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失恋したら聖剣と魔剣を手に入れました  作者: 名無しの権兵衛


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親睦を深めよう

 兵士に疑われたが、なんとか無事に解放された二人は宿屋へと辿り着いた。

 早速、宿泊の手続きを行う為、宿屋の受付へ向かう。一泊することを伝えると、衝撃の事実が判明する。


「あの一泊したいのですが部屋は空いてますか?」

「ああ。空いてるよ。丁度、一部屋だけね」


 これは流石に不味いと後ろに突っ立って話を聞いていたライはシエルの肩を叩いた。肩を叩かれてシエルは後ろにいるライの方へ顔を向ける。何か用事でもあるのだろうかとシエルは首を傾げていた。


「シエル。ここはやめよう。他に宿を探すべきだ」

「え? どうしてですか?」

「それはその……」


 恥ずかしくて言えない。ライは年頃の男女が同じ部屋で寝ることは許されないと考えている。夫婦でもなければ恋人でもない男女が同じ部屋で寝るのは流石にダメだろうというのがライの考えだ。


『ほれほれ、恥ずかしがっていないで素直に言わないか』

『そうですよ。一緒に寝るのは恥ずかしいって言わないと』

「(黙れよ! お願いだから!!!)」


 茶化してくる二人にライは怒鳴り散らすが二人は嬉々として笑っている。

 ライの心情を知らないシエルは彼の手を握ると、申し訳なさそうな声を出した。


「あの、もしかして私と同じ部屋に泊まるのは嫌でしたか?」

「(そうじゃない! そうじゃないんだッ!)」


 見当違いなシエルの発言にライは心の中で叫ぶ。そうではない、迷惑なものか。むしろ、一緒に泊まりたいとさえ思っている。

 しかし、それを良心が許さない。シエルは恐らく自分の容姿や男の心情を理解していないのだろうとライが考えている。だから、自分という異性であろうと二人きりの部屋でも構わないと思っているのだ。


 だが、それは違う。


 シエルはライに絶大な信頼を寄せているのだ。だからこそ、彼女はライと二人部屋でも構わないと思っている。命を救われて、ここまで二人旅を続けたシエルは少ない時間ではあったがライの人間性を知っている。


 それにシエルは自分の容姿が客観的に見ても美しいということは理解している。当たり前だろう。常日頃からその容姿を称えられ、男性からは下心満載の目を向けられることが多かったのだ。

 よほどの鈍感でもない限りは嫌でも気がつく。彼女は自身が異性から注目を浴びる容姿であると自覚している。


 そう。彼女は分かっているのだ。ライがどうして拒むのかを。自分と一緒に泊まるのを嫌がる理由を。


「(うぅ~、いけないことなのでしょうが、もっと一緒にいたいんです!)」


 夫婦でもない恋人でもない年頃の男女が同じ部屋で寝るのはダメだろうと思っているライ。対してシエルはもっと仲を深めたいと思っていた。


 それを見ている受付は早くしてくれないかと不機嫌そうに息を吐いていた。


 それから、しばらく続いていたが日も暮れたこともあってライは折れることに。一緒の部屋に泊まる事が決まったシエルは小躍りしそうなくらい喜んでいた。

 どうして、そんなに嬉しそうにしているのかとライは考えた。きっと彼女は柔らかいベッドで久しぶりに眠れることを喜んでいるのだろうとライは的外れの答えを出したのだった。


 シュナイダーを預けて、二人は案内された部屋に入る。

 部屋には二つのベッドがあったのでライはホッと息を吐いた。これで一つしか無かったら、ライは床で寝ようと考えていた。

 同じくシエルも安堵の息を吐いていた。勢いで一緒の部屋に泊まる事を押し切ったとはいえ、やはり異性と一緒に眠るのは緊張する。ベッドが二つあって良かったとシエルは胸を撫で下ろすのであった。


 宿泊先も決まった事で二人は夕食を取る事にした。この宿は食堂がついておらず、自分達でどうにかしなければならない。勿論、部屋に調理器具があるはずもない。

 そこで二人は町へ出かけることにしたのだが、また変装をしなければいけないことになり溜息を吐く。


「分かってはいますけど、やはり不便ですね……」

「まあ、仕方ないよ。とりあえず、俺達が入っても問題なさそうな店を探そうか」

「はい。そうしましょう」


 早速、町へ出る二人。夕食時あって町のいたるところから美味しそうな匂いが漂っている。その匂いを嗅ぐだけでお腹が減ってきてしまう。

 二人はあっちへフラフラ、こっちへフラフラと歩いた。今の変装して不審者になっている二人でも入れそうな店を探して。


「うう……。どこも美味しそうです~」

「そうだな~。お腹減ったな~」

『安易に決めるのは許さんぞ!』

『食こそ私達の楽しみですからね!』

「(少しは俺を気遣えよ! このグルメ……剣共め!)」


 少し考えてからライは食について口うるさい二人を罵った。食に関してだけは絶対に譲れないものがある二人は新しい街へ来るたびにこうだ。やはり、味覚を共有しているだけあって二人も美味しいものが食べたいらしい。


 そして、遂に見つける。今の二人でも入れそうな店を。

 喜々として店に突入する二人だが、当然の如く追い出された。一体何故自分達は追い出されたのだろうかと顔を見合わせるが理由は分からない。


 どちらも怪しいからに決まっている。顔を隠している時点で入店拒否に決まっている。金も持っているか怪しい上に姿まで怪しいのだからお客として見られないのは当然の事だろう。


 ぐうと二人のお腹が鳴った。思わず二人はお互いのお腹を見て笑う。悲しい状況ではあるが、二人は可笑しくて堪らない。随分と呑気なものだと笑い合った。


「また探すか」

「はい!」


 飲食店を求めて二人は楽しそうにしながら歩いた。星空の下、二人は悲観することなく笑って。

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