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ピッカピカの勇者様!

 なんとも気まずい空気である。ヴィクトリアは泣き止んだのだが、どうにも居心地が悪い。ヴィクトリアが睨んでくるものだから、ライはいたたまれないのだ。もっとも、先に喧嘩を吹っ掛けてきたのは彼女の方だが。

 しかし、古今東西女性を泣かせた方が悪者扱いされるものだ。悲しい話である。


「ちょっとヴィクトリア姐さん。負けたからってライを睨むのはどうかと思うけど?」

「なッ! アタシはまだ負けてねえし! 降参してないし、戦闘不能にもなってないし! こいつが勝手に試合を放棄しただけだし!」

「あれだけ泣いておきながらまだ負けてないって言える精神が凄いですね。勇者の方々はこういう人ばっかりなんですか?」

「違うわよ! どう考えてもヴィクトリア姐さんだけよ! 一緒にしないでくれる!?」

「なあ、アリサ。アタシの事ホントに慕ってくれてるの? その言い方かなり来るんだけど。また泣きそうなんだけど」

「なによ。ホントの事じゃない。大体、自分から喧嘩を吹っ掛けておきながら散々に負けて泣いたのは事実でしょう?」

「うぐぅ……。思い出させるなよ~」

「ヴィクトリア姐さんの事だから噂の白黒の勇者がどんなものか確かめてやろうとしてたんでしょ? でも、まあ、結果は見ての通り。よかったわね、ヴィクトリア姐さん。ダリオスさんがいないで」

「んなッ! ア、アリサ! 絶対ダリオス様には言うんじゃないぞ! いいな?」

「ンフフフ、どうしようかしら~?」

「どういうことなんです、アリサ。私にも教えてくださいよ」

「いいわよ~。実はね~、ヴィクトリア姐さんはね~」

「ちょ、ちょっと、アリサッ!!!」


 なにやら騒がしい三人である。蚊帳の外にいるライは三人のやり取りを眺めてから気がついた。自分と同じように立ち尽くしている兵士の事を。兵士の方に顔を向けるとお互い目が合って、気まずそうに軽く頭を下げた。彼はきっと今回見たことを喋れば命はないだろう。なんとも可哀想な立場だ。


 しかし、どうしたものかとライは考える。ヴィクトリアに拉致されて稽古場に来て試合を行ったのはいいが、本来の目的は皇帝陛下との謁見である。それなのにこのように寄り道をしてもいいのだろうかと頭を悩ませていた。


『まあ、良いのではないか? 急ぎであれば誰か遣いを寄越しているはずだろう。それがないと言うことは特に急ぎというわけではなかろう』

「(それでいいのかな。皇帝って帝国で一番偉い人だろう? 待たせてもいいのかな? 後で文句とか言われない?)」

『心配しすぎですよ。アリサとシエルを見習ったらどうですか? 彼女達はごく自然にしていますよ』


 残念ながら彼女達はすっかり忘れている。皇帝に呼び出されていることを。

 使用人であるベルニカや護衛のエドガーがいたならば話は違ってくるのだろうが、その二人はそれぞれやる事があるので別行動中だ。非常に不味い状況である。このままだと皇帝を待たせることになり、下手をしたら不敬罪で首を刎ねられるかもしれないだろう。


「そういえば何か忘れてない、私達?」

「え? そう言われると確かに忘れてる気がします」

「そういえば、アリサたちは陛下に謁見しに来たんだろう? こんな所で油売っててもいいのか?」

「あッ!」


 重なる二人の驚く声。今思い出したのだ。皇帝に呼ばれていることを。ライを連れていかなければならないことを。

 ヴィクトリアに捕まった所為ですっかり忘れていた彼女達は物凄い速さでライの両腕を掴むと風のように走り出そうとした。


 すると、そこへダリオスがやってくる。四人を見つけたダリオスは手を振りながらライ達に近付いた。


「いくら待っても来ないから、探しに来たのだが、ここにいたのか。ハハハ、さてはヴィクトリアに勝負を挑まれたな?」


 一目見ただけで凡その事情を察したダリオスは豪快に笑ってライの頭を撫でる。その様子を見ていたヴィクトリアが目を吊り上げて、今にも飛び掛りそうなくらいライを睨んでいた。

 それを見たライは先程のアリサがしていた発言を思い出す。どうやら、ヴィクトリアはダリオスに対して並々ならぬ感情を抱いているらしいと。


「えっと……」

「で、どうだった、ヴィクトリア? ライは」


 軽快にライの肩を叩きながら勝負の結末を知りたいダリオスはヴィクトリアへ顔を向ける。その質問にヴィクトリアは眉を顰めたが、正直に話すことにした。勿論、一部を除いて。


「強かった。ダリオス様が言っていた通りでした。悔しいけど、完敗です」

「ハッハッハッハッハ! そうかそうか。やはり、俺の想像通り戦ったか。そして、負けたか……。お前が完敗ということだけは予想もしていなかったのだがな。いい勝負をすると思っていたのだが……まさか、そこまで成長しているとはな!」


 いきなりライはダリオスに抱っこされる。あまりにも突然の事だったのでライも反応できなかった。赤子のように高い高いをされて戸惑うライの頭は混乱するばかり。一体ダリオスは何がしたいのか。


「ヴィクトリアには悪いが、これ程嬉しい事はないぞ! ライ、お前は人類の希望になり得る男だ! 俺はお前を勇者として認め、ここに歓迎しよう!」


 ダリオスはただただ嬉しかった。この終わりの見えない戦いに一筋の光明が生まれた事が。ライという新たな勇者の誕生。あのヴィクトリア相手に完封したという実力。新たな兆しである。人類が反撃に打って出る吉兆だ。

 まさしくライは人類の希望であった。

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