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第6話 ワキガ勇者が無双する

ラタの町を出て王都に向かうワキガ勇者の一行。


ウォーレンは酒場で飲んだ酒に酔ってご機嫌であった。

馬上で鼻唄を歌って陽気になっている。


因みに絶望の脇臭オーラはレベル3。

ほんの僅かなひと時でも苦悩を忘れることができて幸せだね。

ヨシハルはそう思って、そっとしておいてあげることにした。


山間やまあいの隘路に入ったところで、何やら強烈な悪臭が漂ってきた。

因みにウォーレンの絶望の脇臭オーラではない。


そのえた匂いに気付いて、一気に酔いがめたウォーレン。

顔面蒼白でヨシハルに小声で質問する。


「なあ、ヨシハル。」

「どうした?」


「これ・・・我かな?」

「大丈夫だ。これは君ではない。」


「じゃあ、お前か?」

「ちゃうわ!!」


そこで勇者が持つ特殊な能力が発揮される。


【お決まりの特殊能力】

勇者は必ず王族の窮地を救う


である。


盗賊の襲撃にあっている豪華な馬車を見つけた。

その馬車を護衛する騎士が10人。


しかし、多勢に無勢。

盗賊は30人を超える規模であり、騎士たちはかなりの苦戦を強いられているようだ。


よく見ると、盗賊は人ではない。

顔が豚。


「あれは魔物か?」

ヨシハルはウォーレンに尋ねた。


「ん? ああ。あれはオークだな。魔物だ。」

背中に担ぐ両刃の戦斧せんぷを右手に持って構えたウォーレン。


「助けるぞ。」

「了解、勇者様。」


駆ける馬上で手綱から手を放すと、両手にヘクスカリバーを握ったヨシハル。


ヨシハルとウォーレンは魔物の集団に突入した。

因みに他の仲間たちはその場に待機させている。


華麗に馬上から飛び上がったヨシハル。

倒れ込んだ騎士に止めを刺そうとするオークをヘクスカリバーで斬り裂いた。


馬上から左右に斧を振り下ろすウォーレン。

その強烈な斬撃を受けたオークは、端から斬り刻まれて吹き飛んでいく。


オークたちは、突如現れた2人に動揺したものの、すぐに態勢を整え直した。

どうやら敵の魔物は組織的に動くことを知っているらしい。


「こ奴ら、ただのオークではないぞ。」

敵の動きに首を傾げたウォーレンは、馬から降りるとそう言った。


「そのようだな。」

ヨシハルとウォーレンは互いに背中を預けあう。


そこに三位一体となって襲い掛かるオーク。

1人が壁役、1人が剣で足元を狙い、1人が槍で突くという訓練された動きである。


しかし、それに動揺するヨシハルとウォーレンではない。


ヨシハルは敵の壁役オークを前蹴りで蹴飛ばし、足元を狙ってきた剣持ちオークを右手のヘクスカリバーで斬り伏せた。

すぐに突き出された槍を左手のヘクスカリバーで弾くとともに身体を横回転し、壁役と槍持ちのオーク2体を一気に斬り捨てる。


ウォーレンは豪快。

大きく振りかぶった斧を敵の壁役オークに打ち付けて真っ二つにする。

その斧の一撃は地面を大きく抉り、その地面が爆ぜた衝撃に怯んだ敵の剣持ちと槍持ちのオーク2体を胴体から真っ二つに斬り裂いた。


そのまま、左右に分かれて敵に突入するヨシハルとウォーレン。


ワキガ勇者とワキガ戦士は無双した。


明らかな実力差を見せつけられて形勢不利にも係らず、オークは逃走するような気配を見せない。

残り5体まで数を減らしても、まだ戦意を失わずに武器を構えている。


辺りに漂う強烈な悪臭。

それは、敵のオークたちが放っていたものであった。


「こいつら、何やらきなくさいな・・・。」

「うむ。確かにくさすぎるな。」


「いや、そうじゃなくてだな。」

「じゃあ、何だ? 我はここまで酷くないぞ?・・・たぶん。」


・・・・・・。


「まあいい。この悪臭の中なら、多少汗をかいても俺たちの絶望の脇臭オーラはごまかせる。」

「うむ。我らにとっては好都合だ。」


生き残っているオークたちは、一斉に腰に下げた袋から小瓶を出した。

そして、その手に持つ武器に不器用に液体を垂らす。


「毒か・・・。」

その仕草を見たウォーレンが呟く。


「気をつけろよ。」

「勇者様もな。」


ヨシハルは手を敵に翳した。


雷撃かみなりでうつぜ!」

ヨシハルの手から放たれた稲妻が敵オーク3体の身体を穿つ。


それに呼吸を合わせたウォーレン。

敵に突入すると斧を振り回して、残りのオーク2体を敵の武器ごと力任せに斬り砕いたのであった。


勝負あり。

敵は全滅した。


その様子を山間やまあいで身を隠しながら見ていた影。

その影は口元にあてた吹き矢をヨシハル目掛けて放った。


ピュイ


その吹き矢は、ヨシハルの頬をかすめた。

ほんの少しだけヨシハルの頬に傷がついたが、それに全く気付かないワキガ勇者。


ニヤリと笑う影。

その吹き矢には猛毒が塗られていた。


・・・・・・。


・・・・・・。


あれ?

何であいつ、猛毒を受けたのに平気なんだ??


ご存じの通り、ヨシハルは完全な毒耐性を持っている。


「終わったようだぞ。」

背中に両刃の戦斧せんぷを戻すと、両手でほこりをはたく仕草をしながら、ヨシハルに近づくウォーレン。


「お疲れさん。さすが義憤のウォーレンだな。」

ワキガ戦士の活躍を労うワキガ勇者。


「ん?ヨシハル。頬にちょっとだけ傷がついてるぞ?」

「ほんとか?」


腕で頬を拭ってみるヨシハル。

その腕にかすかに血がついた。


「こんだけなら、放っておいても大丈夫だろ。」


そんな訳あるかあーーーーーーっ!!!

と、茂みの中で突っ込みを入れる影。


豪華な馬車の扉が開いた。

扉から顔を出して辺りの様子を窺うのは、黒髪ショートが似合う大人の女性。

その服装からすると侍女のようだ。


辺りを漂う悪臭にむせて鼻をつまんだ侍女。

そして、戦いが終わった凄惨な状況を見るや、口に手をあてて顔を青くした。


「終わったの?」


豪華な馬車の中から聞こえてきたのは小さな男の子の声。

侍女が止める手を振り払って、元気良く馬車から飛び跳ねて降りた。


「殿下!なりません!まだ敵が近くにおるやもしれません!」


慌てて馬車に駆け寄る傷ついた騎士たち。

そして、周りを警戒したまま、馬車から降りた子供の前で一斉に片膝をついたのであった。


「みんな怪我しておるぞ? 大丈夫か?」


騎士たちを心配する子供。

その身なりの良さと殿下と呼ばれたからには、きっとあの子は王子だろうなとヨシハルは思った。


何も言わずにその場を立ち去ろうとするヨシハルとウォーレン。


その様子に気付いた騎士たち。

「お待ち下され!勇者様!」


仕方なく立ち止まるヨシハルとウォーレン。

振り返った2人の顔は、すご~く嫌そうな顔である。


【絶望の脇臭オーラレベル】

――――――――――――――

Lv.0 ■■■■■■□□□□ Lv.10

――――――――――――――


2人の思考は共通していた。

さっさとこの場から去って、制汗タイムにしたいのだ。


そんな2人の気持ちなど知る由もなく、騎士が言葉を続ける。

「その銀色の長い髪と七色に光る剣。貴方様は勇者様であるとお見受け致しました。」


じゃあ、俺は先に戻るね。勇者様頑張って。

1人抜け駆けして立ち去ろうとするウォーレン。


そのウォーレンが背中に担ぐ両刃の戦斧せんぷをガシッと握って引き留めるヨシハル。


抜け駆けは許さんよ。

と、ウォーレンに目で伝えるヨシハル。


いや~~離して~~~!!

と、ヨシハルにウルウルした目で懇願するウォーレン。


そんな2人のやり取りの意味は、2人にしか分からない。


「こちらにられますのは、ポルファス王国第6王子のヒーロ様でございます。」

「そうですか。」


「危ないところを助けて頂き、感謝の言葉もございません。」

「いえいえ。」


「殿下、窮地を救って下さった勇者様にどうぞお言葉を。」

騎士に言われた第6王子のヒーロは、キョトンとした顔をして騎士たちを見回す。

そして、首を傾げて侍女の顔を見た。


「殿下、勇者様に労いのお言葉をお掛け下さい。」

侍女はヒーロに優しくほほ笑んで伝えた。


元気よく頷いたヒーロ。


「頑張ったな勇者。余の家来にしてやっても良いぞ。」


うん。

ただのクソガキだ。


その時。

山間やまあいの茂みの中から殺気を感じた。

このクソガキを狙っている!


「王子が狙われているぞ!」

咄嗟に叫んで、両手にヘクスカリバーを握ったヨシハル。


茂みからヒーロに向けて飛んできた何かが小さく光る。

それを両手のヘクスカリバーで弾いた。


ヨシハルとウォーレンは顔を見合わせて、互いに頷く。

2人は茂みの中に飛び込んでいった。


王子暗殺に失敗したことを悟った影は、姿をくらます為に一目散に逃げていく。


ヨシハルがヘクスカリバーで弾いた小さく光ったもの。

地面に落ちたそれを騎士が確認した。


「こ・・・これは!吹き矢です。それも毒が塗られているようです!」


茂みに入っていった2人は戻って来ない。

遅い・・・。


騎士たちと義賊の仲間たちは、2人を心配して茂みに目を向けた。



その頃。


ヨシハルとウォーレンは、姿を見失った影を追うことは早々に諦めていた。

2人が必死に見つけていたのは山中に湧き出ている水。


辺りに人の気配がないか抜かりなく見回すワキガ勇者とワキガ戦士。

よし。

誰もいないな。


2人は上着を脱いで、ちゃぽちゃぽとわきを洗っていた。


腰のポシェットからアルム石を取り出すヨシハル。

それを見て、慌てふためきながら自分の身体をあちこちと触るウォーレン。


塗り、塗り、塗り、塗り。

ご機嫌でアルム石をわきに摺り込むヨシハル。


チラッとウォーレンを見て、何も言わずにまたわきに摺り込む。


「それでか!それでポシェットなんぞ買っていたのか!」


涙目でヨシハルを見るウォーレン。

ウォーレンの制汗グッズは、馬に括りつけた革カバンの中である。


「フッフッフ。1つ学んだようだね。義憤のウォーレン。」

「あの時、教えてくれても良かったではないか!我らは同志おなかまだろう!?」


チッチッチッチ。

人差し指を動かすヨシハル。


「教えてもらうだけでは人は育たないのだよ。その身で経験することも大切なのさ。」

「そんな殺生な~~~。」


肩をガックリと落とすウォーレン。

他人からすればどうでも良い学びだが、この2人にとっては大事なことである。


ヨシハルは、腰のポシェットからもう1つ別のアルム石を取り出した。


「これで重要なことを学んだな。肌身離さずが大切だということだ。」

「う・・・うん。」


涙を拭って鼻水をすすり、そのアルム石をウォーレンは有難く両手で受け取った。


しばらくしてから、第6王子と騎士たちの下に戻って来た2人。

義賊の仲間たちが2人に駆け寄る。


「すぐに帰ってこないから心配しやしたぜ!」

「残念ながら見失った。なあ?ウォーレン。」

「う、うむ。なかなか素早い奴だ。見失ってしまった。」


本当は、あまり探してはいない。

ただ、大切な制汗タイムに時間を費やしていただけである。


それから、ワキガ勇者一行は、第6王子とそれを護衛する騎士たちに同行して王都に向かうことにした。

第6王子が乗る豪華な馬車に同乗するように勧められたヨシハルが、頑なにそれを断ったのは言うまでもない。


騎士たちに犠牲者は1人も出なかったらしい。

危機的な状況をヨシハルとウォーレンに救われたということであった。


騎士の説明によるとこうだ。


ポルファス王国には6人の王子と1人の王女がいる。

ヒーロは末弟であり、王位継承権としては最も遠い立場である。


王子たちの母親は全て異なっている。

王のきさきは6人いるそうだ。


6人のきさきは、誰もが自分の子が王になることを望んでいる。

残念ながら、そこには表には出せない黒々とした陰湿な争いが存在しているらしい。


第6王子のヒーロはただのクソガキに見えて、非常に特殊な才能を秘めているとのことだ。

その才能が本格的に開花することを恐れて、王位継承権からは最も遠い位置にいるにも係わらず、命を狙われる危険性が付き纏うのだそうだ。


そう。

身内から命を狙われているのである。


王子も大変だ。


しかし、命の危険があるのであれば、王宮から出るのは得策とは思えない。

王宮の中にいる方が安全なはずである。


その命の危険性を冒してでも、第6王子が外に出たのには理由がある。

ヒーロの母親は王宮にいない。


不治の病を患っており、優秀な医者がひっそりと暮らすとある村で養生しているというのだ。


その優秀な医者が王宮に来れば事済ことすむことである。

だが、その医者は頑固として村から出ない。


まだ幼いヒーロ。

仕方なしに3ヵ月に1度だけ、その母親の下に会いに行くことが許されているそうだ。


今はその村を出て、王宮に戻る為の飛空艇を待たせてある場所に向かう途中であり、そこで襲撃にあってしまったところを勇者に救われたとのことであった。

因みに魔物から襲撃を受けたのは、今回が初めてとのことである。


「ふ~ん。よくありそうな話だな。」


それを聞いたヨシハルは、あまり興味がわかなかった。


幼いヒーロが、母親と一緒にいることが出来ない点は可哀想だと思う。

しかし、世の中は誰しもが色々な苦難を抱えていて当然なのである。

そこに変な同情をするヨシハルではない。


一行は、飛空艇が待機する場所に到着した。

豪華な馬車がそのまま艇内に入る大きさである。


騎士たちは、勇者一行にこのまま飛空艇に乗って王宮まで同行してはもらえないかと懇願してきた。

それを断るヨシハル。


ヒッチハイクは断固致しません。


ただでさえ命を狙われているヒーロが、勇者と共に帰還したとなれば必ず良からぬことが起きる。

そう言って、騎士たちを説得して断ったのであった。


護衛の騎士たちとは、王都に到着した後に身支度を整えてから、改めて王宮に挨拶に伺うと約束をして別れた。


別れ際、飛空艇の窓から元気に手を振ってきたヒーロ。


まだクソガキだが、境遇にめげずに頑張れよ。

と、ヨシハルは思った。


勇者だけが持つ特殊な能力が発揮されて出会った第6王子。

もちろん、これは運命である。



ワキガ勇者一行は、それから何時間かして王都に到着した。


王都は周囲を高い城壁に囲まれた城郭都市。

その上空には、空に浮かぶ大きな島が見える。


一行は、まずは拠点にする屋敷を探すことにした。


今日1日で見つかるとは思っていない。

とりあえず情報を集めて、今日は良さげな宿を探して泊まる予定だ。


因みにヨシハルは、第6王子ヒーロの護衛騎士から貰った白い布をターバンのように頭に巻いている。

この世界では、銀色で長い髪は女神様からの祝福を受けた者だけの特徴であり、それだけで勇者だと身バレする可能性があると聞いたからだ。


ヨシハルは、自分が勇者だと周りに宣伝して回る気はない。

さて、どうやって拠点にする屋敷を探そうかなと考えていたところ、一つの看板が目に留まる。


- 情報屋ヘイブル -


ヨシハルは、そこに入ってみることにした。


殺風景な店内。

特別何か怪しいものがあるわけではない。

しかし、何やら若干怪しい気配が漂っている。


「匂うな・・・。」

小さく呟いたヨシハル。


「えっ!ヤバい?我、くさいかな?」

顔面蒼白で焦るウォーレン。


「まだ大丈夫だ。そうじゃなくて、ここは普通じゃないな。」

「そ、そうか。良かった・・・。」


そのウォーレンが、王都について真っ先に買物したのは腰に下げるポシェットである。

その理由は言うまでもない。


因みにヨシハルは小さな蓋付きの空き瓶を2つ購入しておいた。

それは、純度の高いアルコールを入れ替えて常に持ち歩く為である。

もちろん、アルコール依存症ではない。

アルコール消毒の為。


「いらっしゃいませ。どのようなご用件ですかえ?」


店から出てきたのは老婆。

赤い頭巾を被った皺だらけの小柄な老婆であり、両手で杖をついた格好で声を掛けてきた。

その服装は灰色で上下が繋がっているオールインワン。

しかし、足元は茶色のブーツであり、ただの老婆とはどうしても思えない。


「すまんが、俺たち全員で住める屋敷を探している。出来ればその家族もな。その情報を買うとしたらいくらだ?」


細い目をカッと見開いた老婆。


「ふぇふぇふぇ。それはどちらのことかえ?」

手のひらで、銀貨を表と裏に交互にひっくり返す老婆。


・・・・・・・。


「表だ。」


質問の意味を正確に理解した訳ではない。

だが、表社会と裏社会の意味ではないかと解釈したヨシハル。


「ふぇふぇふぇ。情報だけではなく土地建物取引の手続きもできますが・・・これはお持ちなのかえ?」

親指と人差し指で輪っかを作り、所持金はあるのかと確認してくる老婆。


「大丈夫だ。」

「ほほう・・・。」


ヨシハルを見定めるように見る老婆。

何かに納得したように振り返ると、店の奥に声を掛けた。


「レイ、レイや。」


・・・・・・・。


店の奥から出てきたのは若い優男。

耳かけのショートヘアは深い茶色で、白い半袖シャツに髪の色と同じ濃茶色のオーバーオウルを着ている。


「お客様が、この人数と家族で住める屋敷をご所望だえ。」

銀貨の表面を見せながら若い優男に伝えた老婆は、ヨシハルたちに振り返った。


「この子は私の孫ですえ。この子に案内させますえ。」


両腕を頭の後ろで組んだ姿で近寄ってくる若い優男。


すると。

ヨシハルは反応した。


【絶望の脇臭オーラレベル】

――――――――――――――

Lv.0 ■□□□□□□□□□ Lv.10

――――――――――――――


フェロモン脇臭オーラである。


「レイ、君は女性だな?」

ちょっと後退り気味になって質問するヨシハル。


その横ではウォーレンと仲間たちが首を傾げた。

目の前にいるのは、その格好からすると若い優男にしか見えないのだ。


・・・・・・。


「参ったな。初対面でいきなり見破られたのは初めてだ。」

「ふぇふぇふぇ。どうやらお客様は只者ではございませんねえ。」


まじで!?という顔で驚く仲間たち。


「それにしても、初対面の相手に女かと尋ねる君はスゴイね。」

「す、すまんな・・・つい。」


「何でバレたのかな? 教えてくれる?」

「それよりも、そっちは何で男装しているんだ?」


フェロモン脇臭オーラが反応したからなんて、口が裂けても言えないヨシハル。

何とか話をはぐらかしたかった。


自業自得。


「ふぇふぇふぇ。さすがは勇者様だえ。」

「えっ!? そうなん?」


老婆の言葉を聞いて驚くレイ。


「なぜ分かった?」

「ふぇふぇふぇ。その銀色の髪をお隠しになられても、そのオーラは隠しきれませんぞえ。」


なんだとーーーーーーー!!


ヨシハルは焦った。

その横で一緒になって焦るウォーレン。


老婆が言っているのは、きっと絶望の脇臭オーラのことではない。

しかし、なかなか手強そうだ。

この老婆には全てを見破られてしまうような気がする。


ぎこちなく笑顔を作るヨシハル。

「ほ、本題に戻ろうじゃないか。その表の・・・屋敷はあるのか?」


左手を顎にあてて考え込む老婆。


「あるにはありますが、ちといわく付きですえ。」

「それはあれか? 幽霊とかか?」


「そうですえ。没落貴族の屋敷でしたが、夜な夜な出るらしいですえ。」

「他にはないのか?」


「残念ながら・・・いまのところは皆さんが一緒に住めるような屋敷の情報は、他にないですえ。」

「そうか・・・・。」


「でも、その屋敷には良いところもありますえ。」

「何だ?」


「天然の温泉が湧いてますえ。温泉がある屋敷は貴重ですえ。」

「買う。そこに決めた。」


「へ?」

呆気に取られる老婆。


ヨシハルはウォーレンを見た。

同意して力強く頷くウォーレン。


「いやいやいやいやっ!そこはダメでしょーーーー!!!」

全力否定する仲間たち。


ヨシハルとウォーレンの2人には、仲間たちが否定する声など全く耳に届かない。


だって、ワキガにとってお風呂大事だもん。

いちいちお湯を沸かしてそれを溜めてなんて、そんな時間は待てないもん。

すぐに入りたいもん。


「見てもないのに決めてよろしいのですえ?」

「もう決めた。いくらだ?」


「ふぇふぇふぇ。面白いお方だえ。前金で金貨500、手続きが完了したら残り金貨500だえ。」

「分かった。換金手数料分を含めて、これでどうだ?」


ヨシハルは深紅乃奇跡クリムゾンリーフを3枚取り出した。


「ふぇっ!?」

それを見て驚く老婆。


ラタの町でフクダンから教えてもらったところによると、深紅乃奇跡クリムゾンリーフの価値は1枚で金貨200枚は下らないらしい。

それが3枚なら、老婆に得はあっても損はないはずである。


「ふぇふぇふぇ。本当に面白いお方だえ。因みに後で契約を解除したいと申されても、この前金はお返しできないだえ?」

「構わない。手続きを進めてくれ。」


「ふぇふぇふぇ。かしこまりました。勇者様、どうぞこれからもご贔屓に。」


俺たちは、老婆から血の契りと呼ばれる判が押された書面を受け取った。

この世界ではこの血の契りが信用であり、様々な契約や証明に使用されるそうである。


レイに案内されて、いわく付きの屋敷に向かうワキガ勇者一行。

嫌々ながらについてくる仲間たちを他所に、ワキガ勇者とワキガ戦士はウッキウキであった。

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