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【挿絵多め】煌燈十二軍と供犠奇譚《サクリフィス・サーガ》  作者: HaiRu
第一部【フォルニカ公国篇】 第一章《奴隷少女》
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第11話 『戦闘』



 時刻は戻る。


『グルァアアアアアア――ッ!』


 ハラル大森林、入口から少し外れた樹海の中にて。


 角狼(ホーンガル)はジェイルに突進を開始した。

 魔獣の中でも上位に君臨するそれは、あらゆるものを蹂躙(じゅうりん)し、引き裂き、食い千切る。

 角狼(ホーンガル)に狙われたら一巻の終わり。あとは裂かれて捕食されるのを待つのみである。


 終わりなのだが。


 その突進は――ジェイルを捉えられなかった。


「ふっ――!」


 ジェイルは突き立てる角狼(ホーンガル)の大爪を寸前で躱し、左後方に跳躍。

 そのまま、大木の枝に静かに着地した。


『ガァアアアアアアア!』


 それに追随するかの(ごと)く、角狼(ホーンガル)は着地した枝に向かって飛びかかる。

 足をバネのようにしならせ、重力に逆らい、恐るべき速度で直進する様は、さながら弾丸。


「っ――! 流石に呪文を唱える暇はもらえないか。だったら――」


 ジェイルは腰に掛けたポーチから、白の魔晶石を取り出し、角狼(ホーンガル)に投げつけた。


 か――!


 それは、飛びかかってくる角狼(ホーンガル)の鼻先で鋭く発光し、視界を突き刺す。


 魔晶石――魔力と親和性の高い鉱石を加工した小型の魔導器だ。

 小型ゆえに大した威力は出ず、効果も規格化されたものに過ぎないが、呪文の詠唱なしで使用できる優位性から、重宝する魔術士は多い。


『ギャウ!?』


 眩いばかりの閃光に、角狼(ホーンガル)は堪らず仰け反って地面に着地する。


 その、一瞬の隙に。


「《戦神(せんじん)の加護・偉力の壮士(そうし)・光の守護を解放せよ》」



 ジェイルが矢継ぎ早に呪文を唱えた。

 付呪系【エンチャント・クロス】――使用者の肉体、精神、魂を強化する補助魔術だ。

 単純な身体強化だけでなく、精神攻撃などの耐性も上昇する汎用性の高さから、公国の魔術士たちに好んで使用される。



『グルルル……グルァアアアアアア――ッ!』


 視界が回復した角狼(ホーンガル)が、再び地を蹴って突進を再開する。

 恐るべきスピードで、ジェイルを引き裂こうと跳躍する。

 その大爪を立てながら、枝先にいるジェイルに迫る、迫る、迫る――

 そして、その爪がジェイルに届こうとした、次の瞬間。


 ヒュン――


 ジェイルが霞のように消え、角狼(ホーンガル)の大爪は空を切った。


「!?」


 一瞬、何が起こったか分からずに硬直する角狼(ホーンガル)


 直後。


 いつの間に回り込んだのか。

 ジェイルが角狼(ホーンガル)の背後に現れ、空中から回し蹴りを横一文字に放つ。


『ギャウ!?』


 死角からの一撃。さしもの角狼(ホーンガル)も反応できず、横っ飛びで地面に打ち付けられ――


角狼(ホーンガル)。君たちがこの樹海を縄張りにしているおかげで、公国は他国の侵攻から守られている。だから君たちを殺したりはしない。だけど……その角だけは頂くよ」


 地面に着地したジェイルが、悠然と構えながら言った。


『ヴヴゥゥゥ……』


 当然、ジェイルの言葉は通じていないが、角狼(ホーンガル)はそれを挑発と捉えたらしい。

 何やら低い体勢を取り、唸り声を上げる。

 すると、漆黒の体表から紫電(しでん)がバチバチと帯電し始めた。全身に纏った雷は、そのまま角へと集中していき――


『グルァアアアアアアアア――ッ!』


 刹那――角から膨大な雷撃が放たれた。

 紫の稲妻は蜘蛛の巣状に広がっていき、周囲に無差別に襲いかかる。

 そして幾重にも重なり、収束するような軌道でジェイルに向かっていくが――


「《原始の障壁よ》」


 ジェイルは冷静に、防御系【オリジン・シールド】を起動。

 半透明なスクリーン状の魔力の盾が、雷撃を見事に打ち消した。


『グル!? ガァアアアア!』


 自慢の雷撃を防がれた角狼(ホーンガル)は一瞬、狼狽(うろた)えるように低く(うめ)くが――

 直ぐに怒りの咆哮を上げながら突進する。


「――《磔刑(たっけい)光輪(こうりん)よ》」


 自身に向かって猛スピードで駆ける角狼(ホーンガル)を前に、ジェイルは冷静に呪文を唱える。

 角狼(ホーンガル)はそれを意に介さず、多少の攻撃を受けてでも、一撃を与えてやろうと猛進する。


 そのままジェイルに迫って、迫って、迫って――

 巨大な角が、ジェイルを体を貫かんとした――その時だ。



 パァァァァァ――


 ヒュン! ヒュン! ヒュン!



 突如、角狼(ホーンガル)の足元から魔術円陣が展開。そこから光の輪が三つ飛び出し、角狼(ホーンガル)の口、前足、後ろ足を(くく)りつける。


『ギャウ!?』


 捕縛系【リストリクション・リング】――指定した空間の座標に仕込み、対象を光の輪で拘束する。条件式で起動させる(トラップ)魔術だ。

 さしもの角狼(ホーンガル)も両足を括られては為す術なく、地面にドサリと()(つくば)り――


「ふ――」


 直後。ジェイルが角狼(ホーンガル)の側方にするりと入り込む。

 そして、ポーチの中から短剣の魔導器を取り出し――


「――はッ!」


 一刀両断。


 鋭く放たれた縦一閃は、鋼鉄より硬い立派な角を、根元から綺麗に落とした。

 ジェイルはそのまま角を回収し、魔術で凍結圧縮。小枝ほどのサイズになった角をポーチに入れ、後方へ跳躍する。


「よし……これで目当てのものは手に入った。すまなかったね、縄張りにおかえり」


 そう言って【リストリクション・リング】の拘束を解除。角狼(ホーンガル)を解放する。


『グルルル……キャインキャイン!』


 自慢の角を折られ、戦意喪失したのか。

 角狼(ホーンガル)は子犬のような声を上げながら、文字通りしっぽを巻いて、森の奥へと逃げていった。


 一人前の魔術士でも討伐に苦戦する角狼(ホーンガル)を、あろうことか攻性魔術を一切使わずに制圧する。

 そんな偉業を軽々と成し遂げたジェイルの顔に、勝利の余韻は一切なく――


「ふぅ……これをあと九回も繰り返すのか……大変だな。ナターシャさんも人使いが荒いよ、まったく……」


 間の抜けた表情で、盛大にため息をついていた。

 そんなジェイルの頭に、ふと疑問が思い浮かぶ。


「だけど、おかしいな。角狼(ホーンガル)はもっと奥地を住処にしているはず……。なんでこんな浅い場所にいたんだ?」


 角狼(ホーンガル)は、広大なハラル大森林の中心部に巣を構えている。本来ならば、こんな入り口近くにいるはずがない。


「まあ、もっと奥に行ってみればわかるか」


 そう言って、森の奥――本来の角狼(ホーンガル)の住処へと向かおうとすると。



 バリバリバリ――ッ!



 側方から盛大な雷鳴が鳴り響いた。


「!」


 驚いて振り向くと、かなり先――ジェイルが森に入った所とは反対の方向で、紫の光が激しく明滅する。


「今のは……角狼(ホーンガル)の紫電!? まさか、まだ他にも!」


 ただならぬ気配を感じ、ジェイルは音と光のした方へ走り出した。



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