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第7話 いざ、隣町へ

 翌朝、デルタが目覚めると目の前に真っ白な布が広がっていた。そして顔を上げると、そこにはリナの目を瞑った顔があった。

 デルタは色々な意味で心臓が止まるかと思った。まずは状況を整理する為、昨日の出来事を一つずつ確認してみる。


「確か間違えて『飲んじゃって』酔い潰れたリナをベッドに運んでそれからクラクラッと来て……それからだ。僕、そのまま寝た?」


 自分の行動を顧みるととんでもないことをしていたと気付いた。昨日リナが忍ばせた鍵もまだ返していない。

 どうやらリナもまだ寝ているようだ。デルタは部屋の机の上に鍵を置いて、物音を立てないようにこっそり部屋を後にした。

 デルタはドアを閉じてすぐに、その扉に背を預けた。昨日の夜、リナがうなされるように言った『置いて行かないで』という言葉が胸に刺さって抜けなくなっていた。


 気分転換に今朝は朝食を自分が作ってみることにした。リナは見たところアレルギーも持っていなさそうだ。そうは言ってもデルタも簡単なスープやトーストしか作れない。食うに困るほど不味いということもないので問題は無い。


 少なくとも、本人はそう自負している。


 台所に立って色々な調理器具を出し、食材の保存箱の中に入った袋詰めされたパンやスープの素を用意し、早速取り掛かる。エプロンは着けないが、気分はそんな感じだ。

 過去にパーティーのメンバーに料理を振舞った際は味が普通過ぎるという評価を受けた。


「ふわぁ……おはよーございまふ……。良い匂いが漂って来たので起きてきたのですが」


 丁度、朝食が仕上がったタイミングで、寝ぼけたリナが目を擦りながら寝室から出て来た。


「……昨晩は色々と申し訳ありませんでした。何から謝ればいいのやら……」

「気にしないでよ。それより今日の朝食は僕が作るから」

「あ……すみません……」

「同居人同士、お互いの食事を用意するのは当然のことだよ」


 朝食を摂って眠気が吹き飛んだのか、リナは意気揚々と出発の準備を整えていた。どこに行くのかと問われれば、それは『嘆亡の神殿』である。


「今日は『嘆亡の神殿』の調査ですよ! 場所は隣町のクロスメディアです! 張り切って行きましょう!」


 リナは分厚い辞書のような本と薄いメモ帳のようなものを手にしていた。


「ほ、ホントに行くの?」

「当然です! あそこは調べ甲斐がありそうですから」


 リナの目は輝きに満ちていた。先日『不死族の研究を自ら進んでしている訳では無い』と言っていたのは嘘だったのだろうか。


「ああは言いましたが、やはり学者と云うのは好奇心を抑えきれないのです」


 最低限の用意をして、家を出る。そして、馬車を拾い隣町へ向かう。


 馬車の揺れは心地よく、流れゆく景色も相まって気を抜いたら眠ってしまいそうだ。


「リナって万が一魔物とかに襲われたらどうやって戦うの?」

「私は少しばかりですが魔法を心得ています。デルタさんは……あの、こう訊くと失礼だとは思うのですが、どうやって戦うのですか?」

「僕の武器は使う時になったら見せるよ」


 そこでこの話題は切り上げ、到着までに他にも色々と話をする。デルタは会話を重ねる度にリナのことを深く知ることが出来る気がした。一見凛としているように見えて、自分の話すことに合わせてコロコロと変わる表情は、デルタも話していて飽きない。

 何より、他人と会話をすることをここまで楽しく感じたのは、いつ振りなのか、見当も付かない。


「そろそろ着きますね」


 窓を覗くと外の景色が変わっていた。今は小高い丘の上にいるが下を見下ろすような形で街の全貌を望めた。

 中心に大きな噴水広場があり、そこから蜘蛛の巣状に道が広がっていて、まさしく都市と言った感じだった。


「へぇ……ここがクロスメディア……」

「ええ。この国の経済の中心地ですね。私達が住んでいるハデンと比べて人口は十倍ほどいるそうですよ」

「じゅ、じゅうばい⁈ ゼロが一つ増えるんだ……」


 馬車を降り、賃金を払う。新たに降り立った街は今までの見てきた街よりもよっぽど賑わっていて、リナとピッタリくっついていないとはぐれてしまいそうな程だった。三秒に一回は目の前を馬車が通る。


「常に前後左右意識を遣らないといけないから目が回るなぁ……」

「そうですね。ですが……ここからはさらに混む場所に向かいますよ」

「それって通学路?」

「いえ。クエストの受付所がある場所です」


 即ち冒険者のギルドである。デルタは行きたくないと思い、歩みが弱くなった。


「ほら、行きますよ。進まないと駄目です」


 そんなデルタのことはお構いなしに、リナは思い切り手を引いた。デルタは街を引きずり回されて、馬車に轢かれそうになり、やっとの思いでその場所に着いた。


「何で……ここに来る必要があるの?」

「ダンジョンの調査にはギルド連盟の許可が必要なのです。無断での調査は禁じられていますので」


 ギルド連盟とは国内中のギルドを統べている協会のことで、進入禁止区域などの判別も行っている。一般人を危険に晒したりしないようにするのも役目だ。


 中に入ると、いかつい剣やどのような仕組みで動くのか見当も付かないような杖を持った人々の一部がこちらに視線を向けてきた。

 それは果てしなく長い時間に感じられたが、冒険者はすぐに興味を無くして視線を戻し、仲間達との会話に戻った。


「では、受付にて許可を頂こうと思うので……」

「受付の人に言うだけで良いの?」

「はい。名を言えば細かい処理は全て向こうで行ってくださるので。私は偽名で登録しているので問題ないです。わざわざ戸籍を確認する程の機関でもありませんし」

「へぇ……知らなかったな」


 手続きをするというので暫く待っていろと言われた。デルタは自分でもみっともないと思ったが嫌だと駄々を捏ねた。しかしリナは聞く耳を持ってくれなかった。

 嫌な予感がする中、受付所のエントランスにあるベンチに腰かけていた。


「はぁ……ここの空気はいつ来ても慣れないなぁ……」


 ただでさえ場違いだと思っていたのに追い打ちをかけるように先日の追放の件。デルタにとって冒険者達が嫌いというより怖い。自分が萎んでいくような気がして。

 それからどのくらい経った時だろうか。リナが手続きを済ませて戻って来た。


「大変お待たせしまし――って大丈夫ですか⁈」


 どうやらデルタは気を失っていたようでその時間は三分間とのこと。リナは半分申し訳なさそうに、半分呆れたようにデルタの肩を揺すり、正気に戻してくれた。


「まさかここまで慣れないとは……」

「いや……一番怖かったのは追い出されたパーティのメンバーと出くわすことだよ……」

「わざわざ隣町まで出向くでしょうか? 元は私達の住むハデンが活動区域では無いのですか?」

「僕がいなくなって心機一転! とか、僕が重荷になってたせいで、これまでには行けなかった場所に足を延ばしてる可能性が高いからね。実際、もう少し活動範囲を広げたいって話してるの聞いたことあるし」

「しかし、仮に出くわしても何か言って来るとは思えません。大体、向こうは知り合いだと思われたくないでしょうし」


 デルタは慰められているのだか貶されているのだか分からないことを言われた。


「さ、とっとと出ましょう。許可は取りましたから。次に目指すは『嘆亡の神殿』ですよ。どうやら今日は……というよりここ最近は空いているそうです」

「へぇ……やっぱりスツェッテンが言ってた『異変』と関係あるのかな?」

「それを調べるのが学者のお仕事ですよ」


 こうしてデルタ達は『嘆亡の神殿』へ向けて出発した。デルタは受付所を出る際に見知った顔とすれ違った気がしたが、怖くて振り向くことが出来なかった。


 嘆亡の神殿までは馬車と徒歩で一刻間。しっかりと舗装された道のある森の奥地に存在した。暫く森を駆け抜けると、視界が開き、禍々しい雰囲気が神聖な古代遺跡が姿を現した。外見や柱はボロボロ。倒れていたり欠けていたりしている。ツタも絡まり、その歴史を感じさせる。

 周辺にも人は殆どいない。


「少々恐ろしいですが……行きましょう」

「うん」


 神殿内での灯りは勿論デルタが担当する。電気で動くランプでダンジョンに入るのは初めてだ。

 神殿に入るための一歩を踏み出そうとした時、不意に声を掛けられた。


「ちょっと待ちな。今突っ込むのは危険だぜ」


 声がした方を向くと大岩の上に座っている青年の姿を捉えた。随分と軽装で、口元は派手な柄のバンダナで覆っている。大岩の近くにはシルエットの大きな男たちも座っている。外見のせいか大岩の上の青年の方が岩の近くに座る者より年少に見える。


 重々しい雰囲気と様子にデルタ達は思わず息を呑んだ。彼らの気配に全然気付けなかった。一体何者なのだろうかと思考を巡らせるが、顔が隠された彼らの素顔は分かりそうにもない。

ここまで読んで頂き、ありがとうございます。

明日も投稿していきたいと思います。

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