十夢
私は、十夢にグラスを渡した。
「手洗いたい」
「こっち」
私は、洗面所に十夢を連れてきた。十夢は嬉しそうに私を見つめている。
「愛ちゃん、貸して」
そう言って、自分の手と一緒に手を洗ってる。
「何か恥ずかしい」
「可愛い、愛ちゃん」
「もう」
私は、フェイスタオルを十夢に渡した。
「ありがとう」
手を拭いて戻ると、十夢はグラスにビールを注ぎ始めた。
「ピーチの飲む?」
「うん」
十夢は、ピーチのチューハイをグラスに注いでくれた。
「乾杯」
「乾杯」
グラスをカチンと合わせて、飲む。
「いつも、生なの?」
「ビール?」
「違うよ!エッチ」
「あっ!うん」
私は、目を合わせないようにチューハイを飲んだ。
「それって、本当に愛してるのかな?」
私は、立ち上がって小さな小皿を置いた。
「ありがとう」
「窓、開けるね」
少しだけ、窓を開ける。
十夢は、煙草に火をつけてこう言った。
「本当に愛ちゃんの事、愛してるなら避妊するよ」
私は、何も答えられない。
「だって、そうだろ?愛ちゃんが妊娠したらどうするんだよ!責任って、金払うだけじゃないよ」
十夢の言葉に、涙が流れてきた。
「赤ちゃん出来て、一人で育てるなんて大変な事だよ!」
十夢は、煙草を消して私の手を握りしめる。
「従業員で、妊娠して捨てられてシングルで育ててる子がいるんだ。いつも、保育所から呼び出されて、クタクタで帰って、子供のことして、休みの日もゆっくり眠れないって嘆いていた」
私は、十夢を見つめる。
「一人で、赤ちゃん育てるのは大変なんだよ!あの人は、それをわかってる?俺は、わかってるよ!従業員を見てるから、一人じゃなかったら彼女はもっと休めるって言ってたよ」
十夢は、私の涙を拭ってくれる。
「男は、無責任な事しちゃダメなんだよ!責任とるのは、金だけじゃないよ。とれないなら、避妊ちゃんとしなきゃいけないんだよ!」
「十夢」
「傷つくのは、女の子なんだよ!愛ちゃん」
私は、涙が止められなかった。
「愛ちゃん、あの人は愛ちゃんを愛してくれてる?」
そう言って、十夢は私の頭を優しく撫でる。