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慟哭

 瓦礫に埋もれていたライはパチリと瞼を開いた。


「ん……あれ? 俺、死んだはずじゃ……」

『ああ。あるじは死んだぞ』

「え? だ、誰だ!?」

『突然の事で混乱していると思いますが私達はいつも貴方の愚痴を聞いていた聖剣と魔剣ですよ、我が主(マスター)

「え、え、え?」


 頭の中で聞こえる二つの声にライはますます混乱するばかりだ。


「えっと……詳しく教えてほしいんだけど?」

『その前に、まずはこの瓦礫を吹き飛ばそうか』

「へ?」


 未だに状況を理解していないライを置いて魔剣がライの身体の中から出てきて、周囲の瓦礫を吹き飛ばした。


「え、えええええええッ!? 俺の身体から剣が!? なんで、どうして!?」

『落ち着くのだ、主よ。順を追って説明しよう』

「よ、よろしく頼みます……」

『まず我が名はブラド。魔剣ブラドと呼ばれている』

『そして、私がエルレシオン。聖剣エルレシオンです』

「あ、はい。よろしく」


 魔剣と聖剣が自己紹介を終えて、本題へと移る。


『では、説明していこうか。まず主が死んだというのは半分正解で半分不正解だ。主は先の魔族に腹を貫かれて仮死状態に陥っていた。本来ならばそこで主の生涯は幕を閉じていたのだが……』

『私達は貴方を死なせたくはなかった。だから、仮ですが勝手に契約を結ばせて頂きました。そのおかげで私達はマスターと繋がり、蘇生させることに成功したのです』

「は、はあ。なるほど……」


 そう言われても良く分からないライだが、とにかく自分は二人もとい二本のおかげで助かったということだけ理解した。


『もっとも先の魔族から魔力を奪ってなければ不可能であったがな。なにせ、主には魔力も闘気も一切ない。我らの力も発揮出来なかったところだ。まあ、両方ともないおかげで我らと契約できたという点もあるがな』

『そうですね。これは前例のない事です。本来であれば私と彼と同時に契約を結ぶことなど不可能ですからね。そのようなことをすれば互いの力が反発してしまい、爆散するでしょうから』

「ひえっ……」


 爆散と聞いてライは息を吞む。しかし、二人と呼んでいいのかは分からないが、一つ気になることを言っていたのを思い出してライは聞き返す。


「あの、魔力も闘気も一切ないってどういうこと?」

『言葉通りだ、主よ。主には魔力もなければ闘気も一切ない』

『ああ。勿論、悪いことではないですよ。無くても生きていけますから。ただし、闘気を持っている者や魔力を有している魔物、魔族に比べたらマスターは貧弱ですが……』

「ひ、貧弱……」


 それなりに鍛えてきたつもりだが、闘気を持っている人間や魔力を有している魔族や魔物には敵わないのかと肩を落とすライ。しかし、落ち込んでばかりはいられない。今は確認しなければならないことがある。


「一つ聞きたいんだが……村はどうなってる?」

『主が目を覚ますまでに一日経ったはずだ』

「つまり、それって……」

『恐らくですが村はもう……』

「そんな……ッ!」


 青ざめた顔をしてライは瓦礫の山から駆け出した。向かう先は村である。二人から教えてもらったが自分の目で確かめるまでは信じないと、ギュッと下唇を噛んで涙を堪えながらライは走った。


「ハア……ハア……」


 村に辿り着いたライは荒い呼吸を繰り返しており、肩を上下させていた。立ち止まり呼吸を整えたライは村を見た。


「ははっ、なんだよ。嘘じゃないか。村は無事だ。きっと、父さんも母さんも無事なんだ」


 笑ってはいるがそれは強がりであった。確かに、村の建物は無傷で魔族に襲われたようには見えない。だが、人の気配は皆無だ。少なくとも今の時間帯ならば村人は外に出て仕事をしているはず。なのに、誰一人として見ない。それは、つまり二人の言っていた事は正しいということだった。


『主……』

『マスター……』


 信じたくない、認めたくないと笑みを引きつかせながらライは村の中央へと歩いていく。そこには残酷な現実が残されていた。


「あ、ああ……あああああああああああああッッッ!!!」


 無残にも殺されている村人達が転がっていた。その中には、当然ライの父親と母親の姿があった。母親を守ろうとしたのだろう、父親が母親を庇うようにして殺されていた。


「そ、そうだ。なあ、えっとブラド! 父さんと母さんを俺みたいに生き返らせてくれよ!」

『……無理だ』

「どうしてッ!!! 俺を助けてくれて時みたいに助けてくれよ!!! なあ、お前にはその力があるんだろ! 頼むよ!」

『マスター、落ち着いて聞いてください。貴方とご両親とでは状況が違うのです。マスターが助かったのは私達がすぐ側にあり、尚且つ貴方がまだ完全には死んでいなかったから。この二つがあったからこそ、マスターは奇跡的に生き返ることが出来たのです』

「まだ、父さんと母さんは死んでないかもしれないだろ!!!」


 到底受け入れる事の出来ない現実にライは涙を流しながら激昂する。淡々と説明する聖剣に八つ当たりするかのように怒鳴り声を上げているライは、もう一度魔剣に二人を生き返らせるように頼んだ。


「頼むよ。意地悪しないで二人を生き返らせてくれよ……」

『主よ。すでにご両親は死んでいる』

『マスター。お辛いでしょうが。どうか分かってください』

「お前らに俺の気持ちなんて分かるはずがないだろ! ううっ、うああああああああああああああ!!!」


 両親の遺体の前で蹲り咽び泣くライ。彼に宿っている聖剣と魔剣は、ただ宿主であるライが立ち上がるまで静かに待ち続けた。雲ひとつない真っ青な空に青年の慟哭が鳴り響き続けた。


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