイルにうつ伏せになるように抱きついていたが、なぜか、特に抵抗することも無くリッパーに引き離される。


「あん?」


 身体をだらん、と脱力させたまま、あっけなくリッパーに連れられるカレン。

 リッパーは、あまりの無抵抗さに違和感を感じながらも、森の奥へと消え去ってゆく。


 そのまま……しばしの静寂が過ぎて。

 後には、未だに身体をピクリとも動かずに倒れ伏す、ジェイルの姿が残るのみであった。



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