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領主の娘

「一つ君に提案があるのだが、連合軍に入ってみる気はないかね?」

「非常に有難い提案なのですが俺には闘気がありません。ですから、連合軍に入るのは不可能かと」

「なんと……! そうなのか。しかし、それではどうやって復讐を果たすと言うのだ?」


 その質問にライはどう答えるべきか悩んだ。正直に聖剣と魔剣の事を話すべきか、それとも嘘をついて誤魔化すべきか。ゼンデスは村人であるライに対しても誠実な対応をしてくれる心優しい領主だ。信用に値すると言ってもいい。


 しかし、聖剣と魔剣について話しても本当にいいのだろうかとライは悩んでしまう。今、ライが持っている二つの剣は知られてしまえばどうなるか分かったものではない。奪われるか、利用されるかだろう。


『主よ、ここは誤魔化しておくべきだ』

『それがいいです。この方はとても誠実な人間ではありますが、私達の存在を教えるべきではないかと』

「(でも、味方になってくれるかも……)」

『そうかもしれん。だが、今はダメだ』

「(どうして!?)」

『マスターがまだ弱いからです』

「(それが何の関係があるんだよ! それにゴンガ村での事が知られたら、どうせ知られるじゃないか!)」

『今の主では自身の身を守れぬ。彼が優しいと言っても彼以外はそうでなかったらどうする? 我等を狙う者が増えてしまえばどうなるか分からない訳ではあるまい』

『人とは愚かな生き物です。マスターを殺してでも私達を奪おうとする者は必ず現れます。それにマスターは魔剣の所有者でもあります。大義名分を得た人間は正義は我にありとマスターを迫害するでしょう』

「(……じゃあ、誤魔化すしかないのか?)」

『ああ……』

『悲しいですが、それしかありません』


 二人の言い分は正しくもあり、間違ってもいるだろう。全ての人間がそうではない。少なくともほんの僅かな時間しか会話をしていないがゼンデスは善の部類に入る人間だ。だが、それでも二人はライ以上に長い時を生き、多くの人々を見てきたから分かる。人とは欲深き愚かな生き物だと。


「たとえ、闘気が使えなくとも俺は魔族を殺してみせます!」

「……そうか。わかった。そこまで言うのなら私はもう何も言うまい」

「すみません……」

「なに、謝る必要はないさ。私が困らせるようなことを言ってしまったのだ。さあ、もう床に膝を着く必要はない。ソファに座りなさい」

「はい……」


 言われてライはソファへ腰かける。ゼンデスはお茶を飲み、一呼吸置くと再び口を開いた。


「さて、君の意思はわかった。だが、少し確認したい。君は魔王軍や連合軍についてどこまで知っている?」

「えっと、北の方にある帝国で魔王軍と連合軍が戦ってることくらいです」

「ふむ。最低限は知っているようだな。では、私が知っていることを君に教えよう。まず、魔王軍は連合軍と同じく多くの種族が入り混じった混成軍だ。それぞれ特徴があり、四天王と呼ばれている幹部が軍団を率いている」

「四天王? それは一体……」

「魔王軍の最高幹部の呼び名だ。名前も姿も確認はされていないが存在しているらしい」

「強いんでしょうか?」

「分からない。ただ、魔王軍は屈強な戦士の集まりだ。それを束ねているのだから相当なものだろう」


 その話を聞いてライは顔を下に向けて考える。今の自分はどこまで通用するのか。あの魔族には到底及ばない。さらに言えば、まだ魔族と戦ったことがないから判断も出来ない。一体、どうすればいいのだとライは不安に心が押し潰されそうになる。


『主、今は強くなることを考えるのだ。余計なことは考えなくていい』

『マスター。ただ真っすぐ進めばいいのです。貴方の心の導くままに』

「(……そうだな。うん、そうだよな! あの魔族を倒せるくらい強くなることだけ考えればいいよな!)」


 単純明快である。四天王がなんだ、魔王がなんだ。それよりも強くなればいいのだと分かったライは不安が晴れた。


「そして、連合軍の方だがこちらには勇者と呼ばれる者達・・と聖女がいる」

『ぬ?』

『え?』

「えっと、勇者というのは沢山いるんですか?」

「うむ。各国が持つ聖武具に認められた者達の事を勇者と呼んでいるのだ……」


 そこまで言ってゼンデスは「はあ……」と大きく溜め息を吐いた。なにやら、悩み事があるようだ。ライはどうしたのだろうかと尋ねてみた。


「あの、何かあるんですか?」

「ん? ああ、すまない。話の途中だったのに遮ってしまって」

「いえ、それは別に大丈夫です。領主様はなにか勇者について何か悩み事でもあるんですか?」

「ハハ、やはりわかってしまうか」

『まあ、あれだけ大きな溜息を吐かれれば誰だって分かるだろうよ』

『迷惑でもしてるんでしょうか? 恐らく勇者は特別な存在でしょうから、法に縛られないとかで迷惑行為を繰り返してるとか?』


 エルレシオンが物騒なことを言っていたが、ゼンデスの次の言葉で間違っていたことが分かる。


「私には娘が三人と息子が二人いるのだが……三番目の娘が勇者なのだよ」

「ええー--ッ!!!」

『おお……』

『まあ……』

「はあ……。上の二人は嫁に出ていて、息子達は私の跡継ぎとして仕事を教えてるのだが、末っ子の娘は喜んでいいのか悲しんでいいのか分からないが闘気が優れていたのだ。しかも、本人が勝ち気な性格でね。魔王軍なんて私がやっつけてやるんだからと連合軍に自ら志願していったのだよ。最初は止めようとしたんだが……」

「止められなかったと? それで今は聖武具に選ばれて勇者をやっていると?」


 コクリと頷くゼンデスを見てライは天井を見上げた。確かに親からすれば心配だろう。戦争に行っただけでなく勇者にまで選ばれてしまったのだから。

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