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 まずは何から聞くべきか悩んだライにブラドとエルレシオンが助言をする。


『やはり、ここは国柄を聞くべきではないか?』

『戦線の状況でもいいかもしれませんよ?』

「(うう~ん……。とりあえず、国柄かな)」


 両方とも大事だが先に国柄を知っておくべきだろうと判断したライは兵士長に声を掛ける。


「兵士長。実は俺、リンシア聖国には来た事がなくて何も知らないんです。だから、この国の事について色々と教えていただけませんか?」

「それくらいでしたらお安い御用です!」


 やたらと気合の入った返事をする兵士長にライは少し不安を抱いた。情報を提供してくれるのは有り難い事なのだが、果たして彼で本当によかったのだろうかと。まあ、兵士長以外に頼れる相手もいないので文句は言えないだろう。


「まずこの国についてですが、魔を毛嫌いしていることですね。勿論、他の国もそうですがこの国はより過激と思ってください。その……先程の部下達の反応を思い出して頂ければわかりやすいかと」

「あー、確かに」


 それから兵士長の話は続き、ライはリンシア聖国について知る事になる。基礎的な知識を得たライは次に現在戦争がどのようになっているかを確かめた。


「では、現在戦争について何か知っていますか?」

「そうですね。現在、聖国は魔族からの攻撃を最も受けている場所と言えばいいでしょうか」

「え? それは何故なんです?」

「聖女様の存在です。私も人から聞いた話で本当かどうかは分からないのですが、聖女様はなんでも失われた手足をさえも元に戻すほどの治癒能力があるらしいのですよ」

『ふむ……。聖杖ルナリスの能力だろな』

『治癒能力以外は無いのでしょうか?』

「なるほど。つまり、敵としては一番厄介な存在なんですね」

「ええ、そうだと思います。一度倒した敵が後方へ引っ込むと再び向かって来るのですから敵としては嫌な相手でしょう」


 兵士長の言うとおりだろう。一度倒した敵が聖女の手によって復活し、再び立ち上がって襲ってくるのだ。敵からしたらたまったものではない。もっとも、それを言うならライも同じである。なにしろ、魔力さえあればその場で即座に回復し、悪鬼の如く襲い掛かるのだから。


「しかし、最近はどうにも不味い状況らしいのです」

「どういうことなんです?」

「帝国の防衛線が徐々に押され始めており、聖国まで魔王軍が迫ってきているそうなのです」

「それは不味いですね」

「ええ。ですから、勇者の一人を帝国から派遣するとか」

「ええッ!? 大丈夫なんですかね。貴重な戦力である勇者を他国に派遣するって」

「私もそう思いますが、聖女様は唯一無二の存在ですからね。たとえば勇者が大怪我を負ったとしても聖女様がいれば問題ないでしょうから」

「あ~、それはそうですね」

『まあ、手足の欠損さえも治せるほどの実力者を失うのは手痛いだろうからな』

『なんとしてでも守ろうとするのは当然でしょうね』


 その後、それ以上の話は無かった。聞きたい事も聞けたのでライは兵士長から服と僅かなお金を貰って、その場を去ろうとしたのだが兵士長に止められた。


「勇者殿。最後にお名前を教えていただけないでしょうか?」

「ああ、俺はライ。ただのライです」

「そうですか。ライ殿。今回は本当にありがとうございました」

「もうお礼なら十分聞きましたよ」

「いえ、これは私個人のお礼です。ライ殿、私には今度生まれてくる子供がいるのです。今回、私はその子の顔を見ることはないのだろうと思っていました。しかし、貴方が来てくれたおかげで私だけでなく家族も救われたのです。だから、本当に本当にありがとうございます」

「…………その一言で全て報われました。俺は守れたんですね」

「ライ殿……?」


 どこか寂しい声で呟いたライを見る兵士長。自分ではない遠い誰かを思っている目をしていたライを見た兵士長は胸を締め付けられる思いであった。


「(そうか……。彼があれ程までになって戦うのはきっと大切な人たちを魔族に……)」


 憶測に過ぎないが兵士長はライが傷だらけになってまで戦う理由を知った。


「それじゃ、俺は行きます。服とお金ありがたく使わせてもらいますね」


 そう言って笑顔で片手を振り歩き始めたライに兵士長は大きく手を振って叫んだ。


「ライ殿! お元気で! いつかまたお会いしましょう!」


 兵士長のその言葉にライは嬉しそうに口元を緩めた。誰かに感謝されるのは心地がいいものだ。


 その時、猛スピードで駆けて来る影が一つ。その影はシュナイダーであった。シュナイダーは戦いが終わるまで隠れていた。戦いが終わり、主人に呼ばれるかと思いきや、その主人は自分を無視して一人で行ってしまう。

 これは許せん。そう思ったシュナイダーは全速力で駆け、自分の事を置き去りにしようとした主人を跳ね飛ばすのであった。


「うぼぁっ!?」


 強烈なタックルを受けて吹き飛び、地面を転がったライは泥だらけの体で立ち上がる。一体どこのどいつの仕業なのかとぶつかってきた相手を睨み付けると、そこにはご立腹のシュナイダーが鼻息を荒くしてライを見詰めていた。


「おう……。いや、シュナイダーさん。これは違うんですよ。決して忘れてたとかそんなんじゃなくてですね……」


 勿論、そう簡単に許すわけが無い。自分を忘れて置き去りにしようとした罪は重いとシュナイダーはライからそっぽを向いて走っていく。今度はライが置き去りにされる番だ。


「え? シュナイダーさん! ちょ、ちょっと待ってえええええッ!」


 相棒シュナイダーに置いて行かれ、ライは一人荒野を走るのであった。





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