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第10話 嚙み合わない歯車達

ごめんなさい! 投稿順をミスしていました!

――デルタが追放された日の晩


 デルタが追い出された冒険者パーティ。どこにでもいるありふれた職業の寄せ集めのような集団だ。結成に必要な人数稼ぎの為に、リーダーのザッドが言葉巧みに勧誘して技師であるデルタをパーティーメンバーに引き入れた。


 しかし程よくメンバーが増えてきたあたりで用済みとなり、何かと理由を付けて脱退させたのだった。後悔はない。彼はいるだけお荷物だ、と鼻で笑った。

 基本、ザッド以外のメンバーもデルタのことをお荷物と認知していた。それでも、彼のことを悪く思っていない者もいた。その二人は特定の職業限定の依頼を請けていて、その別れの場に立ち会うことは出来なかった。

 二人が帰って来たら、既にデルタはいなかった。


「はぁ? デルタ追い出した? 俺達に何も言わずに?」


 横の幅が目立つ大剣を扱うザッドとは違い、身が細い刀を扱う侍のような風貌の少年。名前はヒュウキ。


「……私達がいたら反対するから、いない時に処理したの?」


 こちらは目から額までの大部分を包帯で覆った少女。口数が少ない彼女はヒュウキの幼馴染のチド。


「あんな戦力にならない奴、何のメリットがあるんだよ。財源になる能力も無ければ、料理だって並大抵のモノしか作れねぇじゃんか」


 ザッドは呆れたようにヒュウキとチドに言い放った。


「我侭が過ぎるだろ……」


 ヒュウキは今にもザッドの胸ぐらに掴みかかりそうな勢いだ。興奮冷めやらぬ彼をチドが静かに制した。


「でもなぁ……お前ら二人が反対した時点で多数決で負けるぜ? 少なくとも、ここにいるお前ら以外の奴らは全員アイツの追放には賛成だったがなぁ……。それと、俺の判断に従えないようじゃあ、お前らの首も……」


 ザッドは不敵な笑みまで浮かべて脅しを掛けて来た。最後の一言に狼狽え、ヒュウキは拳に籠った力が抜けた。


「……ヒュウキ。もう仕方ないよ」


 チドがヒュウキの肩に手を置いた。宥める声は穏やかだが、その手には必要以上の力が籠っていた。


「さぁてと。それじゃ、明日の『嘆亡の神殿』攻略の作戦会議と行こうか。心機一転、隣町っつーことで。まず、ここには四人で向かわないといけない。俺と……ヘス。それから……丁度いい。ヒュウキとチド。来い」

「分かったわ」


 ヘスは愛称で、本名はヘスティア。このパーティーの副リーダーで、魔法使いだ。


「分かったよ……」


 渋々、腑に落ちない点は数あるが、今は居所を失うのが怖かった二人は従うしかなかった。


 その夜、ヒュウキは自慢の刀、『稲薙刀』を自室で研いでいた。人生の殆どをこの刀と共に過ごして来た。常に肌身離さず持ち歩き、まさに愛刀と言える一振りであった。

 そんな彼の元に来訪者が来た。ドア越しに声が聞こえる。


「……ヒュウキ、今、ちょっと良いかな?」

「ん? チドか? 開いてるから入って良いぞ」


 チドはあまりヒュウキ以外の人間とコミュニケーションを取ろうとしない。こうして彼に心を開いているのも二人が長い時を共にしているからだ。

 ヒュウキは刀を研ぐ手を止め、正座を崩して胡坐をかき、チドの目を見据えた。


「こんな時間にどうしたんだよ?」

「……私、ここ抜けたい」

「は? まぁそりゃ今日一日で色々あったし、何かしでかしたら消されそうなブラックパーティーだけど……。辞めたら収入源がなくなるんだぞ?」

「……辞めるんじゃなくて、独立する」

「独立?」

「そう。私達で私たちで新しいパーティーを……」


 チドは普段、あまり自分が主体となって積極的に何かをやりたいと言わないので、彼女の珍しい発言にヒュウキは驚いた。


「てか『私達私たち』って俺巻き添え前提かよ……。それに、知ってるだろ。二人で組むのは無理だぞ。最低でも五人は必要だ。まぁ、デルタも元は人数合わせで寄せ集められたんだったか。でも、同じような目に遭うヤツは出したくないな」

「……デルタにも声掛けたい。夢があるって言ってたから今収入が無くなるのは……辛いと思う……」


 チドはとても仲間想いで、内側に秘めたるものはヒュウキ以上に煮え滾っている。


「俺も出来るだけチドの意見は尊重したい。……俺も自主的にここを抜けよう。でも人数が集まるまではダメだ。我慢だ。良いな?」

「……分かった。ヒュウキならそう言ってくれると思ってた……」

「ああ。というかそろそろ寝ろよ。明日は早いぞ」


 就寝前の挨拶を交わし、チドが部屋を後にしていった。彼女に早く寝ろと言ったものの、ヒュウキは引き続き刀を研ぐ作業に戻った。



 翌朝、まだ涼しく、空気に淀みが無い頃にザッド率いる一同は出発した。馬車を使い、隣町クロスメディアまで向かう。

 街に着いた時には既に道の端から端までが人で埋め尽くされていた。


「これぞ大都市だな。めちゃめちゃ混んでるな。お前ら、置いて行かれんなよ」

そして目的のクエスト受付所にやって来た。

「よし。それじゃ、今日、神殿に入るヤツは俺に付いて来い。中が混んでるから他の奴らはちょっと外で待っててくれ」


 ザッドに続きヘスティア、ヒュウキ、チドが歩いて行く。前二人と後ろ二人の間は若干空いている気がする。

 中に入る間際、扉の前で丁度入れ替わるように他の冒険者とすれ違った。ザッドとヘスティア、そしてチドは何とも思わずにすれ違ったが、ヒュウキだけは一旦歩みを止めて振り返った。


「どうしたの?」


 ジッと入り口を見つめるヒュウキにチドが問いかける。


「あ? いや……今デルタとすれ違ったような気がしてな……」

「……気のせいじゃない? いつもこういう所に来るの、怖がってたし……」

「それもそうだな。まぁいいや。行こう」


 手続きを済ませ、いよいよ本題の神殿へ向かった。クロスメディアの中心地から馬車で一時間。森を駆け抜けると突然視界が開け、苔とツタに覆われた禍々しい神殿が姿を現した。


「ほぉ……ついに来たか……」

「リーダー、荷物の確認した?」


 基本的にリーダーのザッドと副リーダーのヘスティアで話し合いながら進んで行く。作戦は常に変わるので、瞬時の判断能力が必要になる。


「大丈夫だ。それじゃ、このダンジョンに入るとするか!」


 四人は不気味な神殿の中に足を踏み入れた。


 神殿の中は逆に恐怖を煽られるほど無音だった。ザッドはそれを気味悪く思っていた。


「ここまで静かだとかえって不安になるな」

「でも、敵が出ないって良いことじゃない? 目標は最深部だし、それまでに何もない方が良いじゃん」


 一歩前を歩く二人を追い、和装の二人も進んで行く。


「本当にただ静かなだけなのかねぇ……」


 ヒュウキは地面に落ちていた光る物体を拾い上げて呟いた。


「宝石……誰かが拾い忘れたのか?」

「かもね」


 横目でチドのことを見ながら懐にそれを押し込み、また前を行く二人を追いかける。


「まぁ、いつでも戦えるようにしといた方がいいだろ。俺は鈍感だから尚更な」

ヒュウキは腰に提げている刀の鯉口を切った。

「……うん」


 階段のある空間までやって来た。そこで一同は一旦足を止める。

 ザッドは背中に負っていた大剣を構えた。


「なるほどなぁ……道理で気配はあるのに何も出ない訳だ……」


 突然振り返り、ヒュウキの顔の横に剣を突き出した。


「ずっとつけられてたんだからなぁ!」


 一瞬呆気に取られたヒュウキがすぐさま振り返ると、剣の先端に鼻を貫かれた頭蓋骨が刺さっていた。

 その後ろには多種多様の不死族の大群が待ち構えていた。妖しく光りながら飛行する頭蓋骨や武装した骸骨もいる。


 彼らはリナとデルタが同じ道を通った際に、例のネックレスの効果で退けられた魔物だった。二人が深部へと向かい、一気に元の生活圏に戻って来たのだ。


「ようやくこの剣を振るえるぜ……。腕が鳴る」

「おいザッド……これおおよそ五〇はいるんじゃないか?」

「数がなんぼのもんじゃい! おいお前ら! 構えろぉ! 瞬で終わらせてやらぁ!」


 全員に構えろと指示したのにも関わらず、結局はザッドが一人で不死族の大群をすべて沈めた。僅か数秒の出来事だった。

 ザッドは最後に倒したスケルトンソルジャーの頭を踏みつけながら高らかに声を上げた。


「グハハ……俺様に勝とうなんざ無理に決まってらぁ!」

「きゃー! リーダーカッコいい!」


 ヘスティアはこんな猟奇的な男に魅了されているのだ。双方に気味悪さを抱くヒュウキであった。


「じゃ、さっさと進むかぁ! この先にはどんなモノが待ってるんだか……楽しみだなぁ! お

い! 俺はコイツらと遊んでるからよォ、ヒュウキとチドは先に深部に行って攻略の証を取って来い!」


 ザッドの指示通り、深部へと行こうとする。すると、突然チドが走り出した。彼女の鋭い嗅覚が、何かを捉えたのだと気付いたヒュウキは、すぐに彼女を追いかけた。

ここまで読んで頂き、ありがとうございます。

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