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聖剣と魔剣

 穴に落ちてしまったライだったが、幸いなことに怪我一つなかった。ライは泥まみれになってしまった服を軽く叩いて泥を落とす。泥を落としながらライは落ちてきた穴を見上げる。


「うわ……。高いな。これじゃ出れそうにない……」


 落ちた先は洞窟になっており、出口はライが落ちてきた穴以外見当たらない。ひとまず、出口を探そうとライは歩き出す。先ほどは失恋の為に足取りは重たかったが、今はどうにかこの洞窟から出ようとしていたので足取りは軽くなっていた。


 しばらく、洞窟の中を歩き続けて出口を探すがどこにも見当たらない。それからどれだけ歩いただだろうか。ライは散々山の中を走り回っていたので、体力の限界が訪れようとしていた。


「ハア……ハア……」


 途方もなく続く洞窟。出口の当てもなく歩き続けているライは弱気になってしまう。


「(このまま俺はここで死ぬのかな……)」


 失恋したショックもあるので余計に落ち込むライは立ち止まってしまう。いっその事、本当に死んでしまおうかと。しかし、死んでしまえばきっとミクが悲しんでしまうと思ったライは、再び歩き出す。


「(死んでたまるか)」


 意地でも生きて帰るとライは決めた。ひたすらに歩き続けてライは洞窟の奥へと進んだ。体力の限界が訪れ、フラフラと歩いていたライの先に光が差し込んだ。その光を見たライは目を大きく開いて、最後の力を振り絞って走り出した。


「(出口だ! きっと出口に違いない!)」


 一縷の望みをかけて走り出したライの先に待っていたのは、小さな穴から光が差し込んでいる祭壇であった。洞窟の奥にこのようなものがあるとは思わなかったライは驚いたが、それよりも落胆が大きかった。出口ではなかったから。


「出口じゃない…………」


 絶望である。最後の体力を振り絞ってまで来たのに、あったのは祭壇のみ。もう此処までかと思われた時、祭壇の中央に何かがあるのをライは遠目に見つける。


「あれは?」


 気になってしまったライはフラフラと祭壇の元へ向かう。祭壇の近くまで来ると、中央に見えたものがなんだったのかをライは知った。


「剣? それも二本が交差してる?」


 祭壇の中央には二振りの剣が交差して刺さっていた。片方の剣は青と白を基調とした美しく神々しい剣で、もう片方の剣は赤と黒を基調とした禍々しい剣だ。見たこともない剣だったがライは、その二本の剣が特別なものだと理解した。


「聖剣と魔剣……」


 小さな村に住んでいるライは聖剣も魔剣も見たことはなかったが、目の前にある二つの剣はそれ以外に考えられない。だから、自然とその言葉が口から漏れてしまった。


 しかし、聖剣と魔剣があるからどうしたというのだ。確かに凄い事なのかもしれないがライからすれば、それどころではない。この洞窟から抜け出すことが最重要事項なのだ。


 それに聖剣と魔剣を見つけたといっても、ここから出られなければ意味がないだろう。


「……はあ」


 溜息を吐いたライはその場に腰を下ろした。正直、限界だったのだ。立ってるのも辛かったのだ。ライは祭壇に座って二本の剣を見詰める。両方ともこの世のものとは思えないほど美しく禍々しいが、手を伸ばせば届く距離にある。


「……」


 手を伸ばしたが、途中で引っ込めた。なぜか触ってはいけないものだと思ったからだ。理由はわからないがライは、その二つの剣は特別なものだと判断して見るだけに留めた。


 少しの間、眺めていたライは唐突にポツリと言葉を零す。


「俺、今日失恋したんだ」


 誰かに聞いてもらいたかったのかもしれない。それから、ライは今までの思いをポツリポツリと零し、最後は激流のようにぶちまけた。


「ずっと好きだったんだ。いつから好きだったかは覚えてないけど、気付いたらずっと見てた。それから必死に振り向いてもらおうと頑張ったんだ。でも、何の意味もなかった。俺がしてきたことは無駄だったんだ……! どうして、どうして! ちくしょう! うっううぅぅぅ……」


 思い出したら、また涙が出てきたライはその場に蹲る。亀のように蹲るライはわんわん泣いた。そして、泣きつかれたのか、そのまま眠ってしまう。


 ライが寝た後、聖剣と魔剣が仄かに光る。


 ◇◇◇◇


 いつの間にか眠っていたライは猫のように飛び起きる。キョロキョロと周囲を見回して、自分がどこにいるのかを思い出して頭を抱えた。


「そうだ。まだ洞窟の中だったんだ……」


 出口を求めて歩き回ったが、結局出口は見つからずじまい。一生ここで自分は過ごす羽目になるかと、ライが悲観に暮れていた時、どこからともなく風が吹いた。


「風ッ!? どこかに出口があるのか!?」


 風を感じたライはすぐに立ち上がり、風が吹いてくる方向へ駆け出した。すると、祭壇のある場所から、そう遠く離れていない場所に人一人が通れそうな隙間があった。ライはその隙間を覗き、外に繋がっている事を確かめた。


「光が見える! 外だ!」


 まだ確証はないがライは光が見えたことで外だと決め付けた。隙間に身体をねじ込み、外へ向かってどんどん突き進むライ。

 光が大きくなっていくにつれてライの表情は明るくなる。ようやく外に出れるかもしれないと喜びに満ちていた。


 そして、ついに光の先へ。


「そ、外だ! やった! ホントに出られた!」


 洞窟から抜け出せたライは大喜びだ。その場で何度も跳びはねる。しばらくして落ち着いたライは後ろを振り返る。自分はどこから出てきたのだろうかと。

 後ろを振り返ってライが見たのは、村の近くにある小さな岩山だった。周りを草木で囲まれているので、誰も近付かない場所だ。


「こんな所に出たのか……」


 意外な場所だったので驚いていたライだったが、自分がどういう状況だったかを思い出して慌てる。


「そうだ! 俺、家に帰ってない! 母さんに怒られる!!!」


 フラレたショックで山の中を駆け回り、穴に落っこちて一日洞窟の中にいたのだ。しかも、誰にも連絡せずに。両親は心配しているに違いない。もしかしたら、今も探し回っているだろう。


 そう考えたライは大急ぎで家へ帰る。家に帰ったライは母親にこっぴどく叱られた。


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― 新着の感想 ―
[一言] 穴に落ちた←わかる 高いのに怪我がない←まぁわかる 明かりも無しで平然と洞窟散策←全然わからん まずは無駄な助けを呼ぶじゃないかなぁ
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