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第8話 初陣

 デルタ達は岩の上に胡坐をかいて座る全身黒ずくめの青年に止められていた。彼が言うには『今、神殿に突入するのは危ない』ということだそうだ。

 しかし調査に来た身としては『はいそうですかじゃあ帰ります』とはいかない訳で……


「あの……何故危険なのでしょうか? それとあなた方は何者ですか?」


 リナが丁寧に質問していく。


「んじゃ先に後の質問から。ズバリ、オレ達は盗賊団だ。宝求めて、西へ東へ駆け回る。安心しな。アンタらの所有物を盗るつもりは毛頭無ぇから」


 岩の上の青年は姿勢を胡坐から片膝を立てるスタイルに変更した。


「今日はある人からこの神殿の中にあるお宝を取って来るように言われたんだけどな。チャチャッと終わらせて帰るつもりが……今この神殿の中は通常の何倍もの数の不死族が跋扈している。見ての通りオレ達は七人だけど、それでも全然太刀打ちできなかったぜ……。まさしく数の暴力ってヤツだ。いくら手練れの冒険者でも、二人組じゃあ死一択だぜ」

「……その依頼人の方と魔物の分布をもう少し詳しくお話してくださらないでしょうか?」

「依頼人のことは何一つ教えられねぇ。盗って来た物を何に使うかも見当が付かねぇ。ただ、『嘆亡の神殿』の奥地にそんな『お宝』があった覚えがなくてな。ちょっとばかし首を傾げたな。魔物の分布だが、このダンジョンは地下六階層で深いとこに行けば行くほど魔物の数が増えてった。んで、やっとこさ最深部に行ったと思ったら何も無ぇし。俺達ももう引き上げる。アンタらも早いとこ帰んな」


 青年はそう言って岩から飛び降りた。職に合った、軽い身のこなしだ。そして仲間を連れてその場を後にしようとした。


「いえ。私たちは行きますよ。私にはここを調査するという使命があるので」


 リナの一言で青年は足を止めた。そして顎があるであろう場所をバンダナ越しに撫でながら呟いた。


「へぇ…………面白そうだねぇ……」


 青年は妖しく目を細めた。

 デルタは青年がついて来ることを期待したが、「俺はこの事をギルドの受付に言いに行く」と言い、そのまま部下を引き連れて去って行った。

 青年らが去ったのを確認して、デルタはもう一度、神殿内の様子の確認を取った。


「既にとんでもない異変が起きてるみたいだね」

「そのようですね……。しかしいくら危険と言われようが平気ですよ。あの十字架のネックレスがありますから、魔物との遭遇率は低い筈ですし、デルタさんがその武器を使用しているところも見てみたいです」


 デルタの武器は腰から提げられている。これもまたネックレス同様にベルトに紐で括り付けてあった。


「では……行きましょうか。目指すは最深部です。恐らく……先程の盗賊の方が狙っていた『お宝』はスツェッテン村長が仰っていた『異変』と関係があると思われます」

「え? どんな関係が? というかお宝って無いんじゃないの?」

「……いえ。推測を今口にすべきではないですね」


 リナは何かを思い悩むような素振りを見せたが、そのまま神殿へ最初の一歩を踏み入れた。置いて行かれないようにデルタもついて行く。

 ランプの光を点け、神殿の中をゆっくりと、一歩ずつ、着実に、確実に進んで行く。


「まだ入ったばかりですが……気を抜かずに行きましょう。ネックレスのお陰で魔物との遭遇率は低くなるとは言いましたが、ゼロにはなりません」

「そう言えばさ、リナってどんな武器を使うの? 今までの発言を聞いてると一応戦えるみたいだけど……」

「私は――」


 いつも通りのテンションで答えてくれようとした時、リナの表情が変わった。一気に空気がピリつく。


「来ますよ! 構えて!」


 リナは手にしていた二冊の本のうち、分厚い方を胸の前で開いた。どうやら魔導書のようだ。が、そんな呑気な事を考えている暇は無い。

 闇に包まれた進行方向から迫って来る禍々しい気配に殺意と刺すような視線を向けて警戒する。

 暗闇から現れたのはデルタ達より背の低い小さな骸骨型の魔物だった。スツェッテン達と同じ種族だろうか。手にはその体格に見合わない剣を地に引きずり、同じくらい大きい盾を携えている。

 その型の魔物が数にして六体。デルタ達の三倍の数いる。


「多い……でも……やらないと……。僕の技量を信じて……!」

「あの敵は『スケルトンソルジャー』ですね。あまり強くないですが数の差で圧倒されないように気を付けましょう」


 師の受け売りの言葉を自分に言い聞かせ、腰から提げていたその武器を手に取り、構えた。撃方法は弓に似ている。但し、威力は段違い。

 デルタは腰に付けていた武器を取り出した。筒形の、弓に似た遠距離型の武器。但し、威力は段違いだ。


 『引き金(トリガー)』というパーツが付いていて、文字通りそこを指で引くと筒の先端から弾が出る。設計図に書かれていたその武器の名前は『銃』だ。つい先日、完成させたばかり。


「面白い武器ですね。見たことがありません」

「僕も設計図を見た時は度肝を抜かれたよ。試しに作ってみたけど……正直……これは危険すぎると思う。僕みたいに鍛えて無い人でも簡単に扱える。盗まれたら大変だから紐でベルト通しに固定してあるんだ」


 デルタはこの武器を師匠の形見だと思うことにした。他人の手に渡したくない理由はそうした武器イコール師匠そのものだと考えたからという理由もある。その方が一層大事に出来るだろう。


「……よし」


 銃口を一体の骸骨に向ける。相手はデルタが持っているものが何か分からないだろうし、どうなるかも分かっていないようだ。

 緊張と興奮で手が震える。そうしている間にもゆっくりと骸骨がデルタを殺そうと近付いてくる。

 筒の横に小さなツマミがある。ダイアルのようになっていて弾の性質を変えることが出来る。弾に任意の属性を付与することが出来るのだ。それに合わせて、銃身の両サイドに入っている線の色も変化する。


――エレメントバレット


 エレメントバレットはこの武器最大の特徴。高威力の魔力の(弾丸)を、任意の属性を付与した上で放つことが出来る。その威力はどんな武器よりも高く、速さは弓矢を凌ぎ、如何なる素材で作られた装甲も破壊する。

 しっかりと骸骨の頭部に照準を合わせて引き金を引いた。


――煌魔(こうま)弾!


 銃口から轟音と共に飛び出した弾は、明るく光っている。矢より早く、太刀筋より鋭く空を斬り、骸骨の妖しく紫に光る右目を射抜いた。

 右目を射抜かれた骸骨は音もたてずに藻掻いた後、膝から崩れ落ち、動かなくなった。盾にはめ込まれていた小さな宝石だけを残して、塵となって消えた。


「わぁ! とんでもない威力ですね」


 リナは目を丸くしている。

 続いてもう一体にも照準を向けたが、デルタはあることを思い出し、引き金に込める指の力が弱まった。


「リロード無しだと六発までしか撃てないんだった……。まだ弾倉は一つしか作っていない……」

「デルタさん危ないです!」


 ボーッとしていたようで、リナの声で我に返るとともに正面から剣が振り下ろされていることに気付いた。

 剣を銃の側面で受けると、鈍い音を立てた。銃身を両手で支えているが、力が弱いデルタは押し負けてしまう。


「援護します! 燃えよ!」 


――ギアニア・フレイム


 炎の礫がスケルトンソルジャーの身体に直撃し、その身が吹き飛ぶ。すぐに塵となって消えてしまった。


「残りも始末しますよ!」


 リナは大きく目を見開くと先ほどよりも広範囲の炎魔法を飛ばした。火球が爆ぜ、スケルトンソルジャーを一網打尽にする。とてつもない威力だ。

 本当に戦っていたのかと思う程、静かになった。殆ど何も出来なかったが、戦闘とはこんなに疲れるものなのかとデルタは感じた。いい加減運動しよう。せめて長時間動ける体力が欲しい。


「お疲れ様です」

「リナもお疲れ。僕より大勢の相手してたし疲れたでしょ? やっぱり少し武器を改良しないと……」

「仕組みはどのようになっているのですか?」

「これは魔力の塊を濃縮して攻撃するんだけど……。このタンクみたいな場所に魔力を注がないといけなんだ」

「そういうことでしたら私が、戦闘が終了するたびに補充しましょうか? 昔『魔力過多』でお医者様に診て貰ったことがあるのでそれには自信があるんですよ」


 『魔力過多』は確率にして一〇〇〇人に一人ほどだっただろうか。文字通り、体内の魔力が多すぎるという先天的な特異体質。魔力暴走という体内の魔力が多すぎることによってそれを抑えるリミッターが解除されてしまう現象が起こること以外に危険な点は無い。

 一族から嫌われていたリナをわざわざ医者に診せたのは誰だろうか、とデルタは疑問に思った。流石に魔力暴走で暴れられたら堪らないからなのだろうか。


「というかやらせてください! 魔力のガス抜きにもなるので……」

「じゃあお願いしようかな。辛かったら言ってね」


 魔力過多にはさらに大量の魔力を溜め込んでいる『魔力超過多』の人もいる。しかしそちらは一億人に一人ほどの確率と言われている。


 デルタは弾倉を取り外し、リナに渡した。彼女に魔力の注入の仕方を教えると手際よくこなしてくれた。呑み込みの早さは流石学者だと感心した。


「はい。これでどうでしょうか?」

「ありがとう。これで大丈夫だよ」

「しかし……魔力の一厘も減った気がしませんね」


 厘。割分厘の厘。つまり0.1パーセントだ。


「では、収入源となる戦利品を頂いて先に進みましょう。なるべく離れないで行きますよ」


 デルタ達はしっかりとスケルトンソルジャーが落としたモノを頂き、再び最深部へ向けて歩を進めて行った。


「敵襲です!」


 敵襲、敵襲、また敵襲…………何度も戦闘を重ねながら。奥に行くにつれ、瘴気が増してしていくのを肌で感じられた。足がすくみ、産毛が逆立つが、もう引き返すことは出来ない。

 付け焼き刃の覚悟で進む先に、一体何を見るのだろうか。


ここまで読んで頂き、ありがとうございます。

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