第15話 『接触』
――――。
――舞台はハラル大森林の入り口近くへと移る。
生い茂る木々の中で、ジェイルは角狼との交戦を続けていた。
「――はッ!」
ジェイルの振り抜いた短剣の魔導器が、角狼の角を根元から正確無比に断つ。
「ふう……これでやっと十本目だ」
角狼が逃げ去ったのを確認すると、角を回収。圧縮凍結の魔術を施し、ポーチに入れる。
「よっと、さすがに疲れたな……」
ジェイルはくたびれた様子で、近くの木の幹に腰掛けた。
「これでナターシャさんからの依頼は完了、っと。手がかりが無かったのは痛いけど、一旦引き返すしかないか」
短剣の魔導器の状態を確認しながら、そんなことを呟いていると。
――ぐぅ。
ジェイルのお腹が盛大に鳴り響いた。
「おっとと。そういえば、お昼にお腹を空かせたまま、ずっと動いていたな」
苦笑しながら、緑の葉で覆われた包みを、ポーチから取り出す。
昼間にイーンの街で、カイナから貰った弁当だ。
「どれ、いただくとしよう」
包みを解き、中にある白い塊――おむすびを口に入れる。
「むぐ……。これはうまい……!」
ジェイルは思わず声を漏らした。
極東の国ヤハムを中心に、レヴェナ大陸東部で食されている米。塩気の感じるそれにかぶりつくと、中からごろっとした肉の塊が出てくる。肉は燻製にしてあるらしく、またハーブや香辛料が効いており、鼻腔を通る風味はまるで草原の真ん中に立っているような、清々しい感覚だった。
(米も肉も違う文化の味付けなのに、ここまで合うなんて。それにどうしてだろう、どこか懐かしい味だな……)
あのカイナという老人も、国外からやってきた移民なのだろうか……。
そんなことを考えながら、ジェイルは食べ進め、入っていた二つのおむすびを瞬く間に完食した。
「ふう。ごちそうさま」
満足気に微笑みながら、ジェイルは立ち上がる。
「さて、そろそろ引き返すか」
そしてくるりと踵を返し、森から出ようとした――その時だ。
「ん?」
ハラル大森林とイーンの街へ続く街道との境目――ちょうど大木の生え始めの辺りに、一人の少女がいた。ボロボロの服を着ており、煉瓦色の長い髪をしている。
間違いない。
「カレン!? どうしてここに――」
予想外の少女にジェイルは声を上げ、傍に駆け寄ろうとする。
「……ジェイル……さん……?」
カレンもジェイルの存在に気づいたようで。驚いて目を見開く。
しかし、その顔は青ざめており――彼女が発したのは、意外な言葉だった。
「だめッ! 逃げてください!」
「!」
その瞬間。
ジェイルはピタリと足を止め、カレンから五メートルほど離れたところで停止する。
カレンの警告を耳にしたからか。
否。
カレンの背後から放たれている、強大な存在感を感じ取ったからだ。
「……ほゥ、こいつはいい。まさか、わざわざ標的の方から姿を見せてくれるなんてなァ」
深淵を思わせる、暗く残酷な声と共に。
その男は姿を現した。
ジャケットのような魔装束を見に纏った、ボサボサの銀髪が特徴的なチンピラ風の男だった。




