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嘘は許さぬ

 夜が明けて、朝食を済ませたライとシエルはシュナイダーに乗って町を目指す。勿論、二人乗りでだ。相変わらずライは緊張している。前に乗せているシエルに出来るだけ触らないように必死だ。


『もっとリラックスした方がいいぞ?』

『我慢は体に毒ですよ?』

「(お前等は少しくらい自重しろよッ!)」


 お節介にもほどがある二人に怒鳴るライはムスッとした表情になる。少なくとも気が紛れたのは確かだった。二人が狙ってやったかは不明だが。


 そして、ようやく町に到着。時刻は昼過ぎ。昼食を取らずにずっと走ってきたおかげで早くに着くことが出来た。

 最初に話し合っていた通り、シエルがシュナイダーと一緒に町で食料や水を買いこみ、その後余裕があれば服と顔を隠せるものを買う。


「じゃあ、俺は町の近くに隠れてるから、よろしく」

「任せてください!」


 妙にやる気に満ち溢れているシエルにライは少しだけ不安になる。一応、彼女には聖女とバレないようにライが以前使用していた襤褸布を渡している。それを纏っていてればよっぽど近くでシエルの顔を覗き込まねば彼女が聖女だとバレることはないだろう。


 が、しかし、どうしてかライは不安なのだ。シエルと旅をしてある程度の彼女の性格は熟知している。品行方正、清廉潔白、まさに聖女と呼べる人間性であるシエル。心配する要素などないのだが、拭いきれない不安がライを蝕む。


 やはり、自分もついて行くべきかと悩むライだがシュナイダーもいることを思い出して、任せることにした。何かあればシュナイダーがいれば問題はないだろうから、安心していいだろう。


 二人を見送ったライは待っている間、町の外の適当な所に隠れて精神世界で修業を行う。


 ライと別れてシュナイダーと一緒に町へ入ったシエルは初めて一人のお使いに高揚していた。自らに課された使命を全うしてみせるとやる気満々である。ライがこのことを知れば間違いなく止めていただろう。


「では、行きますよ。シュナイダー!」


 まずは資金の調達である。着の身着のまま出てきたシエルは聖杖ルナリスと法衣と後は少しばかりの貴金属であるアクセサリーしか持っていなかった。だから、旅に使わないアクセサリーを売って資金にするつもりだ。


 その為、最初にやってきたのはアクセサリーなどの売買を取り扱っている店だ。シエルは胸の前で可愛らしく拳を握って意気込んでから店に入ろうとしたら、服の襟元を噛まれてシュナイダーに止められた。


「あぅ……! あの、どうして止めるんですか?」


 シュナイダーはシエルがどことなく抜けていることを見抜いていた。恐らくだが、世間知らずの彼女は絶対にカモにされる。それを確信したシュナイダはーは無謀にも一人で突撃しようとしたシエルを止めたのだ。


「もしかして、ここではないのでしょうか?」


「それは違う」とシュナイダーは首を横に振って答える。では、何がいけないのだろうかとシエルは考える。シュナイダーはかなり賢い馬だとシエルは知っている。そのシュナイダーが自分を止めたのには必ず意味があると分かっているが、それがなんなのかが分からない。


「ん~……? あっ、他にもいい店があるのですか?」


「そうじゃない、そうじゃないんだ」とシュナイダーは首を横に振ってシエルに伝えようとするが、彼女は分からない。もっとも、ここにライがいたとしても分からないだろう。せめて、ブラドとエルレシオンがいれば話は違ってくるのだろうが。残念なことにライから離れることが出来ない二人はここにはいない。


「む~……。どうしたらいいんですか?」


 困り果てるシエルは頬を膨らませる。なんとも可愛らしい反応だが、悲しいことにシュナイダーしか見ていない。貴重な聖女の膨れっ面は誰にも見られることはなかった。


 シエルがシュナイダーとそのようなやり取りをしていると、店の中から男が出てきた。ふくよかな体型の男だ。いかにも金にがめつそうな顔をしている男は店頭で馬と会話をしているなんとも怪しい襤褸布を纏った人物を目にした。

 男は襤褸布を被った人物が金を持っていなさそうに見えて追い払おうとしたのだが、一緒にいる馬は大層立派な体をしている。それを見て男は考えを改める。

 もしかしたら、何か訳アリなのかもしれないと。このような立派な馬を連れているのだ。もしかしたら、何か金目の物も持っているに違いない。


 そう思った男は襤褸布を被っているシエルに近づいて声を掛ける。


「あの~、お客様でしょうか~?」


 警戒されないように出来るだけ優しい言葉で話しかける男。

 声を掛けられたシエルは振り返ると、そこにはふくよかな体型の男が厭らしそうに手を揉みながら立っていた。胡散臭い笑顔にシエルは警戒心を高める。


「失礼ですが貴方は?」

「はい~。私はこの宝石店の店主です~。何卒、お見知りおきを~」

「そうですか。実はこのアクセサリーを売りに来たのですが」


 シエルは男が店主だという事を聞いて懐にしまっていたアクセサリーを出した。店主はシエルが取り出したアクセサリーを見て目を見開く。

 まず間違いなく最上級の品質でこの辺りでは滅多にお目にかかれない代物。これを売るとはよっぽどの事情があるに違いないと店主は心の中で舌なめずりをした。


「(こいつはカモだ! カモに違いない! へへ、騙して安値で買い取ってやろう!)」


 店主は下種なことを考えていた。シエルの見た目が襤褸布を被って顔を隠しているのを見て、訳アリの貴族だと予測した。そして、お金に困っていることも分かった。なにせ、アクセサリーを売りに来たという事はそういうことだろうから。


「おお~、そうですか。私の店を選んでいただき誠にありがとうございます。それではまずそのアクセサリーを査定させていただきたいので中へどうぞ~」

「わかりました」


 そう言ってシエルが店主に案内されるように付いて行こうとしたら、シュナイダーが店主の前を塞いだ。

 シュナイダーは善悪の区別はつかないが、店主が一瞬だけシエルから見えない角度で顔をニヤつかせたのを見逃さなかった。


「ひ、ひえ! な、なんですか、この馬は!」

「あ、シュナイダー! ダメですよ、そんなことしちゃ!」


 シエルに怒られるシュナイダーだが一歩も引かない。今まで素直に言う事を聞いていたのに、これはおかしいとシエルはシュナイダーに訊いてみた。


「もしかして、ついて行ってはダメなんですか?」


「そうだ」とシュナイダーは頷いた。なるほど、シュナイダーがそう言うのであればついて行かない方がいいと判断したシエルは怯えている店主にお願いする。


「あの、すいません。ここで値段を決めてもらえませんか?」

「え!? ここでですか? 流石に道具も無しでは……」

「急いでますので、詳しい査定は結構です」

「は、はあ。そうですか」


 まさか、このような道端で査定をさせられるとは思ってもいなかった店主は内心焦っていた。適当な嘘をついて安値で買い取ろうとしたのに、それが出来なくなったと。勿論、この場で嘘をついてもいいのだが先程の馬の反応を見る限り、かなり賢い馬だと分かる。


 もしも、シエルを騙そうとすれば下手をしたら蹴り殺されてもおかしくはない。まだ死にたくない店主はシュナイダーの視線に怯えながらシエルの持っているアクセサリーを妥当な値段で買い取ることにした。


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